旬のお魚かわら版

No.75 サケ

2023.10.16

旬のお魚かわら版 No.75(2023年10月16日)


 今回は昨年北海道で久しぶりに好漁となり期待も高まる「秋サケ」です。

 一般にサケ(シロサケ)というと秋サケを称しますが、この他に季節によって呼び名が変わり初夏の頃までは、「トキシラズ(三陸ではオオメマスとも)」とも呼ばれ、秋サケもものによっては「メジカ」とも呼ばれます。また食べたことはありませんが、同じサケの未成魚で「鮭児」と呼ばれている貴重なサケも存在しています。

 分類学的にはサケ目サケ科サケ属の魚で、同じサケ属には先月のカラフトマスの他、ベニザケやギンザケ、マスノスケ、サクラマス、ニジマスなどがあり、後述のアトランティックサーモンはタイセイヨウサケ属です。

 かつてサケ・マス流し網漁業(沖獲り漁業)が盛んだったころは、サケと言えばトキシラズを主に指し、秋サケは2番手だったような気もします。

サケ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 サケ(秋サケ)の寿命は最長で8年程度と言われていますが、その生活史は、川で生まれて海を降り北太平洋を大回遊して、産卵期になるとまた生まれた川に戻ってきます。

 下図にあるように、秋から冬にかけて生まれたサケはある程度成長すると(人工孵化放流の稚魚も)川から海に出ていき、夏から秋頃までオホーツク海で過ごし、北太平洋西部で冬を越し、翌6月頃にかけてベーリング海に入ります。秋にアラスカ湾に移り冬を越し、春になるとまた ベーリング海に戻りを繰り返し、3-5年海で育ち、生まれた川に戻ります。 戻ってくるサケの年齢層は4歳が最も多く、4歳魚だけではなくその前後の3歳や5歳などでも戻ってきます。

サケ回遊ルート
出典:国土交通省北海道開発局帯広開発建設部ウェブサイト
サケ漁獲量
出典:国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産資源研究所「さけます来遊速報」

 上図は2007年以降2022年までの秋サケ(北海道と本州)の漁獲尾数の推移です。近年秋サケはしばしば少なくなった魚類の代表のように扱われています。特にメディアなどでもサンマとともにこの時期になると必ず登場し、私たちはそれを聞きながら一喜一憂しているというわけです。

 ところが昨年北海道では7年ぶりに約3,000万尾の来遊があり、現地では大いに盛り上がりました。しかし、上図にもある通り本州特に主力の三陸では絶不調が続いており、100万尾にも達せず、現地では落胆の色濃く そのため三陸の各県では新しくサーモン養殖に取り組むなどの動きも加速しています。さて今年はどうでしょうか? 北海道は今が盛漁期を迎えていますが、ことのほか今年は海が暖かかったせいなのか、昨年の3割減に留まっていて、悪くても昨年並み位を予想していた関係者にとっては頭の痛いシーズンになりそうです。

サケ購入量
出典:総務省「家計調査」

 上のグラフは、総務省が公表している家計調査による、生サケと塩サケの家庭内での消費の推移(1983~2022年)です。この図にも表されているのですが、1994年を境にそれまで生を凌駕していた塩サケの購入が減少しその後は生サケを上回ることはなく、未だ僅かづつですが減少傾向がみられますね!

 昭和年代で圧倒的に多かった塩サケは、世の「減塩ブーム」や白米消費量の減少などを背景として消費が減ったと予想されます。一方で刺身やサラダでも食べられる生の養殖サケ類(ノルウェー産やチリ産のサーモンなど)や国産サケの生切り身の供給が増えたことで、生サケの購入量が塩サケを大きく上回ることになりました。

 2022年の生サケの減少は、ロシアのウクライナ侵攻に伴う空輸制限の影響によりノルウェー等欧州からのアトランティックサーモンやトラウトの輸入が停滞したことや、サケ価格の高騰による購買意欲の減退が理由として挙げられます。生サケはピーク時の2002年から10年程横ばい傾向が続いていましたが、2014年以降減少に転じそれ以降年間3000gを超える年はありません。近年の秋サケの不振も反映している可能性もあるとみてよいでしょう。

 何れにしろ秋サケは養殖サケに押されている国内の供給事情の中で貴重な天然サケの代表選手でもあり、これからの漁を期待したいところです。

ちゃんちゃん焼

 秋サケといえば、本体を差し置いて野菜を沢山摂れる「ちゃんちゃん焼」、そして手軽に出来る「ホイル焼き」、もし丸のままの秋サケを購入したら、必要部分(身と魚卵等)を取ったら、残ったアラを煮込んでアラ汁、かす汁も良しです。

 私は随分前に北海道へ出張し、秋サケの水揚げ・選別風景をうら若き女性と見学したことがあります。当時は現在とは違い豊漁時代で多くの秋サケが水揚げされていました。近づいて見ていると作業をしている方が突然女性に向かって「オスとメスの見分け方はね!ほら、顔がメスの方が優しいのさ」と説明してくれました。「大変ですね!」と女性が声をかけると、「いや秋サケのシーズンが終わったら皆でゆっくり温泉につかるんだ!」と返ってきました。漁師を始め浜の人達は実によく働き、そして女性には優しい!

サケイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

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「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!