旬のお魚かわら版

No.107 クロムツ

2025.02.14

旬のお魚かわら版 No.107(2025年2月14日)


 今回は底魚の代表的な魚の一つである「クロムツ」です。

 クロムツはスズキ目ムツ科ムツ属に分類されますが、同じ仲間(ムツ属)に形態や色がよく似ている「ムツ」がいます。ムツの語源については、「むっちり」「むつこい」という脂っこいことを表す愛媛県や高知県の方言が由来だとの説があります。

 形態や生息深度などが似ているため、以前はクロムツも「ムツ」として同じ種とされていましたが、1970年代頃にムツとクロムツの2種類に分けられました。両者の主な外見上の差異ですが、まずクロムツ(上の写真)は体表が紫がかった黒色であるのに対し、ムツ(下の写真)では金色がかった褐色という違いがあります。またクロムツはムツよりも鱗が細かく、側線有孔鱗数(感覚器官である側線の孔が開いている鱗の数)が59~70と多いことでムツと区別できます。

 なおクロムツとくればよく対比されるのがアカムツ(通称ノドグロ)ですが、アカムツはムツ科ではなくホタルジャコ科に属しています。

クロムツ
クロムツ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)
ムツ
ムツ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 

 クロムツの生息域は、岩手県以南から伊豆諸島、伊豆半島東岸の太平洋などでかなり限定されています。水深200~500mの深海に生息していますが、仲間のムツは生息域も北海道~九州南岸の太平洋沿岸、北海道~九州南岸の日本海・東シナ海、鳥島。九州~パラオ海嶺、東シナ海大陸棚縁辺域、台湾などで、水深200~700mと生息域がクロムツよりかなり広く、またより深い海域に生息しているようです。

 産卵域については、クロムツは伊豆諸島周辺で産卵しますが、ムツは東シナ海で産卵し、卵や仔稚魚は黒潮や対馬海流に運ばれて太平洋や日本海に広く拡散するとされていますので、クロムツよりも生息域が広いのも頷けます。

 関東近海では、3歳で尾叉長(びさちょう)33cmになり、8歳で48㎝と推定されています。

 漁法は基本的には底釣りになりますが一部定置網や延縄でも漁獲されています。


 さてクロムツの漁獲量ですが、国による全国統計は公表されていないので、「ムツ」として地域限定的に発表されている統計情報を参考にすると、最も漁獲量が多いとみられる伊豆諸島周辺の年間漁獲量は60~100トン程度で、この中にクロムツも含まれていると思われます。

ムツ取扱高
出典:東京都中央卸売市場・市場統計情報(年報)

 上のグラフは東京都中央卸売市場における「ムツ」の取扱状況(2002~2024年)です。

 上述のとおり漁獲量においてクロムツとムツは一緒に扱われていますから、市場取扱高も両者の合計値だと見られます。

 そのことを前提にしてこのグラフをみますと、多少の減少傾向がみられますが、量は少ないもののかなり安定して入荷が続いていることが分かります。

 価格の動きをみてもこの3年は諸物価の高騰の影響があり高値が続いていますが、それ以前は緩やかな上昇基調がみられます。そもそもが高級魚の部類に入る魚であり、漁獲も少ないので比較的安定した価格推移と言っても良いと思います。特に市場で取り扱われるクロムツはムツよりもサイズが大きく、価格も高いようです。

 ちなみに、今や高級魚に格上げされているキンメダイと比べるとkg当たり単価では「ムツ」の方が100円程度高い価格となっています。その意味では出回りは少ないものの、底堅い需要があるのではないでしょうか!


 随分前の話になりますが、沼津港の市場に隣接した定食屋(漁港食堂?)さんでクロムツの煮付け定食を食べたことがあります。そうした店では、大体刺身か煮付けがあれば煮付けを注文します。クロムツを食べたのは初めての経験でしたが、キンメダイとは少し違った味付けで、これはこれで美味しい煮付けだと思ったのですが、今にして思えば、それがクロムツだったかムツであったかは、この原稿を書いていてよく分からなくなりました(笑)

クロムツイラスト
イラスト:N.HIKARI
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