よしこさんはアジを何匹買ったのか?

受験のシーズンですね。


今回は趣向を少し変えて、算数の問題を解いてみましょう。


ちょっと面白い問題を見つけました。


【問題】
よしこさんは魚屋さんで次の魚をどれも1ぴき以上買い、ちょうど3600円分買いました。
1ぴきあたりの値段はサバ130円、アジ170円、イワシ78円、サンマ104円でした。
さて、よしこさんはアジを何びき買ったことになるでしょうか。


これは約30年前の1992年に実施された「第1回算数オリンピック」で出題された問題です。


問題文で気になるのは、よしこさんの青魚への愛。好きさ加減が半端ではありません。いったいどんな献立だったのでしょう。


そして、30年前とはいえ、一匹の値段にしてはサバがやたら安いですね。


では、解いてみてください。


みなさんが問題を解いている間に雑談でもしますかね。


よしこさんが大好きな青魚は漁獲量の変動が大きいことで知られています。


問題文の青魚4種類の20年前、10年前、最近の漁獲量の推移です。


*農林水産省「海面漁業生産統計調査」(100t単位で四捨五入)
2003年 2013年 2021年
マイワシ 5万2000t 21万5000t 63万4000t
マアジ 24万2000t 15万1000t 9万t
マサバ 32万9000t 37万5000t 44万2000t
サンマ 26万5000t 15万t 2万t

ここでは恣意的にマイワシとしましたが、イワシ類といえばマイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの3種で、漁獲量的にはマイワシ、カタクチイワシの2種が主役です。


1980年代に約700万トンも獲れたマイワシは90年代に入ると日本近海から忽然と姿を消し、代わりにカタクチイワシやサンマが豊漁になりました。マイワシは高級魚扱いとなり、養殖できないかという話も出たほどです。


ここ数年は姿を消していたマイワシが増え、逆にサンマがまったく獲れなくなってしまいました。


増えたり減ったり、不思議ですよね。


漁獲データは過去100年ほどしかありませんが、それ以前の情報は江戸時代のイワシ問屋の台帳などからおおよその傾向は推測できます。


これによると、マイワシの豊漁期にはカタクチイワシ、マサバ、マアジは不漁で、マイワシが獲れない時期はカタクチイワシ、マサバ、マアジがたくさん獲れるという、一定の周期で海の資源が変動することがわかっています。


この現象は「魚種交替」と呼ばれていて、主な原因は海水温の変化だということです。


10年ほど前(まだマイワシが少なかった頃)、魚類資源の研究者に尋ねたところ「数年のうちにマイワシはより増える」と予測されていたのがまさに的中したのですが、このとき研究者はこうも言いました。


「マイワシが増えると魚種的な多様性は単調になるんですよ」。


どういうことなのでしょう。


マイワシは生まれて2年程度で卵を産むようになります。


マイワシの稚魚は、動物プランクトンだけではなく、植物プランクトンも餌にして成長できる特徴を持っているので、動物プランクトンを餌に成長する他の青魚よりも有利に増えることができるのだそうです。


