旬のお魚かわら版

No.91 キハダ

2024.06.14

旬のお魚かわら版 No.91(2024年6月14日)


 今回はマグロ類の中でも比較的地味な扱いをされる「キハダ」です。

 キハダはサバ科マグロ属に分類されます。同じマグロ属には、クロマグロ、タイセイヨウクロマグロ、ミナミマグロ、メバチマグロ、ビンナガマグロ、コシナガマグロなどがいるのはよくご存じだと思います。

 なにしろマグロといえば昨今は、天然・養殖を問わずクロマグロが話題となりがちで、キハダなど赤身主体のマグロは隅っこの方に追いやられている感があります。

 キハダはキワダとも呼ばれ、また漢字では黄肌と書き、下の写真のように体表やひれがやや黄色がかっています。また、成長すると第2背びれと尻びれが細長く伸びるという特徴もあります。

 大きいものは2mを超え、体重も200kgに達するものもありますが、クロマグロほど大きくはなりませんので、大きさという点でも話題性はクロマグロに劣るのかもしれません。

キハダ
キハダ
出典:生鮮の素+さかなや魚介類図鑑(無断転載不可)

 キハダは太平洋、大西洋、インド洋の熱帯域を中心に生息する熱帯性のマグロで、産卵も赤道付近の海域で周年行われていますが、日本の沖合にも来遊し、まき網やはえ縄、ひき縄などの漁獲対象になります。特に近海はえ縄船にとってはこの時期ビンナガより単価の高いキハダの価値は高いのです。ただ、定置網などにまとまって入網するようなことは少ないようです。

 日本近海以外での遠洋操業には、遠洋かつお・まぐろまき網漁業(通称:海外まき網(以下、海まき))と遠洋はえ縄漁業があります。海まきは中西部太平洋での操業が主体です(一部インド洋も)。遠洋はえ縄の操業海域はインド洋が主体で太平洋、大西洋でも操業していますが、主体であったインド洋でも近年の海賊船騒動や漁船自体の減船が続き、漁獲は少なくなっています。

キハダ生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上のグラフはキハダの年別漁業生産量(1956~2023年)の推移です。1980年以降では1985年の134,395トンをピークに基本的には漸減傾向が続いています。

 最も大きな要因は遠洋はえ縄による漁獲の減少があり、また近年は海まきによる漁獲も減少が目立っています。

 キハダは国際的な漁業資源ですが、国際漁業管理機関の一つであるWCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)による中西部太平洋におけるキハダの資源評価結果をみると、直近の資源水準は中位、資源動向は減少とされています。また、漁業の産卵資源量に与える影響ははえ縄と竿釣りは低く、まき網とその他の漁業(フィリピン、インドネシア及びベトナムの漁業を含む)が高いとされています。

キハダ漁業種別生産量
出典:農林水産省「漁業・養殖業生産統計」

 上の円グラフは2023年のキハダの漁業種類別生産量を表しています。

 キハダは刺身向けのクロマグロ、ミナミマグロやメバチに比べ用途が広いのが特徴です。

 最も漁獲量の多い海まきで獲られたキハダは一部は刺身に回るものもありますが、多くはツナ缶詰(ライトミート)等の加工品向けに利用されます。釣りものについては、遠洋まぐろはえ縄での漁獲物は主に刺身用(解凍品)で、近海まぐろはえ縄など沖合・沿岸漁業で鮮魚で水揚げされるキハダは基本的には刺身需要に対応しますが、質が落ちるものは加工原料に向けられます。

 刺身といえば、赤身系のメバチ、キハダについていえば、メバチは関東主体でキハダは従来から名古屋以西の関西地域での需要が極めて強く、地域差があると言われています。キハダは時間が経っても「色変わりがしにくい」とか「メバチにあるシミがない」など、見た目の印象に拘りがあるのかもしれません。関東ではキハダが小売店に並ぶことが少ないので比較しにくいのですが、銚子漁港で水揚げしたものなど、生のキハダの柵が時々販売されていることがあります。筆者も以前見かけた時は、鮮やかな赤身が印象的だったことを思い出します。関東でも近海まき網船が多く漁獲した場合はお店に陳列される可能性もあります。

 初夏の生キハダがあったらチャレンジしてみてください!

キハダイラスト
イラスト:N.HIKARI
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