旬のお魚かわら版
No.83 マイワシ
2024.02.16旬のお魚かわら版 No.83(2024年2月16日)
今回は国内で最も勢いのある「マイワシ」です。
マイワシはニシン目ニシン科に属していますが、体にみられる黒い斑紋が無ければ、かなりニシンに似ているようにも見えます。
その黒い斑紋ですが、マイワシには斑紋があるものと無いものと二つのタイプがあります。また、斑紋があるものでも1列や2列のものもあり、薄く3列になっているように見えるものもあるようです。今、マイワシは周年売られていて、丸の姿を見る機会が多いので、見比べてみると新しい発見があるかも、です。
黒の斑紋ついでに言えば、地域によってはマイワシを「ナナツボシ」と呼ぶところもあります。
主な生息域は、北海道沿岸から九州の各地沿岸まで幅広く、その他に中国の黄海沿岸、台湾、朝鮮半島沿岸、沿海州、サハリン沿岸にまで及んでいます。
ちなみにカリフォルニアマイワシは、日本のマイワシと同じ仲間で非常に形も良く似ています。少し違うといえば、黒の斑紋が大きくて数も多いそうです。
寿命は7~8歳くらいですが、それくらいまで生きるのは稀で総じて4歳位で一生を終えます。
下のグラフは日本のマイワシの漁業生産量(1956~2022年)の長期推移です。
昨年来、各地で大量のマイワシが浜に打ち上げられたり、沿岸の定置網に大量に入網したりというニュースがたびたび報じられ、話題満載の魚となっています。
すでに終わりましたが今月は節分があり、下のHIKARIさんのイラストのとおりマイワシと縁のある季節でもあります。
マイワシは資源量の増減幅が大きく、長期的に豊漁と不漁を繰り返すことが知られています。近年、サケやサンマ、スルメイカなどの大不漁が続くなかでマイワシは漁獲量が増加している数少ない魚で、昨年も70万トン前後の漁獲があり、魚種別で最も多く獲れた、勢いのある魚となっています。
グラフのとおり、日本のマイワシの漁獲量は1988年の448万トンをピークにその前後10年間は100万トンを超えていました。当時は海から湧いてくるように魚群がいて、北海道や三陸では大漁で網が破れることなどもありました。また、当時の道東の漁港では、海鳥が周辺の道路で倒れているのを見かけると「イワシを食べすぎて動けなくなり車に轢かれて死んだのだ」などと言われました。そしてその後(1990年代以降)、マイワシが殆ど獲れなくなった時代には同じ光景を見て「イワシが獲れなくなり飢えて死んのだ」と言われました。何れにしろ、イワシの豊漁・凶漁にまつわる漁港でのエピソードです。
前述のとおり、現在マイワシは豊漁でここ5年ほどは魚種別でトップの漁獲量がありますが、往時の漁獲量にはとても及びません。また、1997年以降はマイワシの漁業にTAC(漁獲可能量)制度が導入されています。研究機関による水産資源調査の結果などを踏まえ、毎年の魚種別の漁獲量の上限を国が定めるという制度ですので、単一魚種で往時の400万トンレベルの漁獲をするということは「夢のまた夢」かもしれません。
一方で、水揚げ地における水産加工や物流などでの処理能力にも限界があります。1980年代前後とは異なり、現在は水揚げ地によっては漁獲物を引き受けて各種の加工や運送などを行う業者の数が減っているところもありますので、その処理能力を超えるような水揚げがあれば産地として対応できないことになり、そうした側面からも単一魚種で400万トンの漁獲というのは現実的ではないと思います。
ということで、次に、各地で水揚されたマイワシはどのような目的で出荷され、利用されているのか、代表的な3漁港についてほぼ10年毎の調査結果(用途別出荷量)を下の表にまとめてみました。
海に囲まれている日本には多くの漁港がありますが、それぞれ歴史的な背景や地理的・経済的条件などの違いもあって、大きな漁港であれ小さな漁港であれ、それぞれ特徴を持っています。こうした違いにより、水揚げされた魚が主にどのような用途に向けられるかが決定づけられます。
上の表では、2003年の釧路の水揚量がゼロになっていますが、当時は全国的に漁獲がとても少なかった時代であり、八戸や銚子も少なかったことが分かります。
2022年は3港とも水揚げが増加していますが、その用途の特徴は異なり、釧路は9割近くが魚粉(フィッシュミール)・魚油向けに、八戸は7割近くが養殖用または漁業用餌料に向けられています。銚子は首都圏にあることから鮮魚向けが比較的多く3割弱、養殖用または漁業用餌料に約半分が向けられています。その他にも銚子ではすり身・練り製品や缶詰という水産加工品原料向けも目立ちます。
もっとも1980年代のマイワシ大豊漁時代でも、釧路では90%以上がフィッシュミール向けでした。そういう意味では昭和年代の大豊漁時代は、大量水揚げ→大量処理といったサイクルが普通であり、そうしなければ陸上の処理が間に合わなかったとも言えます。
現在ではTACも設定され爆発的な漁獲は望めませんし、またサンマやサケなどの漁獲量が大きく減っている中で、むしろイワシを直接的な食用魚としてもっと多く利用するよう、各地の水産関係者は日々苦労されています。
今回はマイワシの水揚げが多い3漁港についてみましたが、いずれ他の魚種や他の漁港についても調べてみたいと思います。
節分は終わりましたが、2-3月にかけてマイワシは上半期最大のピークを迎えます。そして日本列島の何処かでマイワシの好漁の声を聞くことができるでしょう。
捌くのも比較的簡単、刺身良し、焼いて良し、煮て良し、揚げて良し、すり身でも良しのマイワシに注目しましょう!!
旬のお魚かわら版
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