旬のお魚かわら版

No.98 エイ

2024.09.30

旬のお魚かわら版 No.98(2024年9月30日)


 前回はヨシキリザメでしたが、今回も同じ軟骨魚類のエイを取り上げます。

 エイ類は世界に530種ほど存在しているといわれています。

 「エイ」という名前の由来は諸説あるようですが、代表的なものに「エイの尾には棘(とげ)があり、アイヌ語で棘のことをエイと呼び、それが転じてエイとなった」、という説。もう一つは、「エイは尾が長いことから「燕尾(えんび)」と呼ばれ、転じてエイとなった」などが言われています。

 下の写真はアカエイですが、実際のエイを見たことがなくても何となくエイの姿を想像できるのではないでしょうか?

 食品としてのエイは切り身や味付けされた形で目に触れることがありますが、原形(丸)そのままの形では提供されることは少なく、恐らく水族館などで見たことのある人は、その特徴的な姿が目に焼き付いているのではないでしょうか?

アカエイ
アカエイ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 次に体の特徴や生態について最も一般的なアカエイを例にして紹介します。

 上下(背腹方向)に平たい格好で体表に鱗はなく、背中側に目と噴水口が、腹側に口、鼻孔、鰓孔(さいこう)があります。腹側の口で、主に海底にいる甲殻類などを捕食するようです。また腹側の色は背側とは全く違って白色ですが、縁辺部はオレンジで色鮮やかです。

 分布域は広く、日本の沿岸から沖合全域に生息しており、また朝鮮半島西岸・南岸、渤海・黄海・東シナ海・南シナ海沿岸、タイランド湾にも生息しています。沿岸域では浅瀬の砂地の底にもよく生息していますので、海水浴などで遭遇することも度々あるようです。前述のとおりエイ類には棘があり毒を持ちます。その棘で人を意識的に刺すことはないといわれていますが、間違って踏みつけてしまうなどして棘が刺さってしまった場合には激痛が走りますので、海岸で遊ぶときには注意が必要です。

 成熟・産卵について、雌の成熟妊娠期間は2.5か月で夏に出産します。雄は35㎝から成熟が始まり40㎝ですべての個体が成熟します。雌は50~55㎝で成熟し始め60㎝で大部分が成熟します。また、前回のヨシキリザメと同じく卵胎生で、体内で孵化、成長させてから稚魚を出産します。

エイ漁獲量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフはエイ類の国内漁業生産量の推移(1956~2006年)です(1968年は統計データが欠落しています)。

 また、2007年以降はエイ類が統計対象から除外されましたのでデータは2006年で途切れていますが、このデータをみる限りでは1950年代に漁獲のピークがあります。それ以降は減少傾向が20年ほど続き、1980年に一時的に漁獲増があったものの、その後は1990年頃まで減少し、そこでほぼ底を打ち、横ばい傾向が続いたことが分かります。その後は全国統計がないので、何とも言いようがありません。

 そこで大阪府の小型底びき網によるアカエイの漁獲量の推移をみたものが、下のグラフです。

大阪アカエイ漁獲量
出典:国立研究開発法人 水産研究・教育機構「令和5年度魚種別資源評価」

 このグラフをみると、2011年から2013年にかけて突出して多かったことを除けば、この40数年間で10トン以上の漁獲をみたのは僅かに4年しかありません。

 また、大阪府のデータをみる限りでは、全国生産量の公表が無くなった2007年以降の漁獲量の変動が大きくなっていますが、長期的に見ると概ね3~7トンの範囲で推移しています。因みに2022年は9トンの漁獲量となっています。

 公表されている瀬戸内地区のアカエイの資源状態は高い状況にはなく、おおむね横ばい傾向とされています。ですので全国でのエイ類の漁獲量は1万トンには達してはいないと推測されます。

 なお、漁法は底びき網が主体ですが、定置網による漁獲もあります。


 エイの食習慣については、やはりアカエイが最も食用として出回りますが、東北地方や北海道などでは「かすべ」と呼ばれるガンギエイの仲間も多く漁獲し、食用にしています。

 筆者は秋田県の男鹿半島で育ちましたが、やはり幼少時代に「かすべ」の煮つけをよく食べていました。地方によってはアカエイも「かすべ」と呼ぶ場合があるようですので、筆者が食べた「かすべ」が果たしてアカエイであったのかガンギエイであったのかは、今となっては知る由もありません。

 また北海道では、ガンギエイ類のなかでも特にメガネカスベという種類を多く漁獲しています。メガネカスベは下のイラストのとおり、背中に一対の目玉のような模様があるのが特徴で、それが名前の由来となっているそうです。

 いずれにしても、エイはコラーゲンがたっぷりで、また軟骨魚類のため骨が軟らかく食べることができるので、今風にいえば「骨なし魚」と言っても良いかも、です。

 安心して食べられる上に栄養分たっぷり、美容にも効能あり、もっと見直されてもよい魚でもあります。


 さて、(一財)東京水産振興会では「さかな丸ごと食育」を進めていますが、その一環として、宮城県の塩竈(しおがま)市魚市場などと連携し、塩竈市の中学生を対象とした食育活動を昨年度から実施しています。

 今年度は、海水温上昇の影響で近年、塩釜周辺で獲れる魚種が変化していることや、増えてきた新顔の魚の有効活用を学習テーマとしています。具体的には、漁獲量が増えているものの、地元ではほとんど認知されていないアカエイにスポットを当て、新たな食用魚として市民にアピールすべくアカエイ料理のレシピ開発を進めています。

 エイを煮付けぐらいでしか食したことがない身としては、若者のフレッシュな感覚と感性で、新しいレシピの誕生を期待したい!

カスベ煮付け
北海道「カスベの煮付け」(出典:農林水産省「うちの郷土料理」)
カスベイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

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「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!