旬のお魚かわら版
No.79 アカアマダイ
2023.12.19旬のお魚かわら版 No.79(2023年12月15日)
師走を迎えてスーパーでは年末商材の入れ替えが行われていますが、今回は色鮮やかな「アカアマダイ」です。関東以北では余り馴染みのない魚になりますが、それでも時々小ぶりのアカアマをスーパーなどで見かけることがあります。
アカアマダイはスズキ目アマダイ科アマダイ属で、主な仲間にシロアマダイ、キアマダイがいて、他にもハナアマダイ、スミツキアマダイがいます。それぞれ色に関する名前が付いているのが変わっていますね!中でも最も色鮮やかなアマダイがアカアマダイというわけです。
アマダイの語源の一つに、横顔が頬被りをした尼さんに似ているから、というのがあります。またアマダイ科の中で最も色合いが赤いので、「アカ」が加えられアカアマダイと命名されたようです。
アカアマダイは、オスの方が成長が早く、寿命はオスが11歳、メスが9歳程度とされています。成長段階におけるメス・オスの全長は5歳時点でそれぞれ310mm、362mmになるとされています。
アカアマは青森県以南の我が国沿岸、東シナ海、黄海、南シナ海などに広く分布しています。アカアマダイの成魚は、なわばりを形成し、砂泥低で穴居生活を送るそうです。このため大きな移動はないと考えられています。また産卵期には、大きな成熟したオスが周辺のメスを独占し、ハーレムを形成します。
国内でみることが可能な主なアマダイ類では、シロ、アカ、キの順に水深が深い所に生息しています。主な漁法は、1本釣り、延縄、底引きとに大別されます。
上のグラフはアマダイ類の国内漁業生産量の推移(1995~2022年)です。
1994年以前のデータがないので、グラフからみる限りでは、1995年にピークがあり、その後は5年程顕著な減少がみられます。2000年代に入ってからは若干減少傾向ですがここ10年程は横ばい傾向が続いています。
国立研究開発法人水産研究・教育機構によるアカアマダイ(日本海西部・九州西部)の資源評価結果でも現在のアカアマダイの資源水準は低位とされ、資源動向は増加と判断されています。
このグラフより前の時代では、1950年代以降延縄(はえなわ)漁船が東シナ海に出漁し、1970年には山口県船の漁獲だけで1.2万トン以上あったといわれています。
ですから以前は少なくとも1万トンを超えていた時代も多かったものと推測できます。
その後と東シナ海漁場が各国(中国、台湾、韓国)との漁場競合や資源状況の悪化に伴い、アマダイ延縄漁業は急激に衰退して、中国の底曳き、底刺し網に取って代わられました。
現在(2020年)では、中国の漁獲が約3.9万トンで日本の約30倍の多さに達しています。
以前、山口県の越ヶ浜漁協(現山口県漁協越ヶ浜支店)に調査で伺ったことがあります。その時頂いた資料の漁獲統計をみてびっくりしたことがあります。ある時から延縄漁業の漁獲が激減していたのです。それが東シナ海で操業していたアマダイやフグ延縄漁業の撤退によるものだったのです。
すでに越ヶ浜の漁師は沿岸・日本海沖合での延縄・釣り漁業に転換し、アマダイやフグを対象にして漁業を営んでいましたが、漁獲量はやはり激減していたのを記憶しています。
元々アマダイ類は西の魚です。関東以北では余り馴染みがなく、食べたことのない人も多いかもです。とはいえ、年に1回位かな、スーパーで見かけたこともあります。しかし頻繁に小売店で販売するほどには至っておらず、確実なのは豊洲市場にでも足を運び購入するか、築地場外で購入するかでしょうか!
下のグラフは東京都中央卸売市場でのアマダイ類の取扱状況です。
1970年代は産地水揚量が1万トン台に達していたとみられ、東京都中央卸売市場での入荷も当時は1,000トン前後みられ、徐々に産地漁獲量の減少とともに入荷は少なくなりました。それでも一時バブル期(1992年)に向かって若干の入荷増がみられ、価格も上昇しました。
バブルがはじけた後は入荷減にもかかわらず価格は2000年代初頭まで下落が続きました。2010年以降は産地漁獲の不振とともに東京市場への入荷も非常に少なくなり、価格も上昇の一途でアマダイは高級魚としてのポジションを獲得しました。
ところでアカアマダイの刺身は意外にお目にかかることが少ないと思いませんか!アマダイ類は身質に水分が多く、余り刺身には向かないとされていますが、工夫して食べた人によれば独特の甘みがあり美味しいともされています。
また底曳きで漁獲されたアマダイ類は、サイズがやや小振りなこともあって開き干しなど加工品として利用されることが多いようです。
アカアマダイは、刺身はもちろん、焼く、煮る、蒸す、揚げる、汁ものと「何でもござれ」ですが地域によっては冷や汁などにも利用されます。
筆者は西京漬けで食べたことがありますが、サケや銀鱈とはまた違った味わいで「うまい」とやはり高級魚の一角を占めているのも故なしとしない、と思ったものです。
なお京都や福井など、関西や日本海西部地方では「ぐじ」と呼ばれ、こちらの方が一般的に呼び名として親しまれています。
旬のお魚かわら版
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