旬のお魚かわら版

No.60 トラフグ

2023.04.14

旬のお魚かわら版 No.60(2023年3月1日)


 今回はこれから産卵時期を迎える「トラフグ」です。
 トラフグはフグ科トラフグ属の魚ですが、同じトラフグ属の仲間には一般的に知られているクサフグ、ゴマフグ、ショウサイフグ、マフグ、ナシフグ等もいます。日本の周辺に棲息しているトラフグは大きく分類すると伊勢・三河湾系群と日本海・東シナ海・瀬戸内海系群という2つのグループに分かれています。

 いずれも寿命は10歳以上とされ、成熟年齢も雄2歳、雌が3歳とされています。日本列島の北海道沿岸から太平洋全域、東シナ海北部から中国沿岸の黄海、朝鮮半島沿岸まで広く棲息しています。

トラフグ
生鮮の素+プラス さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 フグ類は世界中には160種類ほど知られていますが、日本沿岸では50種余りが分布しています。漁法でみると延縄(はえなわ)を始め多くの漁法(定置網、1本釣り、底曳網、まき網、吾智網等)によってフグ類は漁獲されています。


 さて、愛嬌のある顔つきで親しまれているフグですが、他のフグとトラフグとを区別するポイントは、顔つきではなく胸びれの後方にある大きな黒い斑紋で、続いて小さな黒い斑紋が疎(まば)らに並んでいます。もちろん、胸びれの後方に大きな斑紋があるフグは、他にもマフグやカラス等がありますが、尻びれの色が違ったり、背びれ側の小紋に違いがあるので分かりやすいと思います。


 国の統計ではトラフグを含めたフグ類全体の漁業生産量を公開していますので、その推移を下のグラフに示しました。

天然フグ漁獲量
資料:農水省「漁業・養殖業生産統計年報」

 フグ類全体の漁業生産量は統計が公表されて以来、近年は低位・横ばい傾向が続いています。また、国の統計には出ていませんが、現在のトラフグ日本海・東シナ海・瀬戸内海系群の資源について、低位・減少と評価していることから判断すると、トラフグの全国生産量は200~300トン程度と考えられます。

 例えば、「北限のとらふぐ」として全漁連のプライドフィッシュに選ばれた秋田県のトラフグの場合、令和4年の漁獲量は4.2トンで、大漁というほどの漁にはなっていません。「北限のとらふぐ」といえば、近年メディアでもしばしば取りあげられたりしますが、今や北海道や三陸北部でも漁獲されたり、福島県でもここ数年で漁獲量が急増した、という話を聞きます。

 まだ秋田県のような産卵場の存在は確認されていないようですが、ブリの例をみるまでもなく、トラフグも確実に北に生息域を拡げているようです。

テッサ

 上の写真は、フグの「テッサ」(関西ではフグのことをテッポウと呼び、テッポウ刺しを略してテッサと呼ばれている。)です。

 フグは普通刺身の時は薄造りで供されますが、フグの肉は繊維質で弾力があるため 噛み切ることが難しく薄く引くようになったようです。

 ここまでくれば、やはり「ヒレ酒」も外すわけにはいきません。独特の香りに包まれた熱燗を飲むのは、やはり独特のものがあります。猛毒のテトロドトキシンを持っている内臓などを別にすれば、ヒレも上手に使っていてアラも「てっちり」に入れたりもするので余すところなく使っています。


 フグといえば下関には「春帆楼本店」があります。初代内閣総理大臣・伊藤博文も愛したといわれ、ふく料理公許第一号店とされた老舗の料理店(宿泊施設)で、日清戦争の講和条約(下関条約)の締結や将棋の竜王戦対局の会場など 様々な場面で登場し広く知られる施設です。中々いく機会には恵まれませんが、一度は本場の天然トラフグを味わってみたいものです。

「河豚食はぬ奴には見せな不二の山(一茶)」

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