旬のお魚かわら版

No.92 ホヤ

2024.06.28

旬のお魚かわら版 No.92(2024年6月28日)


 今回は、ただ今旬を迎えている「ホヤ」です。

 ホヤはその姿形をみると貝の一種のようにもみえますが貝類ではなく、かといって魚類でもありません。

 では植物か? 一見すると植物のようにも見えなくもなく、特に写真のマボヤは凹凸のある形状から「海のパイナップル」とも呼ばれています。

 果してその正体は、尾索(びさく)動物という、私たち人類も含む脊椎(せきつい)動物(哺乳類や魚類、鳥類など)に近い生物なのです。

マボヤ
マボヤ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 ホヤの仲間は非常に多く、世界中の海に2000種類以上が生息しているといわれています。

 日本や韓国などごく一部の国では、一部の種類が食用とされ、日本では「マボヤ」と「アカボヤ」が食べられています。

 以下では、最も多く食べられているマボヤについて説明します。

 まず生息域は幅広く、国内では九州北部、瀬戸内海、日本海、太平洋側では三河湾以北、そして北海道です。また、後述のとおり一大消費国である韓国(朝鮮半島)沿岸や、黄海沿岸などにも分布しています。

 体の特徴として、写真のとおり無数のいぼ状の突起があります。また、上部には2つの大きな突起があり、片方には入水孔、もう片方には出水孔という穴があります。入水孔から海水を体内に入れて、酸素やエサを取り込み、出水孔から海水と排泄物を出します。こうして2つの穴で体内に海水を循環させることで呼吸と摂餌(せつじ)を行っているのです。よく出来た構造だと思いますね!

マボヤ生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフは日本のホヤ類養殖生産量(1956~2022年)の推移です。

 一部の地域では潜水によるマボヤ漁や桁(けた)びき網などによるアカボヤの漁獲がありますが、これらの漁業による天然ホヤの生産量については全国的な統計データが公表されていません。基本的に市場に入荷するホヤは三陸地方などで養殖されるマボヤが大半で、上のグラフも実質的にマボヤの養殖生産量を示します。

 マボヤの養殖は、1905(明治38)年頃に宮城県唐桑村(現在の気仙沼市)で畠山豊八さんが始めたとされています。ですから、日本のホヤ養殖は100年以上の歴史があることになります。

 グラフを見ますと、東日本大震災以前では突出して多い2003年と2004年を除けば極めて安定した生産量だったことが分かります。2011年の東日本大震災で三陸地方の養殖産地が壊滅的な打撃を受け、以後3年間は生産量が激減しましたが、後述するように北海道での養殖生産が急拡大したことに加えて三陸地方でも徐々に回復し、2016年から2017年にかけて過去最高水準の生産量に達します。

 とは言え、三陸地方の養殖産地が安定化したかと言うと、そうでもありませんでした。もともと養殖ホヤは震災以前から、日本を上回るホヤ消費国である韓国に向けてほとんどを輸出していました。しかし、福島第一原発の事故を理由とする韓国の禁輸措置のため三陸地方の水産物は輸出が出来なくなり、行き場を無くしたホヤを東京電力が数年間買い取るという形で廃棄せざるを得ない事態に陥りました。

 そのような事態を受けて、国内では生産者を始め関連業者、飲食店、「ほやほや学会」(ホヤ愛好者のネットワーク)等が、ホヤのメニュー開発やイベント開催など国内消費喚起に向けた様々な行動を起こし、情報発信と普及に努めておられます。こうした取り組みにより、以前に比べてホヤの全国的な知名度はかなり浸透したように思います。

 筆者も当時中野にあった居酒屋(ホヤ料理は看板の一つであった)で食べたホヤは、メニュー自体が豊富で「このような食べ方があるのか」と感心したものです。筆者の最初のホヤ体験は3年前に「お魚かわら版」No.19に書きましたので繰り替えしませんが、食の方も進化しているのが感じられたものです。

マボヤ生産量2010
マボヤ生産量2017
マボヤ生産量2023
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上の3つの円グラフは震災前と震災後、および直近でのホヤ類の都道府県別養殖生産量です。

 震災前は宮城県と岩手県で生産量の大半を占めていました。震災後しばらくは北海道産は韓国への輸出が可能ということから北海道での養殖生産が急拡大し岩手県を凌駕していましたが、直近では北海道産の割合が減り、比較的震災前に近い姿に戻っています。

 ただ、これらのグラフのとおり各道県とも生産量を減らしていて、全体としては大幅に減っています。その要因はいろいろとありますが、最近注目されている「海洋熱波」の影響で三陸沖の海水温が平年比3~7℃も高い日々が続いていることがその一因ではないかと言われています。特に昨年からことの外、その現象が目立っています。このためホヤやカキ養殖への影響が心配されていましたが、近年ホヤ養殖生産の激減が数字としても実証されるようになってきました。今年に入っても三陸沖の海水温が平年に比べ極端に高い日々が続いており、今年のホヤ生産への影響は必至と考えられます。

 とは言え、以前に比べてホヤの認知度も高まり、色々な食べ方や加工食品も多様になっています。ホヤの旬はしばらく続きます。また、近年では鮮度の良いうちに冷凍したホヤも食材として普及していますので、年に1回はぜひホヤを食してください!


 なお、豊海おさかなミュージアムではホヤをテーマとした特別展示「ホヤはお好き?」を毎年開催してきました。今年度の展示は終了しましたが、展示内容のダイジェスト版を豊海おさかなミュージアムのHPで公開していますのでぜひ以下のページよりご覧ください。
「ホヤはお好き?」Web版 解説ノート

マボヤイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

旬のお魚かわら版

「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!