旬のお魚かわら版

No.94 シイラ

2024.07.31

旬のお魚かわら版 No.94(2024年7月31日)


 今回はハワイでは高級魚として扱われている「シイラ」です。

 シイラはスズキ目シイラ科に属し、仲間におめでたい名前の「エビスシイラ」がいます。

 シイラの漢字表記は「鬼頭魚」の他、「鱪」、「鱰」とも書きます。またハワイでは「マヒマヒ」と呼ばれ、とても人気のある食用魚です。

 「魚偏に暑」の漢字表記やハワイなど、暑さを連想させる魚ですね!

 ハワイは昭和年代は「常夏のハワイ」などとも呼ばれていましたが、現在ではあまり聞かれなくなったように思います。ハワイやグアムが日常的に非常に近い関係になったからでしょうか。

シイラ
シイラ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 シイラは世界の熱帯から亜熱帯海域に分布しており、日本の沿岸・沖合の太平洋、日本海にも生息しています。回遊魚でもあり、日本の近海にはおよそ水温が20℃以上に達する季節になると来遊するものと考えられています。

 寿命は5年程度で、1~2歳で成熟を開始。成長すると体長2m、体重40kgにまでなるといわれています。

 体形的な特徴は何といっても背びれが頭部から尾の付け根まで伸びていることで、他の魚類とは違いがあります。そして頭部を含めて体高が高く、成長するにしたがってより高くなるのが特徴。

 主に表層の水深5~10メートル付近に生息し、流木や流れ藻に集まる習性があります。高知や島根、鳥取など一部の県では、その習性を利用したシイラ漬け漁という伝統漁法(竹などで造った漁具を海に浮かべてシイラを集め、まき網などで獲る漁法)もあります。

 漁法を巡ってはいつの時代も「人間と魚の知恵比べ」のような歴史があるのです。

シイラ漁獲量
出典:国立研究開発法人水産研究・教育機構「我が国周辺の水産資源の評価(令和5年資源評価調査報告書)」

 上のグラフは、太平洋中区と南区、すなわち千葉県から宮崎県までの太平洋側の9県(千葉、神奈川、静岡、三重、和歌山、徳島、高知、大分、宮崎)のシイラの漁獲量の推移(2003~2022年)です。

 太平洋側だけではなく、日本海でもシイラの漁獲はあるのですが、2007年以降シイラの全国漁獲量(漁業生産統計)は公開されていませんので、ここでは別の資料を引用しました。また、県によっては漁法別データの欠落があり資源解析をするには不十分という状況ではありますが、直近のデータをもとにして現在の資源動向を分析した結果が発表されており、それによると資源動向は横ばいと評価されています。

 全国の統計データが公表されていた2006年までを見ますと、平成年代(1989~2006年)のシイラの全国漁獲量は2万~7千トンの枠内で増減しています。しかも過去の都道府県別漁獲量データによると、上のグラフにない日本海区と東シナ海区を足した漁獲量は太平洋側の漁獲量に匹敵しています。

 そこで、日本海での近況を見てみますと、例えば富山県でのシイラの漁獲量は増加傾向にあり2023年には過去最多の2,452トンを記録し、地元でも注目されているそうです。また日本海北部の海水温と富山県のシイラの漁獲量(8月から12月)には有意な正の相関がみられたとの研究などもあり、ますます期待は大きくなるのではないでしょうか。石川県(石川主要漁港10港)でも2023年は982トンで1995年以降では過去最多を記録、福井県でも同じく593トンで前年を上回り、上記3県で4000トンを超えており、東シナ海に面した県や太平洋の茨城以北の県での漁獲量を合わせると8000トン程度に達するとみられます。

 シイラもご多分に漏れず海の温暖化の影響を受け、北の海に生息域が拡がっているとみられますが、消費地での状況はどうなっているのでしょうか?

シイラ取扱高
出典:東京都中央卸売市場・市場統計年報

 上のグラフは東京都中央卸売市場におけるシイラの取扱状況(2002~2023年)です。

 これによりますと、入荷量は10年前以上に比べて明らかに減少しているのが分かります。特に2005、2009、2010、2017、2018年と図1の太平洋側での漁獲量が減少している年の入荷量は減っています。それに連動して卸売価格の方は上昇が顕著で、20年前の約2倍にまで上昇しています。

 そもそもシイラは鮮度落ちが速く、刺身で食べる場合は産地で獲れたてを食べるのが基本ですので、もともと刺身用としては消費地への出荷が少ない魚です。また、すり身や切り身の加工原料として使用されることも多く、後述のとおり産地側で新たに商品開発されたりするなど利用促進されていることも、消費地市場の入荷に影響を与えているかもしれません。

 またシイラは以前から消費・嗜好の地域差が大きい魚で、多く獲れても未利用魚・低利用魚として扱われる産地も多く、20年以上前は産地価格も2ケタ台(今でもみられますが)というのが通り相場だったような記憶があります。漁法も大別して定置網とまき網になるのですが、定置網では水揚げを終えた乗組員のおかずとして分配されていたのを記憶しています。

 また、他の魚同様サイズ問題もあり、単純に漁獲量がまとまれば良いというものでもなく、それなりに安定して漁獲されることがベストの条件です。

 ともあれ現在でも相対的に価格的に安い魚でもあり、鮮度落ちが速く都市部での消費が難しい刺身を除けば、様々な調理法もあります。新たに商品開発して街で販売する場合でも、きちっとした鮮度管理は行われているはずですので安心して素材として使えると思います。

 また、近年の円安で元々食文化のある国への輸出商材としても可能性が高まっていることや、ハンバーガーブームなどもあり、マヒマヒバーガーとして製品を作るアイデアなどもきっとありだと思います。産地では以前より、ブランド化や学校給食での食材化など各地で様々な利活用の取り組みが進んでいます。

 先日も各地で最高気温40℃が続出!シイラをがぶり一噛み、暑さを乗り越えましょう!!

シイライラスト
イラスト:N.HIKARI
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