旬のお魚かわら版

No.85 ニギス

2024.03.15

旬のお魚かわら版 No.85(2024年3月15日)


 今回はスーパーで稀に見かけることがありますが、特に関東ではどちらかといえばなじみの薄い「ニギス」です。

 ニギスはニギス目ニギス科の魚で、近い種に「カゴシマニギス」がいます。下顎が上顎より出ているものが「ニギス」で、逆に上顎が下顎より出ているのが「カゴシマニギス」です。

 ニギスは大衆魚には違いないのですが、日本海側での漁獲が多いので、関東や太平洋側ではまだ食べたことがないという人もいると思います。

 筆者(秋田県出身)も子供の頃に食べた記憶があるのみで、東京に住んでからは食べていません。

ニギス
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 ニギスには日本海系群と太平洋系群という2つのグループがあります。

 同じ種類ですが、2つの系群は生物学的特性が微妙に違っています。例えば寿命は日本海系群が5~6歳、太平洋系群が3歳となっています。また成熟年齢は日本海系群が1.5~3歳、太平洋系群が2歳となっています。

 生息域は青森県から房総半島を通り土佐湾までの太平洋沿岸と、青森県から九州北岸の日本海沿岸、東シナ海の大陸棚縁辺部から台湾南部までと広域です。

 日本海のニギスは水深60~200mの砂泥底に分布していて、魚体が大きくなるに従い水深の深い所に移動します。

 産卵はどちらの系群もほぼ周年行われますが、春と秋が産卵盛期となります。


 ニギスは地域によってはメギスとも呼ばれますが、これは頭が小さい割には目が大きいから。また、ニギスは漢字で「似鱚」と書きますが、これはシロギスに似ていることが由来です。なお、シロギスはスズキ目キス科に属しており、ニギス目のニギスとはかなり離れた種の魚となります。

ニギス生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフはニギス類の年別漁業生産量(1956~2022年)の推移です。

 昭和46(1971)年の22,445トンが特異的に多かったことを別にしても昭和40年代から50年代にかけてニギスの漁獲のピークがあり、この頃が最も資源的にも豊富だった時代ともいえるでしょう!平成年代に入ってからは、このグラフにもあるように漸減傾向が続いており、現在でもその傾向に変化はありません。直近の2022年の生産量が2,075トンですから、今はピーク時の10分の1にまで落ち込んだことになります。

 ニギスの漁獲量の7~8割を占める日本海系群の資源量指標値は1970年代に最高値を示しましたが、現在ではその半分程度となっていて、やはり減少傾向が顕著です。

 なお、ニギスはほとんどが底曳網漁法で漁獲されます。この漁法には様々な魚種が混獲されるという特徴があります。そのため漁獲後には1網ごと(1回の操業ごと)に船上で種類やサイズなどで選別する作業が必要となります。ニギスを狙う操業の場合はよいのですが、ニギスは目的外で他の魚を狙う操業でニギスが混獲された場合、市場価値の相対的な低さや作業の煩雑さなどから、サイズの小さなものは洋上投棄されてしまうケースもごく一部である、という話も聞きます。鮮度劣化の速さや市場価値、作業効率などさまざまな要因があり止むを得ない事情もあるのかもしれませんが、網目や作業工程の見直しも含め、さらなる有効利用がされてほしいと思います。

ニギス漁獲割合
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフは生産県別の漁獲割合(2022年)です。

 漁獲量のトップが石川県で島根県、新潟県と続き、4番目で太平洋側の愛知県が登場します。5番目以降は再び日本海に面した県が占めているのです。その意味では昭和年代から現在まで日本海主体の生産構造は変わっていないと言えます。

 下の表は(一社)漁業情報サービスセンター「おさかな広場」のデータから主要漁港の2023年と2022年のニギスの水揚量と価格を整地したものです。

 この表でも分かるように、2023年は金沢港の水揚げが約6割で、小名浜(福島県)と八幡浜(愛媛県)の2港を除くと全て日本海側になっています。2022年は金沢港が約9割と更に高い割合です。つまり、かなり長い間日本海主体の漁場、水揚港という構造は余り変わっていないとうことになります

 産地価格は300円台で推移しており、昨年は水揚量が少なかったこともあり、400円近くにまで上昇しています。

 少なくとも21世紀に入る前はニギスはどちらかと言えば安い魚のイメージがありましたが、近年の単価の推移をみる限りは必ずしもそうしたイメージにはそぐわないようにも思えます。

ニギス水揚量
出典:(一社)漁業情報サービスセンター「おさかな広場」

 ところで、データがないのではっきりしたことは言えませんが、ニギスの多くは干物を始めとした加工原料として利用されていると思います。ニギスは水分が多いといわれ、干物にすることで水分がとび、うまみが凝縮して美味しくなるのでしょう!

 また、ニギスはくせの無い白身魚で刺身、煮もの、焼き物、揚げ物、すり身(汁物)となんでもござれ、です。

 特に現地で刺身を食べたことのある人に聞くと、脂も適度にのっていて非常に美味しいといいます。とは言え、刺身は東京では無理ですから、やはり現地で食するのが一番の御馳走になると思います。

筆者の今年の目標は「ニギスの刺身を食べること」にして、安魚という自身の過去のイメージを払拭したいものです。

 北陸新幹線の延伸に伴う金沢~敦賀間の開通も3月16日です。まだ能登半島地震の復旧・復興も始まったばかりですが、是非現地で美味しい「ニギス」に出会えますように!

ニギスイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

旬のお魚かわら版

「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!