旬のお魚かわら版

No.101 マサバ

2024.11.15

旬のお魚かわら版 No.101(2024年11月15日)


 今回は、現在、九州で盛漁期を迎えている「マサバ」です。

 マサバはスズキ目サバ科サバ属の魚で、他のサバ類にはゴマサバやタイセイヨウサバもいます。

 サバは、読者の皆様ならば年に1回や2回は食べたことがあるはずで、背中にある緑青色の縞(しま)模様がおなじみの魚です。

 タイセイヨウサバも、通称ノルウェーサバとして多く売られていますが、マサバよりも縞模様が太くて直線的なので区別しやすいと思います。

マサバ
マサバ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 日本のマサバには太平洋系群と対馬暖流系群という2つのグループがありますが、ここでは主に太平洋系群について説明します。

 太平洋系群のマサバは日本の太平洋南部沿岸から千島列島沖合まで分布し、餌を求めて広い海域を回遊します。資源量が多かった時には分布域も広がり、東経170度付近まで分布・回遊していたとされています。

 寿命は7~8歳程度とみられ、最大11歳の記録があるそうです。成熟したマサバは伊豆諸島周辺海域などで産卵した後、餌を求めて北の海へと回遊。数年の間、産卵や回遊を繰り返して一生を終えます。

 近年では海水温上昇や餌料生物の減少などを要因として、一部の魚種については魚体の小型化や成長の遅れが懸念されています。マサバにおいても、ここ10年程は、それ以前にはみられなかった成長の遅れがみられており、それに伴い、成熟開始年齢の高齢化も現れているようです。

サバ生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフはサバ類(マサバおよびゴマサバ)の国内生産量(1956~2023年)の推移です。

 サバ類は主にまき網や定置網で漁獲され、また一部の地域では、たも掬(すく)い、棒受網、一本釣り(手釣り)、底引網などでも漁獲されます。

 歴史的に見れば、1970年代後半(1978年)の162万トンがピークで、以降は基本的に減少傾向にあります。2000年以降を見ますと、2002年頃は30万トン前後に落ち込みましたが、2005~2006年には60万トン台になるなど一時的に漁獲が回復していました。

 特に1980年以前のピーク時に漁場形成がみられた道東海域(北海道釧路沖など)では、2012年以降にも漁場形成があり、まき網漁の水揚げで産地は大いに賑わいましたが、2019年以降は漁場形成が無くなり、ここ数年はほとんどサバの漁獲はありません。そして2023年の全国漁獲量は26.1万トンと過去最低レベルの漁獲に落ち込んでいます。

生鮮サバ取扱
出典:東京都中央卸売市場年報

 上のグラフは東京都中央卸売市場における生鮮サバの年間取扱状況(2002~2023年)です。

 前出の漁業生産量のグラフでは2002年から数年間は漁獲量が低迷していましたので、それに連動して同時期の東京都中央卸売市場の取扱数量も低くなっています。

 その後は国内での漁獲が回復し、特に2012年以降の道東海域での漁場形成もありましたので、2015年までの10年間は市場取扱がほぼ1万トンを超える年が続きました。しかし、前述のとおり近年漁獲量は再び落ち込んでいますので、市場の取扱も2023年は近年で最も少ない量になっています。さらに、市場取扱量の減少の要因には、サバの小型化の影響もあるのではないかと思います。すなわち、通常であれば、水揚げされたサバは産地市場でサイズ別に選別され、大きなサイズは鮮魚として市場出荷され、中サイズは缶詰や干物などの水産加工品原料に仕向けられるのですが、近年ではサイズ組成が変わり、大きなサバが少なくなっているため、中サイズのサバも多く市場出荷されているという動きがあるようです。そのため、全体的な取扱量も減っていると見られます。また、その影響で、本来はエサや飼料向けに使われる小サイズのサバが一部、加工品原料にも向けられるということもあるようです。

 一方、卸売価格はほぼ取扱量を反映した動きをしていますが、2022年以降の急騰は、国内漁獲量の減少に加えて、国際情勢の悪化(ロシアのウクライナ侵攻等)を背景とした燃油・資材価格の高騰も反映しているものと思われます。

塩蔵サバ取扱
出典:東京都中央卸売市場年報

 次のグラフは、東京都中央卸売市場における塩蔵サバの年間取扱状況(2002~2023年)です。

 このグラフでは、先ほどの生鮮サバとは異なり、国産原料の塩サバと輸入原料(大半はノルウェー産)の塩サバの両方が含まれています。

 従って、国産原料の塩サバのみであれば市場取扱量は生鮮サバと同様に、国内漁獲量の動向に左右されますが、輸入原料の塩サバもありますので、生鮮サバと同じ市場動向とはなりません。

 輸入原料のサバの大半はノルウェー産タイセイヨウサバですが、同国から買い付ける冷凍サバは、12月頃から国内搬入が始まり年を超えて春頃まで続きます。その間、水産加工業者は塩蔵サバを製造しながら必要に応じて随時出荷します。ですから生鮮サバと違い、私達が食べているノルウェー産原料の塩サバは概ね昨シーズンに漁獲されたタイセイヨウサバということになるのです。

 こうして、原産国が違う2種類のサバが塩サバとして東京都中央卸売市場に入荷されているのですが、入荷の多い年は卸売価格も下落する場合が多いようです。


 さて、国内有数の水揚港であり、サバの一大加工産地でもある八戸漁港では、今月に入り1日1000トン以上のサバの水揚げの日があるなど好調で、不振だった昨年や一昨年を上回る水揚げが続いています。近年の不振を吹き飛ばすような豊漁の便りが続くことを願いたいものです。

サバイラスト
イラスト:N.HIKARI
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