すると増えたマイワシが動物プランクトンを食べ尽くし、おまけに他の魚の仔魚も餌にしてしまうので、他の青魚は少なくなり、マイワシだけが増えるというわけです。


しかし、本来、寒冷な海を好むはずのマイワシが、海水温が上がっているのにもかかわらず増えているというのは奇妙な話です。


もしかすると水温が低ければ、もっと爆発的に増えたのかもしれません。


ただ、「魚種交替」はあくまで仮説です。


データは主に20世紀以降。江戸時代の文献を含めても約400年しかありません。地球規模で考えれば非常に短いスパンです。


そこで注目されたのが、海底堆積物中のイワシ類の鱗でした。


2017年。愛媛大学の研究チームが衝撃的な発表をしました。


大分県別府湾の海底堆積物中のイワシ類の鱗から、過去2800年の魚の個体数の長期変動を明らかにしたのです。


すると、マイワシとカタクチイワシには数十年ごとの周期変動は度々認められるものの、「魚種交替」を示す時期はわずかしかないことが判明したのです。


むしろ長期の記録からは、どちらも増える時期もあれば、両方減る時期もあるなど、多様なパターンのあることが認められました。


つまり、20世紀に観測された周期的な魚種交替はたまたまだったのかもしれないのです。


20世紀は1970年代にペルー沖のカタクチイワシ資源が崩壊すると日本や南米沖でマイワシが増加し、1990年代にマイワシ資源が崩壊すると今度はカタクチイワシが増加するという世界的な魚種交替が起こっていました。


こうして交替しながらイワシ類は世界に安定供給されていましたが、この研究によると、「私たちが依存している自然環境から得た資源は必ずしも安定的に供給されるものではないということがわかった」(愛媛大学 加(くわえ)研究室 HP)のです。


つまり、数十年間に渡りマイワシもカタクチイワシもいない時代もあるわけです。


もしも、そんな事態が起これば、イワシ類は食料としてだけではなく飼肥料としても重要な位置を占めていますから、世界的混乱が起きるのは必須です。


そうなったら、どうする……こういう問題を解くのは容易ではありません。


それに比べれば、冒頭の算数の問題を解くのは簡単なはず。


さて、いかがです、解けましたか?


サバをx匹、アジをy匹、イワシをz匹、サンマをw匹買ったとすると、130x+170y+78z+104w=3600という方程式は浮かびましたが……。


恥ずかしながらお手上げだったので、塾の講師経験のある友人に助けを求めました。


「問われているのはアジの数だよね。他の魚の数は問題にされていない。なら、注目すべきポイントはアジと他の3種類の魚の値段の違いでしょう」


――170と「130、78、104」の違い?


「逆に130と78と104の共通点ってなんだろう?」


これに気づくと解は自然と導かれるのだそうです。


――だめだ、降参。


答えは130=13×10、78=13×6、104=13×8。


「130、78、104」の共通点はどれも13の倍数ということです。


13の倍数なんて見えづらいですよね。これがすぐに見つけられる人は数のセンスがいい人なんですかね。


一方、170は13の倍数ではありません。170÷13=13…1。13あまり1。


アジを買わずにサバとイワシとサンマの3種類を買ったとすると、それぞれの値段は13の倍数ですから、どんな組み合わせでも合計金額は13で割り切れます。


で、もしもサバ、イワシ、サンマに加えてアジを1匹買ったとすれば、合計金額を13で割ったあまりは1となります。


例えば、すべて1匹ずつ買った場合、サバ130円+イワシ78円+サンマ104円+アジ170円=482円。これを13で割ると37…1。


あまりは1です。


サバ、イワシ、サンマを100匹ずつとアジを1匹でも、合計金額を13で割るとあまりは1です。


もうお分かりになった方も多いと思いますが、サバ、イワシ、サンマを1匹ずつで、アジだけ2匹買ったのなら130+78+104+(170×2)=652。これを13で割ると50…2。


あまりは2です。


このようにアジを1匹購入するごとにあまりも1ずつ増えていく。つまり合計金額を13で割ったあまり=アジの数なのです。


問題の合計金額は3600円ですから……


3600÷13=276…12。


あまりが12ということは、買ったアジは12匹だとわかるのです。


他の魚の数も気になりますが、これは複数の組み合わせが可能(たぶん25の組み合わせ)で、例えばサバ1・イワシ17・サンマ1匹でも、サバ2・イワシ6・サンマ8匹でも、サバ9・イワシ1・サンマ3匹でも、アジ12匹と合わせると3600円になります。


ちなみにアジが25匹でもあまりは12ですが、この場合アジだけで170×25=4250と3600円を上回ってしまいます。


ということで答えは12匹なのです。


*参考資料
算数オリンピック委員会HP
愛媛大学加研究室HP

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