旬のお魚かわら版

No.37 イカナゴ

2022.04.7

旬のお魚かわら版 No.37(2022年3月15日)


今回は典型的な春の魚「イカナゴ」を取りあげました。
 瀬戸内海や三陸ではこの魚が漁獲され始めると季節としての春を実感することになります。特に三陸では、イカナゴ(コウナゴと呼ばれていますが、)やオキアミ(イサダ)漁が始まると、長かった冬から解放されて本格的な春漁の始まりを告げることになります。
 イカナゴは、日本の沿岸全域に棲息しています。どちらかといえば低水温に適しているため、水温が高くなると砂にもぐりこんで夏眠(冬眠)します。寿命は、3-4歳と言われていますが、北海道のグループは7歳ともいわれています。

イカナゴ
出典:水産庁、国立研究開発法人 水産研究・教育機構「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」

 写真の通り、下顎がでていて腹鰭がないのが特徴と言えます。

 イカナゴは、本邦沿岸に広く分布していますが、その呼び名も地域によっても違っています。北海道では、10cm未満をまとめてコウナゴ、成魚をオオナゴ(大女子)、三陸では、成魚をメロード(石巻ではヨドとも)、稚魚はコウナゴ(小女子)、関東ではコウナゴと呼んでいます。関西では、生まれたばかりのものを新子と呼び、成魚になるとフルセとも呼ばれます。

コウナゴ水揚げ風景
出典:週刊水産新聞

 上の写真は100トン超えが続いていた時代の石巻漁港のコウナゴ水揚げ風景です。まだ漁獲が多かった時の写真ですが、現在では不漁が続いており、過去2年間は石巻港では水揚げ皆無です。

イカナゴ生産量の年別推移
出典:農水省 漁業・養殖業生産統計年報

 上のグラフは全国のイカナゴ漁業生産量の長期推移です。1960年代後半から1990年代は概ね10万トン(最高は1974年の29.9万トン)以上の漁獲があったのですが、その後は2006年に1回10万トンを超えたのみで漸減傾向が続いています。この10年は5万トンを下回る不漁で、特に2020年は6,373トンの漁獲で、統計開始以来初めて1万トンを下回り非常に心配されています。その原因も必ずしも特定されてはおりませんが、瀬戸内海では海の貧栄養化や海底の砂地の減少、東北では海の温暖化等も取り沙汰されています。イカナゴは、新子・イカナゴシラスから始まりますが、その価格はサイズが大きくなるにつれ安くなります。
 かつて沢山漁獲された時代、オオナゴ(北海道)の大半は養殖の餌に利用されていましたが、それに比べると今は少なくなっています。

くぎ煮
出典:(一社)岬町観光協会

 基本的にイカナゴは加工原料向けが多く、チリメン、シラス干し、煮干し、佃煮などに加工されます。成魚は上記のように餌向けを始め、素干し、燻製にも利用されるそうです。食べたことはありませんが、脂がのっているのため、鮮度の良いものは刺身でもいけるそうです。

 さて上の写真は「くぎ煮」です。イカナゴといえば「くぎ煮」と言われるように関西地区ではこの時期無くてはならないものの一つです。「くぎ煮」の由来は、出来上がった「くぎ煮」が折れ曲がった釘のように見えるからだとか!

 初めて「くぎ煮」を食べたのは30年位前だったと記憶していますが、関東以北でいう佃煮と同じような味だと思っていたのですが、やはり食感も含めてかなり違っていました。それ以来前の職場で今の季節になると、淡路島のF水産から毎年取り寄せてくぎ煮を堪能したものでした。
 確か関西では夫々の家庭でイカナゴを仕入れて「くぎ煮」を作り、夫々の家庭の味があるのだ、ということを聞いた事があります。郷土食というものは、地場の生産物を利活用しながら家庭の味を大切にし、豊かな生活の糧に資する食ともいえるかも。

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