旬のお魚かわら版

No.82 スケトウダラ

2024.01.31

旬のお魚かわら版 No.82(2024年1月31日)


 今回は冬の魚の代表的なものの一つである「スケトウダラ」です。

 分類上はタラ目タラ科マダラ属になります。非常に近い仲間のマダラに見た目が似ていますが、違いもあって、一番わかりやすい区別方法は下顎が出ているのがスケトウダラで上顎が出ているのがマダラとなります。また、スケトウダラの方がスリムな体形をしています。

スケトウダラ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 生息域は、北海道沿岸域全域、日本海から沿海州、太平洋側は和歌山県沿岸まで。北海道より北の遠洋ではカムチャッカ沖からベーリング海まで広く分布しています。

 また、生息深度で見ると、100~400mの深度帯に広く分布する中層域の魚です。

スケトウダラ生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」

 上のグラフは全国のスケトウダラの生産量の推移(1956~2022年)です。

 グラフのとおり漁獲量のピークは昭和47(1972)年の3,035,285トンで、主力は北洋漁業でした。昭和30年代後半から40年代にかけてが北洋漁業の最盛期で、北転船=北洋転換底引網船(遠洋底引網船の一種)などが、遠くカムチャッカ沖やベーリング海まで繰り出し操業をしていたのです。

 しかし、一時隆盛を極めたこの北洋漁場も資源の悪化に加え、1976~1977年にかけて当時のソ連や米国が漁業専管水域(いわゆる200海里水域)を設定し様々な漁獲規制を実施した結果、日本の遠洋漁船による漁獲量は大幅に減少していくことになりました。

 21世紀に入ってからはグラフのとおり1~3万トンの漁獲レベルで推移し、かつて300万トンを超えていた時代からすると百分の一程度まで落ち込んでいます。

 現在北転船はすでになく、主に北海道の沿岸や沖合で、底引網、刺し網、延縄などの漁法で漁獲されています。そのうち、鮮度の良いものは鍋もの用の切り身で販売され、北海道では学校給食(フライなど)の食材としても供給されていますが、やはり卵とすり身で重宝される魚です。

 卵については、北転船の時代から抱卵したメスの方がオスよりも価値があり、その点では秋サケのメスや秋田のハタハタのメス(メスの方が単価がオスより高い)によく似ています。魚卵好きの日本人ならではの消費傾向です。

 また、魚卵を取り除いたスケトウダラの身はガラと呼ばれ、その大半はかまぼこ等の原料となる冷凍すり身生産に向けられます。しかし、国内漁獲量の大幅な減少などにより国産すり身の生産量も減ってしまい、現在はほとんどが輸入の冷凍すり身に置き換わっています。

かまぼこ生産量
出典:農林水産省「水産加工統計調査」

 昭和年代はともかく、現在スケトウダラやマダラの姿は産地か魚市場以外ではみる機会が少なくなっていて、鮮魚も切り身で売られていますので、もともとどのような姿をした魚なのかを想像できないという人も増えているかもしれません。逆に言えば原魚からは全く想像できないような形に姿を変えて私たちの前に現れているのです。その代表が先に述べたかまぼこや魚肉ソーセージなどの練り製品です。

 上のグラフは、農林水産省の統計で「ねり製品」に分類されているかまぼこ類と魚肉ハム・ソーセージ類の生産量の推移です。

 かまぼこ類は、包装かまぼこ、かまぼこ、あげかまぼこ、ゆでかまぼこ、風味かまぼこ、その他のかまぼこに分けられています。グラフのとおり、かまぼこ類の生産量はこの30年間でほぼ半減しており2022年は41.2万トンです。

 一方魚肉ハム・ソーセージは少なくなってはいるものの、かまぼこ類ほどではなく、2022年は5.8万トンです。1992年が7万トンの生産量だったので2割弱の減少にとどまっています。

 かまぼこと言えばお正月のお節にはなくてはならない一品でしたが、今や家庭でお節を拵えることは少なくなり、デパートやスーパー、コンビニなどでの注文販売や通販でのセット商品(お重など)の取扱いが増えました。年末が近づくと一斉に宣伝が始まりますね。

 ともあれ、特に紅白の板つきかまぼこなどは年末が一番の書き入れ時になるものの、お節効果は限定的で、かまぼこ類生産量の減少傾向は止まっていません。そこで、かまぼこメーカー側も、例えば量目を減らしたミニサイズの紅白かまぼこや、最初から切れているかまぼこを製造するなど、消費者に食べてもらえるようにあれこれと工夫を凝らしています。

 また、各メーカーでは、周年販売に向く「揚げかまぼこ」などの惣菜用や鍋もの用の製品や、カニ風味かもぼこにも力を入れるようになっています。

 スケトウダラは決して単価の高い魚ではありませんし、漁獲量も往時に比べると少なくなりましたが、上記のとおり魚卵は「たらこ」「明太子」「辛子明太子」として、身肉は切り身やかまぼこなどに変身し、私たちの食卓を彩ってくれています。

 まだまだ寒い日が続きます。おでんでも囲みながらこの冬を乗り切りましょう!

スケトウダライラスト
イラスト:N.HIKARI
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