旬のお魚かわら版

No.66 マアジ

2023.06.2

旬のお魚かわら版 No.66(2023年5月31日)


 今回は旬を迎え水揚げが期待される「マアジ」です。ですが、そのマアジが今年はサッパリなのです。4月までの全国の累計水揚量は昨年に比べ約3割も減少しているのです。回転寿司も含め寿司屋さんでは、「光物」「光物3貫」等としてお馴染みですね。
 マアジは、今では東北地区の太平洋側でも時期は少しずれますが定置網に良く入網します。アジには体の後方に、ぜんご(ぜいご)と呼ばれる、棘(とげ)のある鱗が並んでいますが、地域によっては「棘のある魚」のことを呼ぶようです。

マアジ
資料:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 マアジは時として「クロアジ」または「キアジ」と呼ばれることもあります。もちろん両方ともマアジなのですが、「クロアジ」は沖合を回遊し黒みがかっています。対して「キアジ」はより沿岸域に生息する瀬付きのアジで、脂が乗っており、「クロアジ」より価値は高いのが特徴です。房総地区で1本釣りで名高い「黄金アジ」もそれに当たります。

 マアジはまき網を始め定置網、釣りなどで漁獲されますが、下のグラフは漁法別の割合を示しています。

マアジ漁獲量
資料:農水省「漁業・養殖業生産統計年報」

 このグラフでも分かりますが、漁獲量の80%はまき網漁業によるものです。他には定置網漁業が17%ですから、マアジはまき網と定置網に大きく依存しているといっても良いと思います。

 ただ、上記の「黄金アジ」を始め「関アジ」(大分)、「岬(はな)アジ」(愛媛)、「野母(のも)んアジ」(長崎)等、全国各地でブランド化されているアジの多くは、釣りによるものです。一方で、「どんちっちアジ」(島根)、「ごんアジ」・「旬(とき)アジ」(長崎)等、まき網によるものもあります。何れにしろ、その希少性(脂質やサイズなど)や、漁獲した後の処理の丁寧さなど、それぞれ品質に対する厳格な基準を保持しながらブランドを維持しています。

 今年の漁は出足不振が続いており、島根県浜田市の「どんちっちアジ」も不漁にあえいでいるそうです。今年は全国的に漁が上向く4月に入っても不振が続いていました。

マアジ水揚げ
資料:JAFIC「おさかな広場」より作成

 上の表は、主要産地市場(漁港)での4月末までの累計水揚量と価格の推移です。表にある通り累計水揚量は前年比67%とかなり少ないのが分かります。したがって価格の上昇も目立っています。

 ただ、5月に入って上旬位までは低調さが目立っていましたが、中旬以降漁も持ち直しており、今後を期待!

マアジ入荷
資料:東京都中央卸売市場・市場統計情報(年報)

 上のグラフは東京都中央卸売市場のマアジの入荷状況です

 今年は産地水揚げが振るわず、過去5年に比べ入荷量は少なく、卸売価格も高いのが目立っています。

 マアジは基本総菜魚に位置している魚ですから、産地での不漁の影響が如実に反映されています。グラフにもある通り2020年を除き今までであれば、1-3月が低調でも4月に入ると消費市市場では入荷が増加します。ところが今年は1-3月が低調な上に4月に入っても今一つ入荷の伸びがみられませんでした。例年5月に産地水揚げはピークを迎えますので、水揚げさえ回復すれば入荷も多くなると思いますが、さてどうなるか?


 豊海おさかなミュージアム食育セミナーでは、1年に1回はマアジを使用し、包丁を使わずに内臓をとる「ツボ抜き」を実践しています。マアジはそれほど大衆的な魚でもあるということではないでしょうか!

 ですので、元々産地でなかった北海道や東北を除くと、風土を生かした郷土料理が各地にあります。房総地区などの「なめろう」、九州では「冷や汁」と呼ぶ愛媛の「さつま」、大分県佐伯の「ごまだし」など各地で郷土自慢の料理や調味料があります。何れにしろ、マアジの季節はまだ続きます。手に入りやすい魚でもあるので、いつもの刺身や塩焼きを離れ、新しいアジ料理にチャレンジするのも良いかも!

なめろう
なめろう
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「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!