旬のお魚かわら版

No.97 ヨシキリザメ

2024.09.17

旬のお魚かわら版 No.97(2024年9月17日)


 今回はサメ類の中で最も漁獲量が多い「ヨシキリザメ」です。

 世界中の熱帯域から温帯域にかけて広く分布する外洋性のサメで、広域回遊をすることが知られています。

 ヨシキリザメはメジロザメ目メジロザメ科ヨシキリザメ属に分類されていますが、いわゆる人食いザメではありません。

 映画「ジョーズ」などの影響からサメはややもすると、狂暴=人食いザメと連想されがちですが、世界中で500種類以上いるとされるサメ類のうち人を襲う危険性の高いサメは、ホホジロザメやイタチザメ、オオメジロザメなど数種類しかいないそうです。実際、サメの方から襲ってくるようなケースはほとんど無く、人に遭遇すると多くの場合、サメの方から逃げてしまうことが多いといわれています。とは言え、ヨシキリザメによる人的被害が全く無いという訳ではなく、ごく稀に人を襲うこともあるとのことです。

ヨシキリイラストサムネイル
イラスト:N.HIKARI

 さて、ヨシキリザメの語源には諸説あるようですが、その1つが「足きり鮫」です。後述のとおりヨシキリザメはフカヒレ(鱶鰭)加工で多く利用されますが、切り取るヒレを足に例え、ヒレ=足を切り取ることから、まず「あしきりざめ」になりました。さらに、植物の葦(あし)が「悪し」に通じるのを嫌い「よし(善し)」と読ませることが反映して「よしきりざめ」に転じたという説です。漢字表記も「葦切鮫」です。

 体形上の特徴の一つとして、ヨシキリザメを始めメジロザメ科の鮫の尾びれは、上部が長く伸び、下部(尻びれ側の方)が短くなっています。

 また魚類、特にサメ類ではしばしば見られますが、卵胎生という方法で繁殖します。これは雌の胎内で卵を孵化させてから幼魚の状態で出産するというスタイルです。

サメ漁獲量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフは、サメ類の国内漁業生産量の推移(1956~2023年)です。

 かつて7万トンを超えていた生産量も昭和年代末に3万トンを割るようになり、以後10年以上は2~3万トンの時代が続き、その後やや上向き3~4万トンの時代が15年ほど続き、現在は2万トンを僅かに上回る程度にとどまっています。

 近年の漁獲量減少の最も大きな要因は漁船数の減少です。サメ類の多くは、近海や遠洋のマグロはえ縄船によって漁獲されます。2022年の海面漁業生産統計で漁法別のサメ類漁獲量割合を見ますと、はえ縄が74%、刺網(流し網)が17%、両者で9割を超えます。

 近海での操業の場合は生鮮で水揚げされ、特に国内最大のサメ類水揚げ地である気仙沼漁港ではサメの季節になると連日市場のすべてを使用し、ヨシキリザメやモウカザメ(ネズミザメ)の入札が行われていました。サメは他の鮮魚のようにそのままの姿で消費地市場などに出荷されないので、水揚げされたサメの魚体全部を見るには産地市場に出向くしかありません。

 ともあれ、サメ類の主要漁法であるはえ縄漁、特に遠洋はえ縄は200海里以降の国際関係の大きな変化のなかで多くの船が撤退、減船を余儀なくされました。また近海のはえ縄漁においても、サメの魚価安(産地価格の低迷)が長く続いたことなどにより経営状況が厳しくなり、多くの漁船が撤退した歴史があります。東日本大震災の前後、現地の関係者が、サメの値段が100円位でも上昇してくれれば助かるのだが!と話していたのが印象に残っています。

 下の表は2019年から直近までの、生鮮ヨシキリザメの月別水揚量と産地価格(キロ単価)の推移です。これによりますと、2年程前からようやく産地価格が200円台に上昇してきて、今年に入るとキロ300円台になりジリ高傾向が続いています。

ヨシキリ水揚高
出典:一般社団法人漁業情報サービスセンター「おさかな広場」
サメ県別生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上の円グラフは、2022年のサメ類の都道府県別漁業生産量(合計22,863トン)の割合を図示したものです。

 前述のとおりサメと言えば宮城県の「気仙沼」を連想する人も多いと思いますが、このグラフでも生産量の半分を宮城県が占めています。2番手以下は10%に満たない割合なので圧倒的に宮城県が多いということになります。上の表の生鮮ヨシキリザメも9割以上は気仙沼漁港に水揚げされています。

 そのため、気仙沼漁港周辺には産地市場でサメを買い受ける各種の加工業者が集積しています。例えば、フカヒレの加工業者や練り製品原料の前処理(すり身生産用の切り身加工等)を行う業者などです。気仙沼のような大きな漁港と産地市場を備えた、いわゆる漁港都市においては、水揚げを行う各種の漁船に加え、水揚げされた水産物を買い受けてさまざまな加工処理を行う産地業者の存在が不可欠です。

 特にヨシキリザメについては中華料理のフカヒレスープの原料として使われることは有名ですが、関東地方においては「はんぺん」や「すじ」といった練り製品の原料魚としてより身近な存在であり、前述のとおり気仙沼周辺の数多くの加工業者さんが関わっています。さらに食用以外ではサメ革(かわ)加工業もあり、財布などのサメ革製品が生産されています。

 このように、サメは一般的な「人食いザメ」のイメージとは大きく異なり、貴重な水産資源として大事に、余すところ無く利用され、日本人の生活に密着しています。

 また、ヨシキリザメではないのですが、気仙沼の居酒屋では「モウカの星」がよく出てきます。これはモウカザメ=ネズミザメの心臓のことで、これを好んで食べる食文化が根付いています。気仙沼に旅する機会があったら、「モウカの星」も是非どうぞ!

ヨシキリイラスト下半分
イラスト:N.HIKARI
旬のお魚かわら版

旬のお魚かわら版

「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!