Web版 解説ノート

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2022年4月22日(金)更新

空には星、海には貝。

2022年4月22日(金)更新

カタツムリやクリオネも貝の仲間

貝類が地球に登場したのは、約5億年前のカンブリア紀と言われています。地球の環境の変化に合わせて適応する能力を獲得しながら、現在では水深1万mを超える深海の海底から標高1000mの高山まで、海・川・湖沼・田んぼ、畑、住宅地といたるところに貝は分布しています。

住宅地というと不思議な感じを受けるかもしれませんが、梅雨時によく見かけるカタツムリも巻貝の仲間です。

サオトメイトヒキマイマイの貝殻の写真
中米の西インド諸島に生息するカタツムリの仲間サオトメイトヒキマイマイの貝殻はとてもカラフル

とはいえ、やはり海にすむものが多く、日本のまわりには8000種ほどの貝が生息しているといわれます。

2枚の殻が合わさった二枚貝と螺旋(らせん)状をした殻の巻貝とでは、大きく形が異なりますが、どちらも伸び縮みする柔らかな体を貝殻で保護しています。

貝は必ず貝殻を持っているイメージですが、分類学では、貝は軟体動物。殻を持たないイカやタコなどの頭足類も仲間ですし、クリオネ(ハダカカメガイ)やウミウシのように、巻貝の仲間でも貝殻が失われてしまったものもいます。

一方、貝殻のような硬い殻を持ち、岩に張り付いているフジツボやカメノテは貝の仲間と思われがちですが、これらはエビやカニの仲間で、貝ではありません。ただ、私たちが普通「貝」と呼ぶ場合、硬い殻に覆われた軟体動物を指すことが多いので、本稿では、二枚貝と巻貝を中心に紹介します。

色も形もさまざま。貝殻の不思議

貝とヒトとの付き合いは古く、昔から食料としてはもちろん、硬くて丈夫な貝殻はナイフなどの道具や腕輪などの装身品として利用されてきました。

貝殻は外敵から身を守るために発達した器官です。

貝殻は炭酸カルシウムとたんぱく質でできています。内臓を守るように包む外套膜(がいとうまく)から分泌されたカルシウムが化学反応を起こして結晶化し、既存の殻に付着することで、大きく厚く成長していきます。

カジトリグルマ、カフスボタン、マンボウガイ、ヒレジャコの写真
カジトリグルマ、カフスボタン、マンボウガイ、ヒレジャコ

巻貝は右巻き(螺旋が時計回りなら右巻)、左巻きの両方いますが、なぜか左巻の巻貝は少なく、9割以上が右巻だといわれています。

サカマキボラの写真
アメリカ東海岸に生息するサカマキボラは珍しい左巻き

また、一般的に北の冷たい海にすむ貝は色や模様が地味で、南の暖かい海にすむ貝は色鮮やかな傾向にあります。基本的に同じ種の貝は色や模様がほぼ一定なのですが、アサリのように個体によって殻の色や模様が異なる例もあります。

肉食系、草食系、絶食系……エサもいろいろ

貝の食性はバラエティに富んでいます。

軟体動物に特有の器官に「歯舌(しぜつ)」があります。リボン状の膜の上に規則正しく並んだ細かな歯を前後に動かし、ヤスリのようにしてエサを削り取ったり、すり潰したりするのです。

貝の食性のイラスト
軟体動物に特有の摂餌器官である歯舌で削り取るように食べる。
歯舌はすり減るが次々に新生される。

多くの巻貝がエサにしているのは海藻です。サザエやアワビなどは海藻類を、歯舌を使って削り取るように食べています。

ツメタガイなどタマガイ科の貝は大きな足で二枚貝を包み込むと、酸性の物質を分泌して殻を柔らかくし、歯舌で小さな穴をあけ、そこから中身を食べます。

一方、アサリやカキなど二枚貝の多くは海水に含まれる有機物をエラで濾し取って食べています。オオヘビガイなどムカデガイの仲間も巻貝にしては珍しく足から分泌した粘液を網のように流し、有機物やプランクトンを絡めとって食べています。

いわゆるエサを摂らない、ちょっと変わった貝もいます。シャコガイは体表の細胞の間に単細胞の藻類を共生させています。この共生藻はシャコガイの出す二酸化炭素と太陽光エネルギーで光合成を行い、酸素や有機物をつくりだします。シャコガイはこの有機物を栄養にしているのです。

繁殖戦略も百貨店並みの品揃え

貝の繁殖についてみてみましょう。これもさまざまなスタイルがあります。

二枚貝は出水管から精子や卵を吹き出して水中で受精を行います。巻貝のアワビやサザエも同じで、孵化した幼生は海を漂いながら成長し、親と同じ形になると水底で生活を始めます。

貝の受精のイラスト

同じ巻貝でもアカニシやツメタガイは交尾をして、メスが袋に包まれた受精卵の塊を海底の砂や岩などに産卵するスタイルです。タニシやカワニナなどは交尾をし、メスが胎内で受精卵を育て、親と同じ形をした稚貝を産みます。

オスの生殖器官(精巣)とメスの生殖器官(卵巣)の両方を一個体にもつものを雌雄同体といいますが、トリガイやシャコガイがこの形態です。シャコガイは自分の精子と卵が受精する確率を減らすために、最初に放精し、時間をおいて放卵します。

貝類の寿命もさまざまで、クリオネは1〜2年、アサリは6〜7年、アワビが7年以上、ホンビノスガイは30年以上と考えられています。なかには500年以上も生きたアイスランドガイが発見されていますから驚きです。

貝に願いを

貝に願いを

貝に願いを

日本には約2500の貝塚があるように、先史時代から私たちは貝を常食していました。食べるだけでなく、貝殻はナイフや腕輪にも利用しました。綺麗で美味しい貝の特集です。

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