Web版 解説ノート
2023年5月22日(月)更新
クジラのからだ「解体新書」。
2023年5月22日(月)更新
クジラはヒトと同じ哺乳類
クジラとはどんな生き物なのでしょう。現在、世界で確認されているクジラは84種類で、日本の周りの海には40種近くが生息するといわれています。
クジラは海に暮し(一部淡水にすむ種類もいる)、魚のような形をしていますが、エラではなく肺で呼吸をし、血は温かく、卵ではなく赤ちゃんを産み、子どもは母乳で育てる我々と同じ哺乳類です。
クジラの先祖をたどると一番近いのはカバだということがわかっています。
主な部位の特徴を見てみましょう。
鼻の穴(噴気孔)blowhole
歯クジラの仲間はひとつ、ひげクジラの仲間はふたつ。クジラの呼吸は鼻腔を通してのみで、口では呼吸をしない。
眼eye
眼の表面に脂質性の物質を分泌して、海水の刺激から保護している。まつ毛、涙腺はない。まぶたはよく動く。
皮膚skin
体毛は退化し、汗腺もないので汗をかかない。皮膚は滑らかで弾力性があるので抵抗となる水の渦をつくらない。
背びれdorsal fin
背びれの大きさや形、位置から種類が判別できる。セミクジラのように背びれをもたないクジラもいる。
尾びれflukes
魚の尾びれは左右に動くが、クジラは上下に動かして泳ぐ。後脚が変化したものと思われがちだが、そうではない。ひれは脂肪が少なく、網の目のように血管がはりめぐらされ、体温調節の役目もしている。
生殖孔gonopore
へそと肛門の間に細長い溝があり、メスは溝の両側に乳首が並ぶ。オスはこの溝の内側にペニスをS字型に収納している。ちなみにシロナガスクジラのペニスは長さ3m、根元の直径は30cm、しかも先端は触手のように動く。ゾウと同じくクジラ類の睾丸は体内にある。睾丸が最も大きいのはクジラではセミクジラ、イルカではマイルカ。
胸びれflipper
からだの方向を変えるときや、止まるときなどに使う。腕が変形したものなので、胸びれの骨にはひじの関節や指のような骨もある。
畝(うね)ventral groove
凸凹で水の抵抗を少なくするとともにアコーディオンの蛇腹のようにふくらませ、口の容量を大きくして大量にエサを飲み込む。ナガスクジラ科には40〜100本ある。歯クジラの仲間や、ひげクジラでもセミクジラ科にはない。
クジラひげbaleen
ひげクジラの「ひげ」は歯が変形したのではなく、上あごの歯茎が変化したもの。これを使ってエサを濾して飲み込む。組成は歯よりも爪に近い。
海で暮すのに適したからだの構造
クジラは水中で生きるのに便利なような体のつくりになっています。解剖図を見てみましょう。
脳brain
地球上に現れた生物のうちで最大。とくにマッコウクジラの脳は大きく9.2kgの記録がある(ヒトは平均1.4kg)。脳のしわも多い。知能が高いから、クジラがヒトと同じように考えたり行動したりすると思うのは誤り。
筋肉muscle
酸素を筋肉中にあるミオグロビンに蓄えることができる。蓄えられる酸素は陸上哺乳類の3〜4倍(マッコウクジラは8〜9倍)。
骨bone
脂肪分を51%も含むため柔らかい。一頭から採れる油の部位別の割合は皮膚45%、骨25%、肉は1%。
脂皮blubber
皮膚の下には厚い脂肪層がある。これは冷たい水温から身を守る断熱材的な役割があるとともに、エネルギーを貯めておく貯蔵庫でもある。
骨盤pelvis
大昔、祖先が陸にいたことを示す、足腰のなごりの骨が残っている。
子宮womb
水中で出産する哺乳類はクジラのほかはマナティなどの海牛類とカバだけ。大半が尾から先に生まれる。妊娠期間は1年前後が多いが、マッコウクジラは1年4か月と長い。
腎臓kidney
ブドウの房のような形をしている。塩分を尿と一緒に排泄する必要があるため、他の哺乳類に比べるとかなり大きい。
胃stomach
多くのクジラには4つ胃がある。牛のような反芻はしない。一度にたくさん食べ、ゆっくり消化する。
肺lung
シロナガスクジラは一回の呼吸で2000ℓの空気を吐き出す。体の大きさとの割合で比べるとそれほど大きくはないが、常に深い呼吸をしている。陸上哺乳類の場合、肺の空気の入替えは10〜15%なのに比べ、クジラは80〜90%。
心臓heart
体重に比べると血液量が多い。血液は呼吸しているときは速く、していないときはゆっくり流れる。
イラスト/宇和島太郎
日本人が愛するクジラ
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地球最大の生き物であるクジラは多くの恵みをもたらしてくれました。しかし、乱獲や海洋環境汚染などでクジラを追い詰めてしまった人類。クジラとの賢い付き合い方を学んでいきたいものです。