旬のお魚かわら版

No.76 ホタテ

2023.11.1

旬のお魚かわら版 No.76(2023年10月31日)


 今回はALPS処理水放出以降俄然注目されている「ホタテガイ」です。

 分類学的には、軟体動物門二枚貝綱イタヤガイ目イタヤガイ科に属していて、ここから分かれていきます。近い種類としては、あのカラフルな色で目を引くヒオウギ(ヒオウギガイ)などがあります。

 海中でのホタテガイの動く姿を見たことがある人は少ないと思いますが、映像ではよく見かけます。海底に重なっているように見えるのですが、突然ジャンプし飛ぶようにして移動します。水槽にいるホタテガイをイメージしていると自然界でのホタテは全く別物のような動きをするので、そのギャップは非常に大きいと感じます。

ホタテガイ
ヒオウギガイ
上:ホタテガイ、下:ヒオウギガイ
ホタテ生産量
出典:農水省「漁業・養殖業生産統計年報」

 上のグラフは1956年以降2022年までのホタテガイ(天然・養殖)の生産量の推移です。グラフのとおり、ホタテガイ生産は海面漁業(天然)、海面養殖業(養殖)とに分かれています。

 海面漁業による生産方式の大半は、地撒(ま)き(特定の海区に年毎に稚貝を撒き3~4年後に桁びき網で漁獲)による栽培漁業で、主にオホーツク海で行われています。海面養殖は1960年代に入って採苗技術の確立とともに北海道の噴火湾や青森県の陸奥湾で本格的に取り組まれました(垂下式と呼ばれ、ロープに直接ホタテを吊るす方法(耳吊り)とカゴに入れて育てる方法がある)。

 それ以前はオホーツクで天然で棲息しているホタテガイを漁獲していました。ちなみに地撒きによるホタテ生産では、海や汽水湖で採苗した稚貝をカゴに入れて一定期間育ててから、区画された専用漁場に放流するという高度な管理方式を採っていることから「地撒き(式)養殖」と呼ばれる場合もありますが、統計上は養殖ではなく、海面漁業(天然)の扱いとなります。

 後述しますが、ホタテガイの生産地はかなり限定されている(下のグラフ)こともあり、近年では水温を始め自然条件の変化や台風や低気圧の通過などによる被害に加えて津波被害もあり、特に養殖では生産量が著しく減少し不安定な状況にあります。例えば三陸(養殖)では2010年のチリ地震津波に続き翌年の東日本大震災での被害があり、2014年にはオホーツクでの低気圧による大量の窒息死(天然)、また噴火湾(養殖)でも2016年以降台風被害や大量斃(へい)死にみまわれ、養殖ホタテはそれ以前の水準には戻っていません。ホタテガイは出荷するまで4年程度(業界では成貝と呼んでいる)を要し、北海道ではこれが主力。青森県では主に半生貝(ベビーホタテと呼んでいる)と呼ばれている成貝になる前のホタテを収獲しています。何れにしろ成貝になるまでは4年ほどを要するので一度被害にあうとその影響は数年先まで続くということになり上図のグラフのように表されるということになります。今年も陸奥湾では夏場の高水温による大量斃死の情報もあり、中国による水産物輸入全面禁止措置の中で心配の種が尽きません。

天然ホタテ
養殖ホタテ
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」

 そうした状況下、ALPS処理水の放出が始まり、その影響が国内での風評被害よりも中国による日本からの水産物輸入の全面禁止措置がクローズアップされています。中でもホタテガイは内販が停滞している中では貴重な輸出商材としての地位を確立していました。ですから業者サイドからみればその損害規模も大きく経営の根幹を揺るがすとして、一斉に声を上げたのも故なしとしないとも言えます。

ホタテ輸出
出典:財務省「貿易統計」

 上の表は冷凍ホタテガイの輸出状況です。直近の貿易統計(2023年9月)が公表されたので、ホタテのデータをみますと予想通り全面禁輸で9月単月での中国輸出はゼロです。

 表で殻なしというのは、業者間では玉冷と呼ばれているもので、殻付きというのはいわゆる両貝冷凍や片貝冷凍と呼ばれている貝殻付き状態のものです。殻付きホタテは中国に渡ってからは、そのまま居酒屋メニューになったり、殻をむいて再輸出されています。つまり中国で加工されて他国に輸出されるというわけです。

 9月までのデータで目立っているのは殻付き(両貝冷凍・半貝冷凍)が前年に比べ大きく減少していることです。10月以降もこのまま中国の禁輸が続くと仮定すると、殻なしが昨年トータルで79.5億円で今年は44.9億円、差額が34.6億。殻付きが昨年トータルで375憶円で今年は209億円、差額が166億円になります。

 単純にみれば殻なし・殻付き合計で前年比約200億円が失われることになります。ということで、損失補填の話が現在持ち上がっているのは皆さんも御存知のことと思います。このことはもちろんやむを得ない事情ということもあり、当然のことでしょう。

 ただ以前はもっとホタテは国内でも流通していました。ここでは詳しく述べませんが20年程前は東京都中央卸売市場での取扱量は生・冷合わせて7-8千トンありました。現在は3,500トン程度ですからその当時に比べ半減しています。

 ホタテガイはもともと干し貝柱などを主体に輸出が盛んでしたが、将来の人口減を見越した需要縮小への「先手」を打つため、中国産ホタテの減産という追い風もありさらに中国向け冷凍品輸出を増やし、それを国も成長戦略の下に推進してきました。しかしながら、水産基本法で「国民に対する水産物の安定供給」が謳われているとおり、やはりまず内需という原点を見ずして漁業、ひいては農林水産業の成立や存続は不可能でしょう。

 以前、青森のホタテ加工業者から伺った「私たちも出来れば両貝冷凍のように何の付加価値も望めないようなものをやりたくはないんだ。日本の加工業というのは、より高い付加価値を加味することで低次加工から高次加工へと技術伝承も含めて生業を成立させてきた」という話を思い出しました。

 ALPS処理水放出以降、主に三陸・北海道の水産加工業を応援しようという機運が高まっています。ホタテガイも含めて最近は目に触れる機会も多くなっています。是非この機会にホタテを始めとした水産物をターゲットに「内需ここにあり」を見せたいものです。ホタテは殻付きであれ殻なしであれ、刺身良し、焼いて良し、炒めて良し、です。ホタテカレーは食べたことがありませんが、肉系のカレーとは違ったまろやかな香りに満ちているのでは!

ホタテバター焼き
ホタテイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

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