旬のお魚かわら版

No.48 イワガキ

2022.10.18

旬のお魚かわら版 No.41(2022年8月31日)


 子供たちの夏休みも今日で終わりですが、今回は夏場が旬といわれる「イワガキ」についてです。
 しかし、意外に食べたことのある人は少ないかもしれません。カキといえば、やはり冬場が旬のマガキを連想する人が多いでしょう!
 国産のマガキはほぼ全量が養殖もので、秋口から入荷が始まり春先で入荷がなくなります。その後(マガキの端境期)に出てくるのがイワガキで、後述のように天然ものと養殖ものの両方があります。
 なお学術的な分類では、マガキもイワガキもカキ目イタボガキ科マガキ属で同じグループの二枚貝です。

イワガキ
出典:島根県沿岸漁業振興課提供 水産行政情報「隠岐のいわがき」

 イワガキは、マガキに比べると貝殻が厚くゴツゴつしているといわれ、大きいものは貝殻を含めた重さが 1kgを超えるそうです。この大きなサイズのものは5年物に当たります。
 前述のとおり、イワガキは夏ガキともいわれ、夏が旬といわれます。
 ただ、美味しさの指標であるグリコーゲン量は産地によっても違うようで、島根県隠岐島では その量が2~6月に多いとされ、この時期を旬と呼んでいます。
 私がイワガキを最初に食べたのは、まだ10代後半の頃の時で千葉勝浦の民宿でした。 夕方近くに宿の主人が「ちょっと採ってくる!」といって海に向かいました。 その後、夕食の食卓にはみたこともないような大きさのカキが並んでいました。 一口では口に入りきらないような大きさで、1つ食べたら腹いっぱい、もう充分! であったかどうかは、ずいぶん昔のことで味とともに忘れましたが。


 さてかつては、天然物のみでしたが、1992年に島根県の隠岐島で全国で初めて養殖イワガキの生産に 成功しました。以来30年が経過し、現在では隠岐を始め全国各地で養殖されているようです。
 一方、天然イワガキの産地では、秋田県の鳥海山麓の町、象潟(きさかた)があります。 『奥の細道』で松尾芭蕉が「象潟や 雨に西施が ねぶの花」という句を詠んだほどの景勝地ですが、 象潟は昭和年代から天然イワガキの産地としても有名です。 鳥海山由来の豊富なミネラルを含んだ湧水(伏流水)が海底から湧き出ている環境で育つ イワガキは「象潟の岩ガキ」としてブランドにもなっています。

養殖カキ類の年別生産量の推移
資料:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」

 さて、上図は養殖カキ類の年別生産量の推移です。
 昭和年代に二つのピーク(43年:267,88トン、63年:270,858トン)があるのが分かります。
 しかし、東日本大震災のあった2011(平成23)年以降は、マガキ養殖の主産地の一つである三陸地方での減産もあって 年間で20万トンを上回る年はなく、直近では15万トン程度にとどまり、震災直後の水準にも達していません。
 なお、昭和年代は全て天然のイワガキで養殖はありませんでした。
 前述のとおり1992(平成4)年に養殖に成功したので、その頃から養殖イワガキもこのデータに含まれています。 とは言え、イワガキでは、まだ天然ものの方が養殖ものよりも多いと思います。

生鮮カキ類の入荷状況
資料:東京都「東京都中央卸売市場・市場統計情報(年報)」

 上図は東京都中央卸売市場の生鮮カキ類の入荷状況です。
 消費地市場でも、東日本大震災を境として入荷状況は変化していて2000年代前半に比べ震災以後は入荷量は停滞し、以前の水準に戻っていません。
 一方、入荷が減少したため震災後の価格は上昇し、ほぼ2倍近くになっています。
 なお、このデータはマガキとイワガキの両方を含むものですが、イワガキの入荷が多くなる5月から8月までの入荷量データについて、直近3か年と平成14~16 年の各平均値を比較すると、それぞれ2007トン、1988トンで、ほぼ同じでした。
 ですから、イワガキについては震災後も安定的な入荷が続き、需要も根付いていることが推測されます。

 カキは2000年代に入ってすぐ「オイスターバー」のブームがあり、その後2015年前後に「カキ小屋」ブームもありました。筆者も随分お世話になりました。
 しかし、新型コロナ感染症の蔓延により、これらの店もかなり苦戦していると思われます。早く何の気兼ねもなくふらりとカキを堪能したいものです。
 さてこの号がお手元に届く頃には、季節もイワガキからマガキへと移っていきます。これからは三陸産のマガキなど、ふっくらした大振りのカキフライもいいですね!

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