旬のお魚かわら版

No.103 ヤリイカ

2024.12.13

旬のお魚かわら版 No.103(2024年12月13日)


 今回は、近年資源が増加しているといわれる「ヤリイカ」です。

 ヤリイカはもちろんイカの仲間で、分類上はツツイカ目ヤリイカ科ヤリイカ属になります。

 なお、ヤリイカ属はヤリイカ1種のみのようですが、ヤリイカ科まで分類の範囲を拡げるとケンサキイカやアオリイカなどおなじみのイカ類が仲間に入ってきます。ちなみにスルメイカはアカイカ科に分類されています。

 ヤリイカは下の写真のように全体が細長い一方で、足は短いことが特徴です。外套長(胴体部分の長さ)は雄が雌に比べて大きく30㎝以上に達しますが、雌の場合は22㎝程度です。また、胴体に付いているヒレの形状が槍の穂先のようにみえることが名前の由来です。

ヤリイカ
ヤリイカ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 ヤリイカは北海道から九州沿岸まで分布していて、太平洋側を回遊するグループを太平洋系群、日本海側のグループを対馬暖流系群と呼んでいます。ただ回遊と言ってもスルメイカのような大回遊はしません。成長に伴って深い場所に移動、索餌行動をし、産卵時に浅いところに戻るなど深浅移動を行っています。また、スルメイカなど他のイカ類同様、寿命は約1年と言われています。

 産卵期は1~6月で、産卵盛期になると水温10℃以上の海域に移動し産卵します。

ヤリイカ生産量
出典:水産庁・国立研究開発法人水産研究・教育機構「水産資源評価結果(令和5年度魚種別資源評価)」

 太平洋系群は主に沖合底引網漁業により漁獲されますが、海区によりその漁法に違いがあります。

 上のグラフはヤリイカの系群別(太平洋系群・対馬暖流系群)の年間漁獲量の推移(1975~2022年)です。

 長期的な変化を概観すると、1980年代後半から1990年代前半にかけてピークがみられます。その後は漁獲量も漸減傾向となり、2000年代に入り10年近く漁獲の最低期を迎え、それを脱してから一時的に漁獲量も増加しましたが、近年はほぼ横ばい傾向が続いています。

 系群別の漁獲動向をみると2010年頃までは総じて対馬暖流系群の漁獲量が太平洋系群を上回っていましたが、ここ10年程は太平洋系群の漁獲が対馬暖流系群を上回るようになってきています。

 現在一番漁獲量の多い太平洋系群の北部を優先して全体の資源動向をみると、資源水準は高位、動向は横ばいとされています。海の温暖化の影響を受けているのか、総じて北部水域での漁獲増が目立っています。

 北部水域では従来、スルメイカが終漁近くになると徐々にヤリイカ主体の漁況に、すなわち冬の到来とともにヤリイカに切り替わっていきます。今季もすでに三陸地方の各漁港ではスルメイカからヤリイカに水揚げが移っています。近年スルメイカが大不漁となっていることは皆さんもご存じかと思いますが、スルメイカに比べればヤリイカは比較的安定した漁獲が続いており、特に刺身を含め生食関係ではスルメイカの代替商材として貴重な役割を担っています。

ヤリイカ取扱高
出典:東京都中央卸売市場年報

 上のグラフは東京都中央卸売市場におけるヤリイカの年間取扱高の推移(2002~2023年)です。

 消費地市場で取り扱われる鮮魚の取扱高は一般に産地の水揚げ動向に大きく左右されます。東日本大震災のあった2011年は操業が制約されたことなどもあり、消費地市場への入荷も減少が目立ちました。しかしそれ以降、産地水揚はやや減少傾向ですが、東京市場の入荷では大きな増減は無く、ちょうどこの頃は太平洋系群の漁獲が対馬暖流系群のそれを上回った時期で、しかも三陸での水揚げも多くなったことで安定した入荷に繋がったものとみられます。

 卸売価格は2000年台は入荷量に左右され乱高下が激しかったのですが、それ以降は比較的緩やかに上昇カーブを描いています。ただこの2年は他魚種や諸物価同様、価格上昇は急勾配になっています。

ヤリイカ・スルメイカ取扱高
出典:東京都中央卸売市場年報

 上のグラフは東京都中央卸売市場におけるヤリイカ・スルメイカの年別取扱状況です。

 グラフでは年毎にスルメイカの入荷が減少していること、そして卸売価格も年々ヤリイカとスルメイカの差がなくなりついに昨年はほぼ変わらなくなっていることが分かります。これは何といっても、スルメイカの漁獲量の大幅減少によるものですが、逆にいえばヤリイカはこの間比較的安定した漁獲だったことも示しています。

 特にヤリイカの卸売価格については、グラフのとおり10年前はスルメイカの倍の価格でした。よもやスルメイカがヤリイカの価格に限りなく接近するとは当時は夢にも思いませんでした。

 イカの需給においても、色々な条件の中で時代は変化するということなのだと思います。

 ともあれ、ヤリイカはスルメイカに比べ高級魚のポジションに位置していました。味が良いうえに火を入れても身が堅くならないので非常に食べやすいイカといえます。

 この時季はスーパーの売り場も年末商材に切り替わるため、徐々にイカ類は姿を消していきます。

 しかしヤリイカはこの物価高の中では値頃感のある商材でもあります。

 一般的に冬場が旬と言われていますので、ぜひ食べてみてください!!

ヤリイカイラスト
イラスト:N.HIKARI
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