Web版 解説ノート

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3 部

2023年6月20日(火)更新

クジラの疑問、なんでもQ&A。

2023年6月20日(火)更新

Q.何歳まで生きますか?

種類によってクジラの寿命は大きく異なります。シロナガスクジラは120歳くらい、イルカは25〜35歳くらい。200年生きたホッキョククジラが報告されたこともあり、長寿の解明も進められています。

長寿の理由は、海洋は陸に比べて環境の急変が少ないこと。エサとなる生き物が豊富で安定していること。外敵となる生物が少なく、病気も少ないことなどが考えられます。

よくヒトの寿命(約80歳)と比べられますが、動物として自然の状態での平均寿命を考えるとヒトはもっと短くなります。

Q.長い旅をすると聞きますが?

ザトウクジラは、赤道近くから北極(南極)近くまでと、非常に長い距離を回遊します。冬に温かい海の沿岸部で交尾・出産をし、夏はエサがたくさんいる冷たい海に移動して、たっぷり栄養をとります。

ザトウクジラは温かい海では、ほとんどエサを食べません。盛んにエサを食べるのは冷たい海で暮す期間だけで、このときに栄養を皮下脂肪にして蓄え、まるまると太るのです。子どもは、糖分が少なく脂肪分の多い母乳で育ちます。

群れによって冬と夏を過ごす場所は決まっています。季節が逆になるので、北半球から南半球へ回遊することはないと考えられています。

同じナガスクジラの仲間のシロナガスクジラやミンククジラも同じような大回遊をします。

ザトウクジラ回遊図
ザトウクジラ回遊図

Q.なぜ巨大になったのですか?

シロナガスクジラは46億年の地球の歴史上、最も巨大な生物といわれています。

恐竜も巨大でしたが、化石などでサイズがほぼ正確に分かる恐竜のなかでは最大級のブラキオサウルスが体長25m、体重50t(推定)ですから、クジラは恐竜よりも大きいのです。

なぜ、こんなに大きくなったかというと、陸上では体を手足で支えるので、体重に限度があるのに対し、海中は浮力があるので、重い体でも自由に動けること。そして、大きな体をつくる栄養源=エサとなる生き物が海にはたくさんいるからです。

Q.小さな餌でも、大きくなれるワケは?

シロナガスクジラは巨大な体をしていますが、食べているのは5cmほどのオキアミです。そんな小さなエサであの大きな体になるのは難しそうですが、実はカロリー的にはイワシなどの魚を1kg食べるのも、オキアミ1kgもほぼ同じです。

しかも一定の海域にいる総量は魚よりもオキアミのほうが圧倒的に多いのです。

シロナガスクジラは1日に8億匹のオキアミを食べるといわれていますが、1年のうちでエサを食べているのは3〜4カ月間です。

Q.エサの捕まえ方は?

大きな口をもち、歯の代わりに口の中にひげを生やしているひげクジラ。オキアミなど小さな動物プランクトンや、イワシなど大きな群れをつくる魚を群れごと大量の海水と一緒に飲み込み、海水を押し出し、ひげの内側にひっかかったエサを舌で喉の奥に押し込んで食べます。

クジラの種類によってエサの捕り方は異なります。

[ザトウクジラ]
数頭が魚の群れの下に潜り込み、噴気孔から空気を吐き出し、輪を描くように泳ぐ。 空気の泡は筒状の網のように群れを包み込み、集まった魚を大きな口で飲み込む。

ザトウクジラのイラスト

[コククジラ]
比較的浅い海底の泥の中にすむカニなどを食べるため、体の右側を下に傾け、ロの右側から海底の泥ごとエサを吸い込み、左側のひげを使ってエサをろ過する。

コククジラのイラスト

[ナガスクジラ]
エサの群れを海面近くまで追い上げると、大きな口を開き、大量の海水ごとエサを飲み込む。次に口を閉じ、フィルターのようにひげでエサをろ過しながら、海水だけを押し出す。

ナガスクジラのイラスト

[セミクジラ]
口先を少し開けたまま泳ぐだけで、大きな口からエサと海水が口に流れ込む。遊泳する水流を利用して、ひげでエサだけを漉しとり、海水は口の外へ出す。

セミクジラのイラスト

Q.なぜ潮を吹くのですか?

クジラの鼻の穴(噴気孔)は頭のてっぺんにあり、水面にでると閉じていた鼻の穴を開け、激しく息を吐き、すぐに息を吸い込むと、ふたたび鼻の穴を閉じます。

クジラの潮吹きは吐き出した息(噴気)のことです。噴気の形は種によって異なるので見分ける目安になります。

陸上の哺乳類に比べると呼吸数は少ないのですが、1回の呼吸が深く、肺の容量の80〜90%を入れ替えるのに加え、水圧で酸素が血液に溶け込みやすく、しかも筋肉中に酸素を保持するミオグロビンも豊富なので、陸上哺乳類よりも酸素を体内に効率よく蓄積できます。

Q.深く長く潜れる理由は?

クジラのなかでも特に潜水能力に長けているのがマッコウクジラ。普段潜るのは1000mくらいですが、3000m以上潜れるといわれています。

強い水圧がかかると人間の肋骨は折れ、肺はつぶれてしまいますが、クジラの肋骨は、陸上の哺乳類に比べ数が少なく、しかも肺の圧縮に合わせて動くので、折れることがありません。

また肺は伸縮性があり、ほとんど空気が残らない状態まで縮めることができます。体内に蓄えた豊富な酸素と、この体の構造で、クジラは長い時間潜ることができるのです。

Q.クジラの「聞く力」とは?

イルカなどの歯クジラは、頭から超音波を出し、モノに当たって跳ね返ってくる音(エコー)を聞くことで、地形、障害物、魚やイカなどエサの位置や形を知ることができます。

跳ね返ってきた音は、下あごの骨から頭の中にある耳に伝わるしくみです。

高速で泳ぎながら、夜の海や光が届かない深海でもエサを捕まえることができるのは、この「エコロケーション(音響探測)」のおかげです。

メロン調節のイラスト
メロン調節のイラスト

イラスト/宇和島太郎

日本人が愛するクジラ

日本人が愛するクジラ

日本人が愛するクジラ

地球最大の生き物であるクジラは多くの恵みをもたらしてくれました。しかし、乱獲や海洋環境汚染などでクジラを追い詰めてしまった人類。クジラとの賢い付き合い方を学んでいきたいものです。

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