旬のお魚かわら版

No.84 メヒカリ

2024.03.1

旬のお魚かわら版 No.84(2024年3月1日)


 今回は福島県の水産業復興イベント等でお馴染みの魚となった「メヒカリ」です。

 メヒカリと書きましたが、これは市場や地方での呼び名なのです。

 分類学的にはヒメ目アオメエソ科に属するアオメエソやマルアオメエソを総称してメヒカリと呼んでいます。これらのうち、マルアオメエソは銚子以北の太平洋岸に生息し、アオメエソは相模湾から九州までの太平洋岸に生息すると言われています。ただ、近年では両者を同一種とみなす見解も出てきているようです。

メヒカリ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 メヒカリは主に沖合底曳網漁業により漁獲される深海性の魚で、水深45~600mに分布しています。

 後述のとおり、生態などがまだ解明されていない魚ですが、一部の調査結果によると、東北地方太平洋岸では秋季には主に250m以深の深場に分布し、春季には250m以浅の浅場に移動するとされています。また東北海域では200m以浅には大型個体が多く、200~300mには小型と大型個体が混在、300m以浅では小型個体が多い。また、土佐湾では成長に伴って深場に移動するとされています。

 寿命は少なくとも4歳以上で、産卵場は黒潮の上流域にあり、仔稚魚は黒潮に乗って日本列島の太平洋岸各地に分散・移動し、定着するようです。

 残念ながら、メヒカリ(アオメエソ類)については国による漁業生産統計や水揚統計が公表されていません。また、生態や資源動向もまだ不明な点が多く、国としての資源評価も調査が始まったばかりのようです。そのため、これまで紹介してきた魚種とは異なり、漁獲動向などをグラフで示すことが難しい魚です。

 そこで、メヒカリを多く漁獲している太平洋中部海域の沖合底曳網(1艘びき)を対象とした、メヒカリを含む漁獲物全体についての資源調査(国が実施している令和3(2021)年の資源評価調査)の報告書データを参考にして図示したのが下のグラフです。

メヒカリCPUE
出典:水産庁「令和3年資源評価調査報告書」より

 CPUE(Catch Per Unit Effort)とは「単位漁獲努力量当たりの漁獲量」を示す専門用語で、この場合は1網(曳網)当たりの漁獲量のことです。

 このデータによれば、2001年から2008年まで総じてCPUEは増加を辿り、それ以降は2020年まで概ね50~80㎏(1網)と変動しながら推移しています。

 また、メヒカリについては、宮城、茨城、千葉、宮崎、高知などでそれぞれ県単独の資源評価結果を公表しています。

 これらの結果を総合的にみるとメヒカリの資源水準については低位の評価はなく、中位から高位とされ、その動向は減少とされています。

 資源の維持・回復の取り組みが行われていないところも多いのですが、課題として継続的なモニタリングや情報収集の必要性が指摘されています。


 さて先日(2月21日)、BS朝日で「魚が食べたい!」が放映されていて、愛知県蒲郡市の形原漁港がそのロケ地でした。この番組ではテレビ局のディレクターが美味しい魚を求めて全国の漁港を巡りながら、地元で魚にありつくという内容になっています。形原漁港は沖合底曳網漁業の基地であり、メヒカリの水揚げも多くあります。

 番組では、早朝の港で焚火を囲み、暖をとりながら元漁師や現役漁師の話を聴く場面がありました。以前は船ももっと多くいてメヒカリもたくさん水揚げされていた、と寂しそうに語っていたのが印象に残っています。その人たちが言うには、メヒカリは何といっても刺身が一番!とのこと。

 残念ながらその日はメヒカリの水揚げがなく、冷凍保存されていたメヒカリを使った天ぷらを食べていましたが。


 冒頭で述べたとおり福島県もメヒカリが名物で、いわき市では「市の魚」に指定されています。

 2月17日に、東京・築地場外の「築地魚河岸」でJF福島漁連主催「のぞいて、食べて、福島県漁業を知ろう 福島県漁業の今と試食会」が開催されました。震災後13回目の開催で、前回非常に好評であったメヒカリのにぎり寿司が振る舞われたそうです。筆者は、唐揚げや素揚げ、焼き魚ではメヒカリを食べたことはありますが、刺身や寿司はまだ未体験ゾーンです。やはり生魚の料理は現地で!ということなのでしょうか。

 それにしても、40~50年前に比べるとメヒカリの商品価値は格段に上昇しています。かつて、いわき市の小名浜市場周辺に小売りの魚屋さんが何件もあり賑わっていましたが、当時は丸い笊の中にメヒカリが沢山入ってひと山○○円で安く売られていました。筆者も出張した折によく購入した覚えがあります。おそらくその頃が筆者にとってメヒカリを最も多く食した時代だったと思います。

 また、10年以上前になりますが、宮崎県延岡市の北浦漁港に立ち寄った折、丁度沖底船がメヒカリの水揚げをしている最中で、高齢の夫婦で水揚げ作業をしているのを見ていたことがあります。メヒカリが入ったトロ箱が次々と水揚げされ、手際よく重ねられていました。既にこの頃にはメヒカリも中・高級魚に格上げされていたので、水揚げ風景を見ながら、日建て10万円超えるかな!と、思いながら今後の好漁を祈ったものでした。


 何れにしろ、いつも並んでいる訳ではありませんが、スーパーでも時々見かけることがありますので、見つけましたら、即買うことをお勧めします。焼いても揚げてもおいしい魚なので!!

メヒカリ唐揚げ
メヒカリの唐揚げ
メヒカリイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

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