旬のお魚かわら版

No.95 ケガニ

2024.08.15

旬のお魚かわら版 No.95(2024年8月15日)


 今回は久しぶりのカニ類で、タラバガニやズワイガニとともに人気の「ケガニ」です。

 ケガニは十脚目クリガニ科ケガニ属に属しています。

 一方ケガニに似ているクリガニはクリガニ科クリガニ属に属していて、何やらこっちが本家のような感じも受けます。分類上ケガニ科はなく、クリガニ科にケガニも属しているということになります。

 ケガニはその名前のとおり、全身が短い毛と棘に覆われていて、食べるのに苦労した経験を持っている方も多いのではないでしょうか!

ケガニ
ケガニ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 ケガニは日本沿岸および朝鮮半島東岸から千島列島、サハリン南部、ベーリング海東部に分布しています。日本沿岸では北海道全域、茨城県以北の太平洋側、日本海側では北海道から島根県沿岸の砂泥域に分布していて、季節的な深浅移動がみられます。太平洋側では水深350m以浅に生息していて、特に水深200~250mで分布密度が高いといわれています。

 カニ類は脱皮しながら成長します。ケガニの場合は稚ガニから2年間で8回脱皮しますが、それ以降はオス・メスで異なり、オスは毎年脱皮しますが、メスは2~3年に1度という頻度で成長がオスに比べ遅くなります。

 北海道ではいろいろなグループ(系群)があり、オホーツク海群、えりも以西群、釧路以西群、釧路以東群の他に奥尻島周辺の群、サハリンから宗谷海峡に渡ってくる群れなどが知られています。

 ケガニは地域によって様々な方法で漁獲されます。北海道や岩手県ではカニかご漁業が中心ですが、刺し網でも漁獲します。また本州の一部の県では底びき網漁業での漁獲もあります。

ケガニ漁獲量
出典:北海道水産林務部「北海道水産現勢」

 上のグラフは北海道におけるケガニ漁獲量の推移(1991~2022年)です。

 1991年以降の状況をみると1995年と2014年にピークがある二つの山があります。令和に入った現在は1000トン台で低調に推移しています。

 現在のケガニの資源水準は、グループ(系群)や海域によって違いがありますが、総じて中位~低位とされており、決して満足な水準ではありません。

 もちろん、各地で資源管理が行われており、堅ガニ(脱皮してからの期間が長く、成長したカニ)のみの漁獲、サイズ規制などの工夫を凝らして操業を行っています。

 また、ここ数年のケガニ漁獲量減少の新たな要因として北海道でのオオズワイガニ(以下、オオズワイ)の増加があります。オオズワイは以前から「バルダイ種」としてロシアなどから輸入されていました。それが2022年頃から北海道で獲れはじめ、2023年から今年にかけて噴火湾や日高地方で大漁となりました。ちょうどその時期がケガニやタコ、ツブ(エゾボラなどの巻貝)などの漁期と重なり、漁網が破損するなどの被害が急増しました。

 2021年には北海道の太平洋岸で大規模な赤潮が発生し、ケガニやタコの漁獲も急減しました。カニ類にとってタコは天敵ですから、赤潮によるタコの減少により繁殖力の弱いケガニよりも強いオオズワイが大量発生したとみる関係者もいるようです。

 いずれにしろこの地区のケガニは漁獲量が落ちている可能性があります。

 なお、漁獲が急増した当初のオオズワイはサイズが小さく、二束三文の値段しかつかなかったので厄介者扱いされていましたが、全国的に報道され注目を集めたことで引き合いが増え、今年はサイズも大きくなり、魚価が上昇しました。関係漁協では大事な資源としてケガニとともに有効利用を考えているようです。

 ただ、40年ほど前にも噴火湾から苫小牧付近にかけてオオズワイの大漁があったものの、この資源は5年で消滅したそうですから油断大敵です。

ケガニ取扱高
出典:東京都中央卸売市場・市場統計年報

 ところで、ケガニの値段は首都圏ではどうなっているでしょうか?

 上のグラフは東京都中央卸売市場に入荷した生鮮ケガニと生鮮ズワイガニの取扱高の推移(2004~2023年)です。

 ケガニは近年入荷量が減少傾向にある一方で、ズワイガニはここ数年増加傾向がみられます。特に2023年はズワイガニの単価が下落していますので、その要因の1つとして前述のオオズワイの入荷増加があると思われます。実際に、2023年のズワイガニの入荷先を見ますと、総入荷量856トンのうち、北海道からの入荷が438トンで半分以上を占めています。鳥取県と青森県からがそれぞれ132トン、127トンですからその多さが分かります。ちなみにオオズワイの漁獲が少なかった2019年のデータでは総入荷量485トンのうち北海道からが87トン、兵庫県122トン、青森県108トンとなっています。北海道からは全体の2割弱の入荷にとどまっています。

 今年も豊洲市場にはオオズワイの入荷がみられており、手ごろな価格帯で取引されているようです。一方のケガニは近年の入荷の低調さが反映し、価格はうなぎ登りに上昇しています。元々あったケガニとズワイガニとの価格差が最近は更に拡大してきているのは、このグラフからも理解できます。

 その意味では、ケガニは庶民から手の届かない場所に行ってしまった、かもです。ケガニは北海道からの入荷が8~9割を占めていますので、現在ケガニにありつけるのは北海道での漁次第というところでしょうか?

 カニ好きの方でケガニに手が届きそうにない場合はオオズワイもありますので、是非お試しください!

ケガニイラスト
イラスト:N.HIKARI
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