旬のお魚かわら版
No.49 ムラサキイガイ
2022.10.18旬のお魚かわら版 No.49(2022年9月15日)
さて今回は、最近では小売店でもみかけるようになってきた「ムラサキイガイ」です。
前回に続いて二枚貝になりますが、ムラサキイガイはカキやホタテに比べると認知度は低いと思います。それもそのはずで、国内で食用とされている量が未だ少ないからです。ムラサキイガイは、通称ムール貝(以下ムール貝)と呼ばれていますが、 もちろん国の漁獲統計にも出てきませんし、東京都のデータでは「イガイ」として出てきます。ムール貝を始めその仲間のイガイも含んだ統計と思われます。ムール貝はイガイ目イガイ科イガイ属に属しており、イガイやエゾイガイなどもその仲間です。
ムール貝は、潮間帯(潮の干満により干上がったり海の中になったりする場所)から水深10m程度までの 比較的波が穏やかな場所に生息する付着性の貝で、養殖施設や岸壁などにもよく付着しています。私も小さいころ田舎の海で、小さなムール貝が海と船着き場の周辺に沢山付着していたのをみた記憶があります。
殻の外側は黒褐色で紫がかっていて、カラスガイと呼ぶ地域もあります。ムール貝は元々外来種で、昭和の初め頃定着が確認され、その後瞬く間に広がり、今では北海道から沖縄まで生息しています。ムール貝は食用として日本では新参者ですが、海外では2000年前以上から食されていたといいます。
私が最初に食べた場所は、まだ成田空港ができる前に旅行で渡欧した時のブリュッセル(ベルギー)のレストランでした。 ほぼバケツといって良いような器にムール貝が山盛り。これが前菜とのこと。 大丈夫かな?と思いながら食べた記憶があります。 この時はムール貝の他、ウナギを筒切りにし煮込んだものも食べましたが、初めて食べた この二つのメニューが強烈すぎて後のメニューは記憶のかなたに飛んで行ってしまいました。
上図は東京都中央卸売市場におけるイガイの年別取扱数量と卸売価格の推移です。このデータはイガイやエゾイガイも含まれている可能性も大きいので、厳密にはムール貝のみのデータとは言えませんが、平成元年がイガイの入荷のピークに当たっています。また、令和3年の東京都中央卸売市場の「イガイ」の入荷先は宮城県からが半分以上を占めており、 次に広島が続き、この両県でほぼ80%を占めています。
二県は養殖カキの国内トップ産地(広島は1位、宮城は2位)ですから、カキ筏などに付着したムール貝も採捕し、出荷しているものと思われます。海の栄養分が多いところで、爆発的に繁殖力が強いムール貝は、余分な養分を吸収することで、水質の悪化を防いでいる側面もあります。
ムール貝はパエリアやパスタが定番、と思われていますが、普通の鍋物や みそ汁の具材としても、出汁も良く出るので重宝するはずです。 カキ同様もっと世間に出回っても良い食材ではないでしょうか!
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