旬のお魚かわら版
No.55 タナカゲンゲ
2023.01.17旬のお魚かわら版 No.55(2022年12月15日)
今回は、ずいぶん寒くなってきたので鍋にピッタリの「タナカゲンゲ」です。この魚はまず見たことのない人の方が多いと思います。しかし主産地の山陰地方では「ばばあ」などと呼ばれて愛されている魚です。
この「タナカゲンゲ」はスズキ目ゲンゲ科マユガジ属の魚ですが、ゲンゲ科の近い種に ノロゲンゲ、シロゲンゲ、カンテンゲンゲなどがいます。何れも食用として利用されているゲンゲ科の4種です。 ちなみに「ゲンゲ」という名前は、かつて利用価値に乏しくほとんど食べられていなかったことから 「下(げ)の下(げ)の魚」に由来するとも言われますが、後述のとおり近年食用として注目され 「幻魚」や「玄華」といった趣きのある漢字が宛てられるようになったようです。
日本海沖合で漁獲されているタナカゲンゲは150-870mの深海の底に棲息していて、全長50-60cm サイズが多いようです。ただ、一般に最大1mにもなり、ゲンゲ科では最も大きいのが タナカゲンゲといわれています。体表には小さな円鱗があるようですが、見た目では判断しずらく鱗がないような感触だそうです。
海の底では上図のように固まったような格好で棲息しているといわれています。 ここには掲載していませんが、タナカゲンゲは鋭い歯を持っておりホッコクアカエビなどの甲殻類、 イカ、タコなどの頭足類やノロゲンゲ等の魚類などを捕食しているそうです。
普通この瓦版に出てくるような魚は人間に漁獲される対象になり主な漁法が存在するものですが、 タナカゲンゲは、他の魚(例えば底曳網によるズワイガニ、ホッコクアカエビ)を狙った際の副産物扱いだったことあり、 漁獲量もそんなに多くなく、日本海の主要な県(鳥取、兵庫県)の漁獲を集計しても年間100トン程度です。 ですので、基本的には限られた水揚港周辺で消費されていたというのが実態といっても良いと思います。
さて冒頭にもあるようにタナカゲンゲは、中々個性的な名前を持っています。 「ババア」「ババチャン」「キツネ」「ババダラ」など、世が世ならば・・・顰蹙ものかもしれません。
上図の「ババチャン鍋」の具材タナカゲンゲは鳥取県底魚の三大珍魚の一つで 他にはドギ(ノロゲンゲ)、オトク(ガンコ ※カジカ類の一種)があります。
筆者が、タナカゲンゲを知ったのは20年以上前に前職((一社)漁業情報サービスセンター)で 産地から送られてきたデータでドギという名前の魚を調べたときに出会いました。 そして、その後位からテレビで、「ババア」「ババチャン」だの「オジサン」だのと変名の魚の 特集(?)のようなものが一時流行ったような記憶があります。
「ババチャン鍋」は、鳥取県岩美町の名物として寒い日本海の冬を彩っています。 しっ とりとした白身とコラーゲンを含むトロトロの皮は口当たりが良く、昆 布醤油のあっさり味でも キムチ味でもいけるそうです。 冬の日本海を旅する機会があったら、是非「ババチャン鍋」をどうぞ!
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