旬のお魚かわら版

No.69 ハモ

2023.07.18

旬のお魚かわら版 No.69(2023年7月15日)


 今回はウナギ目ハモ科に属している「ハモ」です。

 「祇園祭」=「鱧祭り」と言われるくらい京都の夏にはハモがお似合いです。ハモは漢字では「鱧」以外に「歯魚」とも書きます。「歯魚」。体全体の写真ではわかりませんが、口が開いている頭部の拡大写真を見ると鋭い歯が上下についており、人に向かってくるともいわれ、咬まれたらさぞかし痛いだろう とイメージできますね!「食む」に由来し「歯魚」と漢字をあてたのも良く理解できます。

ハモ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)
ハモ頭部

 ハモは、西太平洋とインド洋の熱帯・温帯域に広く分布し、日本でも青森以南で見られます。

 水深120mまでの沿岸域に生息し、昼は砂や岩の隙間に潜って休み、夜に海底近くを泳ぎ回って獲物を探します。 成熟年齢は4年、寿命は15年程と言われており、成長はメスの方がオスよりはるかに大きくなり、食べて美味しいのはメスだそうです。「入梅イワシ」ではありませんが、ハモは「梅雨の雨を飲んで美味しくなる」ともいわれます。

ハモ漁獲量
資料:農水省「漁業・養殖業生産統計年報」

 上のグラフはハモの年別生産量の推移です。2007年からは「漁業・養殖業生産統計年報」の集計対象からハモは外れたのでその後の詳細は明らかでありませんが、瀬戸内海を含め最近の伊勢・三河湾、渥美半島外海(遠州灘)、紀伊水道、高知県沿岸、豊後水道では資源状態が悪い海域はなく、中位以上の水域が多いとされています。

 ただグラフを見る限り、1960年代に漁獲のピークを迎えて以降基本的には漸減傾向を辿っているのが分かります。しかし1996年にボトムを記録して以降は、少しづつですが上向き傾向が続いていました。下のグラフは東京都中央卸売市場でのハモの入荷状況を表したグラフです。産地で公表された最後の年(2006年)の消費地市場のデータでも前年を上回る入荷がみられます。しかしそれ以降は入荷が減少していることをみると産地での漁獲も減少していた可能性もあります。

ハモ入荷量
出典:東京都中央卸売市場・市場統計情報(年報)

 入荷量グラフで2020年、2021年と入荷が目にみえて減少しているのは、コロナ禍により外食店、飲食店の休業等により末端需要が減少したことの反映とみられます。したがって価格も入荷の減少の割には上昇せず、逆に下落していることが分かりますね!2022年に入ると徐々に飲食需要の回復とともに、価格も上昇傾向にあります。今年(2023年)も前年並みの入荷となっているのでほぼ需要も回復したといって良いと思います。

 2022年の出荷先の上位3県は愛媛、熊本、兵庫、2006年の上位3県は東京、熊本、兵庫です。ただ2006年の東京は輸入物を扱った商社(本社が東京)の可能性もあるので、国産物に限定すると熊本、兵庫が東京より上位にくる可能性もあります。

 ハモは、たんぱく質の旨味と脂肪(多価不飽和脂肪酸)のおいしさが重なり、関西の夏には欠かせない食材です。この時期業界紙などでもハモの特集が組まれますが、やはり関西発の情報が圧倒的に多くやはり「ハモは関西」という感を新たにさせられます。

 京都・八坂神社では恒例のイベントとして「ハモ道中」が行われています。かつて兵庫県の淡路島が「御食国」と呼ばれ、京都の宮中に海産物などを献上していたことに因んだ恒例行事です。今年は7月3日に行われ、桶に入れたハモを携えて八坂神社から花見小路にかけての四条通りを進み八坂神社に戻り、多くの参拝者が見守る中、「淡路島からはも道中」の掛け声とともに境内を練り歩くそうです。

 ハモといえば「骨切り」、通常の魚では3枚卸にすれば後の小骨は骨抜きで取れば事足ります。しかし、ハモはそうはいきません。小骨が多くて取り除くのには多くの時間が必要です。そのため「骨切り」の技術が生み出され、既に売られているハモは、「骨切り」の工程(下処理)が済んでいます。もしこのような技術がなかったとすれば、ハモの消費も現在のように安定したものにはならなかったでしょう。ハモの生産から消費までの過程には、「骨切り」のような特殊な技術が隠されています。3枚卸とはまた次元の違う技術が必要とされ、私たちの生活を支えています。

 HIKARIさんのイラストを参考にし、色々なハモの料理を想像しながら、この猛暑を乗り切りましょう!

ハモイラスト
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

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