旬のお魚かわら版
No.73 カラフトマス
2023.09.19旬のお魚かわら版 No.73(2023年9月15日)
今回は主に夏場に漁獲され地味ながらも昔から重宝されてきた「カラフトマス」です。
名前は「マス」ですが、日本に生息するサケ・マス類は、分類上では全てサケ科サケ属です。カラフトマスはどちらかというと地味で馴染み薄いと思いますが、ベニザケ、ギンザケ、シロサケ(秋サケ)、マスノスケと同じく、川で産まれて海に降り、大きく成長します。身体的特徴は、背中に黒い斑点があり、尾鰭や脂鰭にも斑点があります。
また、成熟したオスは下の写真やイラストのように背中が高く張り出すので、セッパリマス(背っ張り鱒)とも呼ばれます。ほとんどが2年で成熟・産卵・繁殖し死に至ります。ですから、普通目にするカラフトマスは、そんなに大きくなく、他のサケ類に比べると小さい(体長40~60cm程度)とされています。
カラフトマスの国内漁獲の大半は北海道ですが、シロサケ(秋サケ)と区別するため上記のセッパリマスの他、アオマスとも呼ばれ、最近では「オホーツクサーモン」として商品化されています。ちなみにアイヌ語ではトピり、エモイ、ヘモイと呼ぶそうです。
カラフトマスは世界的にみるとサケ・マス類の中で最も資源のボリュームがあるといわれていて、本来であればもっと評価が高くても良い魚類だと思います。
上の図は日本近海から沖合にかけてのカラフトマスの分布域を表したものです。漁獲の大半は北海道ですが、三陸近海でも漁獲はみられます。ただ、余り街で見かけることが少ないので実態は分かりにくいかも知れません。
ところで、カラフトマスは一体年間どれ位漁獲されているのでしょうか?
上のグラフは日本のカラフトマスの漁獲量の推移です。
グラフで表されている沖合漁業とは、いわゆる沖獲り(主に流し網漁業)漁業のことでその盛衰が明瞭に表されています。日ソ(日ロ)漁業交渉による漁獲量の削減が反映されています。近年はほぼ沿岸漁業のみの操業になっていて、北海道の建てマス漁(小型定置網)による漁獲が主なものです(漁期は7月1日~8月31日)。しかも近年は往時に比べると極めて漁も薄く不振を極めているのがグラフからも分かります。
アメリカやロシアでは日本以上にカラフトマスを多く漁獲しています。また、カラフトマスの漁獲量には隔年周期で豊漁、不漁の特徴があるといわれており関連業者の人達は、こうしたことも含めて情報収集に余念がないのです。
グラフでも分かるように近年日本のカラフトマス漁は低調に推移していますが、お隣のロシアでは非常に好調のようです。今年のロシアの漁獲は、9月13日現在約47.7万トンで不漁年だった昨年の3.5倍だそうです。直近の豊漁年の2021年の漁獲量約42.4万トンを既に上回り、このままのペースで推移すると過去最大の漁獲量であった2018年の約51.4万トンも上回る可能性も取り沙汰されています。
消費面では地味に見えるカラフトマスですが、比較的世に知られているのは鮭缶ではないでしょうか?あけぼの印の鮭缶は、1910年の生産開始以来現在まで実はカラフトマスを原料として私たちの食卓に彩りを添えてきました。
また、近年カラフトマスの魚卵がマス子(筋子)や冷凍卵として保管されイクラの原料として多く利用されるようになっています。現在、国産カラフトマスが少なくなり輸入物に依存するようになってはいますが、養殖サーモン全盛時代に貴重な天然のサケ・マス類として、その価値は高まっているように思えます。今はサーモントラウトに切り替わっているようですが、かつて大手牛丼チェーンのサケの朝定食はカラフトマス(塩マス)を使っていると言われていました。その頃は湯煎して提供していたので味的には今一つという評価だったと思います。
ただ、建てマスの時期の前の北海道の春定置のマスは絶品という評価もあり、根強いカラフトマスファンもいると聞きます。
偶々1ヶ月ほど前に近所のスーパーで塩マスの半身が売り出されていて、「これは買わねば」と思い、午後の早い時間に向かったのですが、既に時遅しで商品は在りませんでした。買うことができませんでしたが、スーパーで塩マスを置いているのを始めて体験しました。
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