旬のお魚かわら版
No.96 ムロアジ
2024.08.30旬のお魚かわら版 No.96(2024年8月30日)
今回は最近あまりお目に掛かることが少なくなった「ムロアジ」です。
ムロアジはスズキ目アジ科ムロアジ属に属していて、アジ科の中でもムロアジ属は仲間が多く、ムロアジ以外にマルアジ、オアカムロ、クサヤモロ、アカアジ、モロなどの種がいます。特にマルアジはマアジと外見がよく似ていて区別しづらいのですが、マルアジの方には背びれと尾びれの間、および尻びれと尾びれの間にそれぞれ小さなひれがあります。この小さなひれは小離鰭(しょうりき)と呼ばれるもので、ムロアジ類の形態上の特徴となっています。
ムロアジ類は後述のとおり加工原料となることが多く、特に関東では鮮魚として市場流通することがあまりありませんので、なじみの薄い魚かもしれません。
ムロアジの生息域は北海道から九州南部の太平洋側、日本海側の秋田県以南の各県、東シナ海に広く分布し、特に暖流の影響を強く受ける島や礁の周辺に生息しています。海外ではオーストラリア西岸、ハワイ諸島北部、東太平洋にも分布しているとされています。
上の写真でも分かりますが、背と腹の境目には黄金色の帯が走っています。また、ぜんご(稜鱗)も他のアジ類と同様に、尾の付け根の部分まで伸びています。尾びれの下半分は、アカアジやオアカムロほどではありませんが、うっすらと赤みがかっています。
後述のとおり近年では漁獲量が少なくなっていますが、以前は干物でマアジとともに店頭に並ぶほどのメジャーな食用魚でした。しかし、その割には、ムロアジの産卵や成長など、生態や生活史に関してまだ詳細は明らかにされていないようです
上のグラフはムロアジ類の年間漁業生産量の推移です(1957~2023年)。
これを見ますと、1990年代初頭まで漁獲量には4回のピークがありました。しかし、それ以降は30年以上に亘って漸減傾向が続いており、現在ではピーク時の2割以下の漁獲にとどまっています。
ちなみに上記の農林水産省の統計では、ムロアジ類にはムロアジの他に前述のマルアジ、オアカムロ、クサヤモロ、アカアジ、モロが含まれています。それら個々の種類別の漁獲量や、外国船による漁獲実態などの詳細な情報も必要不可欠なのですが、そうした総合的な資源状況の把握にはまだ課題があるとされています。
次にムロアジの食用についてですが、産地では刺身をはじめさまざまな形で食べられています。また、消費地を含め、干物で食べられることが多く、かつてはマアジの干物とムロアジの干物の両方がよく店頭に並んでいて、消費者もマアジ派とムロアジ派にそれぞれ好みが分かれていたように記憶しています。
上のグラフは国内の水産加工品のうち主な青魚の塩干品(干物)の生産量(1992~2022年)を図示したものです。
これら4種の青魚の干物は昭和年代から現在まで私たちの食卓に日常的に上っていて、誰でも一度は食べたことがあると思います。
ただ最近はどうでしょうか?食べた記憶を遡ってもはっきり言える人は少ないと思います。
それはそのはずで、30年前と現在を比べてみても4魚種全てで干物加工生産量が減少しており、最も減少が著しいアジは5万トンも減少しています。それでも青魚の中では何とか首位の座を守ってはいますが、サバ、イワシ、サンマとの差は縮まっています。
干物加工生産量の減少要因は、一義的にはそれぞれの魚種の国内漁獲量の減少があり、それが最も顕著に表れているのがサンマです。サンマは30年前にはアジに次いで多かったのですが、近年の国内漁獲量の激減を反映し干物加工へ回る数量が少なくなったことに加え、サイズも小型化したことなどが要因となりましょう。それらの結果、4魚種の内でサンマが最下位に落ちているのが上のグラフで見てとれます。
なお、干物として製品化される魚種はかつては青魚が圧倒的に多かったのですが、近年では白身魚の割合が増えています。具体的には、タラ類、カレイ類、ホッケ類、ハタハタなどです。
青魚系と白身魚系の干物加工生産量の割合を見ますと、1992年段階では青魚系が6割超、白身系1.5割、その他の魚類が2割でした。それが2022年段階では青魚系が4割超、白身系が4割弱、その他の魚類が2割弱となり、白身系が伸びています。
特にホッケは1992年比で2.4倍となり大幅に増えていて、魚種別で最も多い干物加工原料魚となり、この20年ほどは3~4万トン台で安定した干物生産量を誇っています。なお、ホッケの国内漁獲量は減少していますが、それを輸入原料(シマホッケ)でカバーしている形となっています。
筆者の実感としても、ホッケの干物はアジやサバの干物を上回るほど普及し、スーパーの店頭だけではなく、外食産業(居酒屋や定食屋など)でも定番のアイテムとして定着していると思います。
ですので、ムロアジをはじめ、青魚も頑張れ!と言いたいところですが、業者さんの話では、従来型の干物は人気がなくなっているとのことですので、消費者に好んで食べてもらえるように一層の工夫が必要とされているのかもしれません。
そこで、暑い夏には冷や汁、冷や汁にはアジの干物(アジに限らずどんな魚の干物でも可)が定番ですので、青魚の復権にエールを送る意味でも、残り少なくなった夏(?)を惜しんで冷や汁でもいかがでしょうか!
旬のお魚かわら版
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