旬のお魚かわら版
No.100 ニジマス
2024.10.31旬のお魚かわら版 No.100(2024年10月31日)
記念すべき第100回目は前回の「ベニザケ」に続き、サケ類(サケ科サケ属)の「ニジマス」です。
ちなみにニジマスは1988年からサケ属に分類されるようになったそうです。
原産地は北アメリカ東部等ですが、明治10年に米国カリフォルニア州から食用向けに移入され、淡水養殖が日本の各地で盛んに行われてきたという歴史があります。
ニジマスは下の写真のとおり頭が小さく、体に黒い斑点が無数にみられ、体側にはうすい桃色の帯があります。
前回の「ベニザケ」でも書きましたが、サケ類のうち一部の種類では、海に降って大きく成長するグループ(降海型)と、海に降らずに一生を淡水(河川や湖)で生活するグループ(残留型)の2つのタイプがあります。
ニジマスにもこの2タイプがあり、私たちが一般的にイメージするニジマスは残留型の方です(英語で「レインボートラウト」と呼ばれます)。そして降海型のニジマスは英語で「スチールヘッド」と呼ばれます。
また、残留型ニジマスの優良個体と「スチールヘッド」を交配して品種改良したニジマスの選抜育種「ドナルドソン」は国内外で盛んに海面養殖され、日本国内でも主にチリ産などが「サーモントラウト」または「トラウトサーモン」の名前で流通していますし、国内の海面養殖でも青森県むつ市の「海峡サーモン」が有名です。
後述のとおり、ニジマスには上記の「ドナルドソン」をはじめ、さまざまな品種が生産されています。
上のグラフは、内水面漁業・養殖業におけるニジマスの年別国内生産量の推移です。
まず漁業生産のニジマスについては、途中データ欠損の年があることに加えて、平成18(2006)年以降はデータが公表されておらず、詳細は判明しません。ただ長期トレンドでは昭和40年台後半から漸減傾向が続いていることから、増えている状況にはなく減少若しくは横ばい傾向と推測されます。
養殖ニジマスについては昭和48年以降から統計データが公表されていますが、それより前は「マス類」で括られており、ニジマス以外のマス類も含まれています。しかし48年より前の4年間は1万トンを超えており、ニジマスの収獲量は当時も1万トン前後あったものと推測されます。そして昭和50年台後半にピークがあり、そこを境に減少傾向に転じ2020年まで続きました。ただ、2020年は新型コロナ感染症による様々な規制措置など講じられ、各方面に影響を与えた元年でもあり、それが反映されているかもしれません。ちなみにその後の3年間はやや増加しています。
昭和50年代に生産のピークがみられたのは時代背景が大きく関わっていると思われます。下のグラフにあるように、高度経済成長期の真っただ中の1967年に日本の総人口は1億人を突破し、1980年代後半から始まるバブル経済期に向けて全てが右肩上がりの時代を迎えていました。しかしバブル崩壊後は2008年の1億2808万4000人をピークに人口は減少に転じ、少子高齢化が加速化する中、2023年には1億2435万2000人まで減っています。
高度経済成長期以降にはレジャーとしての釣りブームが度々起こり、昭和40年代の第1次ブームでは服部善郎名人が深夜番組「11PM」で人気を博し、昭和50年代の第2次ブームは人気マンガ「釣りキチ三平」や、先日亡くなられた西田敏行さんが映画ではまり役にもなった「釣りバカ日誌」などが牽引しました。平成年代初頭には第3次ブームがありキムタクを始め人気タレントがしばしば釣りのテレビ番組等に出演していました。
船釣り、堤防釣り、渓流釣りなど、海・川・湖を問わず釣りブームは度々起こり、また女性の釣りファンや釣りタレントも増えて、「釣りガール」という言葉も世間に定着したようです。
筆者も50年ほど前に神奈川の早戸川の河川敷でトライアル(バイク競技)の「練習」の合間にマス釣りをしたことがあります。渓流の一部を仕切って設けた専用の観光釣り場に放流した養殖のニジマスを釣るのですが、早めに釣り上げないと、そのうちに魚が満腹になってしまい餌に食いつかなくなり釣れなくなります。狭い川の一画を区切ったような空間では、やはり時間勝負が大切ということを体験しました。その時に釣り上げたマスはその場で焼いて食べることができたのですが、かなり魚体が大きく1匹食べるととそれなりの充足感があり、2匹目には手が出なかった記憶があります。
上のグラフではニジマス養殖も往時に比べかなり生産量が落ちていますが、その背景には釣り人口や観光釣り場などの減少も影響していると思われます。第3次釣りブーム時の1996年には2,040万人の釣り人口がありましたが2022年には520万人にまで大幅減少しています。何度かのブームがあったとは言え、やはり人口減少や少子化などの影響が釣り業界にも及んでいるようです。
一方で、ニジマス養殖は内陸県や山間部の地方を中心に、さまざまな品種改良のもとで盛んに行われ、各地でブランド魚が誕生しています。
例えば、栃木県では全雌三倍体ニジマスの「ヤシオマス」が有名で、近年ではさらにブランド化した「プレミアムヤシオマス」、「プレミアムオリーブヤシオマス」も登場しています。また、長野県では雌のニジマスと雄のブラウントラウトを交配させた「信州サーモン」が有名です。
海のある愛知県三河地方でも、「ホウライマス(鳳来鱒)」(愛知県水産試験場鳳来養魚場で偶然発見された突然変異の無斑ニジマス)の雌と、「アマゴ」(サツキマスの河川残留型)の雄を交配させた「絹姫サーモン」が開発され、「サーモンを越えたサーモン」というキャッチフレーズで売り出されています。
このように、ニジマスにはさまざまな選抜種や交雑種を用いた特産品の養殖が各地で盛んに行われており、ギンザケなどとともに「ご当地サーモン」ブームの一翼を担っています。
筆者もコロナ前に旧友と信州へ旅行した際、旅先で2回程「信州サーモン」を食したことがあります。臭みがなく、脂も適度に乗っていて、とても美味でした。内陸県で、わざわざ県外から運んできた海産魚の刺身を食べるくらいなら、絶対に地元推奨のご当地サーモンを食べる方が良いです!
機会があったら是非、ご当地サーモンを食してみてください!
旬のお魚かわら版
「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!