Web版 解説ノート

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2023年4月20日(木)更新

クジラが人類にもたらした恵み。

2023年4月20日(木)更新

日本人とクジラの深い関係

日本人とクジラのつきあいは古く、原始時代からクジラは貴重なタンパク源であったことが、大昔の壁画や貝塚で見つかるクジラの骨などからわかっています。

ことわざに「一頭捕れば七浦潤う」といわれたように、大量の肉や油がとれ、ひげや骨も利用できるクジラは、経済効果がとても大きかったのです。

シロナガスクジラ
絶滅近くまで乱獲された海の王様

シロナガスクジラ イラスト
冬に赤道近くの海で出産し、夏になると北極や南極の冷たい海に移動する。通常は単独か母子2頭連れで行動する。主なエサはオキアミ。1930年代の捕鯨で数が激減(30~31年だけで3万頭を捕獲)、1966年に全海域で捕獲が停止された。

18世紀半ばにヨーロッパで産業革命が起きると、クジラからとれる油(鯨油)の需要が一気に拡大します。なによりも、産業革命の発端となった紡績産業において、繊維の脱脂と洗浄には鯨油が欠かせませんでした。

また、1800年代半ばにダイナマイトが発明されましたが、この主原料は油から抽出したグリセリンでした。ダイナマイトは重工業の発展に必要な石炭の採掘に威力を発揮し、大量に生産されました。そのほか機械用潤滑油(冷地でも凝固しない)、灯火用燃料、石鹸や洗剤、マーガリンの原料など鯨油には多彩な用途がありました。

つまり、クジラは人類の近代化に大きく関係しているのです。

鯨油の需要が増えるとともに捕鯨船は数を増し、北大西洋から北太平洋へと繰り出すようになり、世界の海でクジラは乱獲されます。

なかでも体が大きく、油がたっぷりとれ、泳ぎが遅く、死んでも沈まないホッキョククジラやセミクジラは格好の標的になり、みるみるうちに数が激減してしまいました。

セミクジラ
巨大な頭でずんぐりむっくり

セミクジラ イラスト
巨大な頭部周辺にはフジツボがこびりついているように見えるが、これは髪の毛と同様の角質が集まったもの。遊泳速度が遅く、死んでも沈まずに海面に浮き、油とひげが大量に採れたために捕鯨の対象となり、19世紀に激減。

日本の近現代史にも、クジラは大きくかかわってきます。

約300年の間、鎖国をしていた日本が開国する発端となったペリー提督率いる黒船の来日も、マッコウクジラを追って北太平洋で操業するアメリカの船が、水や燃料を補給できるように開港させるのが目的でした。

マッコウクジラ
『白鯨』のモデルになった最大の歯クジラ

マッコウクジラ イラスト
歯クジラの仲間では最大。オスはメスよりも大きい。数頭のメスとその子どもたちで群れをつくる。オスの子どもは大きくなると群れを離れ、若いオスだけの群れをつくり、旅をする。深く潜る能力にすぐれ、潜水時間は1時間以上、深さは1000m以上。

また1945年、太平洋戦争に敗れた日本は極端な食料不足に陥りました。それを救ったのがクジラでした。南氷洋捕鯨で得たクジラの肉が国民の貴重なタンパク源になったのです。

昭和30年代の学校給食では、クジラ肉の立田揚げは定番のメニューでした。

ヒトはイルカと会話できるか?

現代、日本人とクジラのポピュラーな接点のひとつが水族館のイルカショーです。日本には現在イルカを飼育している水族館が約50ありますが、どこでもイルカショーは人気です。

あらためてイルカとクジラの関係をおさらいすると、クジラはひげクジラと歯クジラの二つに分けられ、歯クジラのなかの小型のものが「イルカ」と呼ばれています。

ひげクジラ 歯クジラ
クジラひげがある 歯がある
主に動物プランクトン 主に魚やイカ
食べ方 群れごと飲み込む 一匹ずつ食べる
鼻の穴 2つ 1つ
大きさ 巨大な種がいる 比較的小型
雌雄の差 メスが大きい オスが大きい
群れ あまり群れない 大群をなす種もいる
明赤色 濃い赤色

大人も子どもも大好きなイルカ。何が私たちを魅了するのでしょう。

イルカは大きな口を開けて笑いかけているように見えることもあります。

これは頭から出した超音波で、前方を探っているのです。こちらを向いて首を振る動作は、ヒトが目を動かすのと同じ行動です。

濁った水中や、光の届かない深い水深では視力があまり役に立たないので、そのぶん聴力が発達したのです。

バンドウイルカ(ハンドウイルカ)
水族館のイルカショーでおなじみ

バンドウイルカ(ハンドウイルカ) イラスト
飼育環境への適応能力にすぐれ、世界中の水族館で飼育されている。船と並んで遊んだり、サーフィンしたり、水面上数mもジャンプしたりするように、泳ぎが得意である。数頭から20頭くらいの群れが普通だが、沖合では数百頭の群れをなすこともある。

にぎやかにおしゃべりをするイルカですが、クジラ類には声帯がありません。噴気孔から気管まで鼻道やのどの空気の流れを使って音を出しています。

実は、長い間クジラは鳴かないと思われてきました。大型のクジラも鳴くことがわかったのは、第二次世界大戦の最中です。

アメリカは沿岸に潜水艦が近づくのを警戒し、海岸線に水中マイクを設置して警備に当たっていましたが、謎の音が記録されます。必死に潜水艦を探しましたが見つからず、やがて、それがクジラの鳴き声であると判明しました。

歌うクジラとして有名なのがザトウクジラです。音ははるか遠くまで伝わり、その距離は30kmともいわれています。

クジラが音声コミュニケーションをしているのは明らかですが、体系的な言語で会話をしているのかどうかは謎です。

ヒトがクジラと会話ができたら楽しいのですが、どうしても人間は動物を擬人化して、人間の価値観や尺度で評価しがちです。

イルカを「人懐っこい。やさしい。頭がいい」と感じるのは、人間の価値観です。知能が高くても、生活環境がまるで違いますから、クジラが私たちと同じように感じ、行動すると思うのは、誤りでしょう。

回遊するときにどのような方法で方角を知るのか、なぜ集団で座礁するのか……まだまだたくさんわかっていないことがあるのです。

イラスト提供/(一財)日本鯨類研究所

日本人が愛するクジラ

日本人が愛するクジラ

日本人が愛するクジラ

地球最大の生き物であるクジラは多くの恵みをもたらしてくれました。しかし、乱獲や海洋環境汚染などでクジラを追い詰めてしまった人類。クジラとの賢い付き合い方を学んでいきたいものです。

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