旬のお魚かわら版

No.38 ニシン

2022.04.7

旬のお魚かわら版 No.38(2022年3月31日)


今回は北海道では「春告魚」で親しまれている「ニシン」を取りあげました。
 今ニシンは北海道で漁獲が伸びていてメディアにも多く取り上げられています。ニシンは一般的には鰊と書きますが、鯡(魚に非ず)とも書きます。江戸時代の松前藩では米替わりにニシンを年貢として徴集したことからと言われています。
 ニシンの寿命は、資源生態学的なグループ(専門用語で系群といいます)によってかなり差があります。かつて多く漁獲された北海道・サハリン系群は10-18歳、現在漁獲の主体となっている系群(地域性ニシン)は6-7歳と、青魚の中では大きな差があり、かなり珍しいと言えます。

ニシン
出典:水産庁、国立研究開発法人 水産研究・教育機構「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」

 ニシンは身欠きにしんを除けば丸のまま売っているので、この時期スーパーでも並べられているのでみたことがある人は多いと思います。魚類は、胸鰭と腹鰭が近い魚と離れている魚がいて、この画像ではわかりにくいのですがニシンは大きく離れているのがヒレの特徴です。

ニシンの産卵場と分布域
出典:水産庁、国立研究開発法人 水産研究・教育機構「わが国周辺の水産資源の現状を知るために」

 上図は、ニシンの産卵場と分布域を表しているのですが、北海道の沿岸から沖合以外にも本州沿岸(主に東北海域)でも稀に漁獲されるので、本州周辺にも分布しているというわけです。ただ、統計上は漁獲量の99%は北海道地区になっています。

ニシンの年別漁獲量の推移
資料:農水省 漁業・養殖業生産統計年報<

 上のグラフは1956年以降のニシンの漁獲量の推移です。このグラフには表れていませんが、明治30年には100万トン近い漁獲の時代がありました。当時は大量漁獲が可能なトロール漁法がまだ無く、ほとんどは沿岸漁業で獲っていたわけですから、いかにニシン資源が多かったのかが分かりますね。
 19世紀後半にピークを迎え、その後1950年頃には「幻の魚」と呼ばれるようになるほど漁獲は少なくなりました。その頃のニシンは北海道・サハリン系のグループが主で、今の主体の地域性ニシンのグループとは違っています。現在資源復活の期待がかけられていますが、地域性のニシンは、北海道・サハリン系ニシンのように大回遊しないため爆発的に増える可能性が少ないともいわれていて、増えるとしても徐々に増えていくだろうと専門家はみています。


 2週間前にNHKの番組「ダーウィンが来た!」でニシン特集が組まれていました。石狩湾での群来(くき)の様子がカメラでとらえられていました。群来とは、産卵のためにニシンの群れが沿岸に近づき、その周辺は精子で海面が白濁することで、近年北海道沿岸でしばしばみられており、「ニシン復活?」ということで現地では期待が高まっているのです。
 今年も北海道では石狩、後志両管内の刺し網漁は好調で3月中旬で前年同期の1.6倍の好漁となっています。また、小樽でも前年同期の2倍の水揚、留萌管内でも同じく36%増となっています。ですから、道の関係者たちにとっても益々「ニシン復活」への期待が膨らむというものです。
 これには、実は関係者の「ニシン復活」にかける思いがあり、種苗放流を始め、刺し網の網目の調整(網目を大きくして小さいのを獲らない)に加え、ニシンの生息環境が良かったことなどが要因とみられます。


 今豊洲市場では、1日1.5-2トン程度のコンスタントな入荷があり、kg当たり単価も400-300円と安定しています。ニシンは何といっても抱卵(数の子)しているニシンの価値は高いのですが、その時期が終わると途端に単価は下がり、身の方もすり身やミール加工の方に仕向けられます。まだ時期的には生ニシンが出回るので機会があったら是非食べてみてはいかがでしょうか。
 生ニシンとともに身欠きにしんがあります。頭と内臓を取り除き素干しにしたものですが、半生を別にすれば、かなり乾燥させていますので水戻しして料理に使います。代表的なものの一つににしんそばがあります。北海道では食べたことがありませんが、随分昔に京都南座隣の「松葉」で生まれて初めて食べました。北海道が元祖なのか、京都松葉が元祖なのかは知る由もありませんが、これが「にしんそば」か、と思いながら食した記憶が残っています。また北海道へ行くと「ニシン御殿」も様々な形で残っています。100万トン時代の栄華を感じることができるので機会があったら訪ねてみるのも良いかも。

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