旬のお魚かわら版

No.58 ミズダコ

2023.04.14

旬のお魚かわら版 No.58(2023年1月31日)


 

 今回はお正月に食べた記憶があるかもしれない、赤い着色が鮮やかな酢蛸の原料になる「ミズダコ」です。
 タコ類は世界中に約200種、日本周辺海域だけでも50種以上が確認されているようですが、中でもミズダコは、タコ類の中で最大の大きさを誇り、大きいものになると3mに達するそうです。 重さも大きいものは30kgに達するとも。さすがに世界一大きいタコの名に恥じない重量です。寿命はオスが4歳半、メスが5歳といわれていますが、1-2歳位の幅があるのではとも。マダコの2年から数年に比べると少し長いといわれます。

ミズダコ

 ミズダコは寒海性で、国内では主に北海道や東北地方で漁獲されますが、生息海域はさらに広く、 五島列島以北の日本海、駿河湾以北の太平洋海域、そしてサハリン、千島列島、カムチャッカ半島、アリューシャン列島、アラスカ湾からアメリカ西海岸沖でも棲息しています。ミズダコは周年漁獲されており、旬も地域によって違いがあるようですが、今の時期は北海道函館の戸井地区や青森県の太平洋側で旬を迎えています。

ミズダコグラフ
資料:農水省「漁業・養殖業生産統計年報」

 上図は1956年以降のタコ類の年別国内漁業生産量(マダコやミズダコ等、タコ類漁獲量の合計)の推移です。昭和40年代には10万トンを記録したこともあったのですが、その後は昭和の後期まで下がり続けました(4万トン)。その後若干漁獲の回復傾向もあって5万トン前後の漁獲を保っていました。しかし、平成の後半頃からマダコを中心に一段と漁獲不振が続いており、この10年間は4万トンにも達しない不漁が続いています。

 日本は世界一のタコ消費国ですから国内漁獲の減少を補うため、輸入量が急増します。昭和52年には国内漁獲量と同等の6万トンを輸入し、平成5年には13万トン超の輸入量に達しました。主な輸入先国はアフリカ北部のモロッコやモーリタニアで、種類はミズダコではなく、マダコ類です。宗教上の禁忌もあり元来、タコを消費する国は少ないですが、スペイン、イタリア、ギリシャ等の南欧諸国ではタコを好んで食べるため、アフリカ産マダコの輸入はそれらの国々との間で競争となります。

 近年では資源減少による漁獲規制等のためアフリカ諸国でのタコ漁獲量も減少し、輸入競争はさらに激化。産地での買い付け価格も急騰し、日本が買い負ける場面も出てきています。そのため、日本ではこの2カ国の他、中国、ベトナム、セネガル、メキシコなど輸入先国を増やしていますが、国内漁獲の低迷もありマダコ価格の高騰が続いています。

 そこで、従来は刺身用等ではほとんど利用されてこなかった北海道や東北産のミズダコ(あるいはヤナギダコ)が、マダコに替わりスーパー等の店頭に多く並ぶようになってきています。


 ところで、タコは英語で「オクトパス」と呼びますが、「オクト」とはラテン語が起源で8を指す言葉。同じく「オクト」に由来する英語のオクトーバーは10月の意味ですが、古代ローマの暦では3月が年始月であるため、8番目の月が10月となります。そして「パス」は足のことですから、オクトパスを直訳すると「8本足」となり、まさにタコそのものです。言葉の起源をたどれば何かにぶち当たります。まるで食の循環図のようです。

酢ダコ
酢ダコ

 広く知られているシャンソン歌手美輪明宏(丸山明宏)が歌っている「ヨイトマケの歌」の歌詞のヨイトマケも「タコ」に関係しています。普通「ヨイトマケ」とは建築で地固めのときに重い槌を数人で上げ下げする労働やそれに従事する労働者のことといわれます。その他に土木作業で地面等を人力で固めるため櫓、滑車、ロープなどで丸太等を持ち上げて落とすことを「タコ」あるいは「ヨイトマケ」と呼んでいたそうです。丸太を何本ものロープで縛り持ち上げるその姿がタコに似ていたことが語源のようです。


 「タコ」にはイカと同様タウリンが豊富に含まれています。タウリンには肝臓の働きを促進するほか血中コレステロールを下げ動脈硬化の予防にも役立つともいわれています。しかも低脂肪高たんぱくで旨味成分のアミノ酸も豊富に含まれています。また、ミズダコはマダコ以上に水分が豊富に含まれていて、煮ても堅くならないとも。なお産地から取り寄せ等でミズタコを入手した際は、ぬめり取りのための塩抜きの時間を多めにとりしっかりと水洗いし塩抜きしたほうが、塩辛くならず美味しくいただけます!

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