旬のお魚かわら版
No.89 マダイ
2024.05.15旬のお魚かわら版 No.89(2024年5月15日)
今回は、地域によっては「桜鯛」などとも呼ばれている「マダイ」です。
マダイはスズキ目タイ科マダイ属の魚です。マダイ属のタイ類は海外にも分布していて、例えば、大西洋や地中海にはアオボシマダイという仲間が生息しています。また、マダイ属以外のタイ科の魚には、チダイやキダイ(レンコダイ)、クロダイ(チヌ)などがあり、料理や釣りなどで親しまれています。
これら他のタイ科の魚と区別するためにマダイ(真鯛)と呼ばれるのですが、地域によっては本鯛と呼ぶところもあります。いずれにしろ「本物の鯛」という意味となります。
マダイは養殖もさかんに行われていますが、天然のマダイ(下の写真)と養殖のマダイの外見上の違いは以下のとおりです。
〇天然物:体形はスリムで、色はピンク色。尾びれは鋭角的。両側の鼻には穴が2つずつある。
〇養殖物:体形は丸みを帯び、色はやや黒っぽい。尾びれはやや丸っぽい。両側の鼻は2つの穴が1つにつながっている。
マダイは北海道から沖縄までの全域沿岸で棲息している他、朝鮮半島沿岸、渤海・黄海、東シナ海、南シナ海までの水深30~200mの岩礁域、砂礫底、砂底などに生息しています。
マダイは何といっても昔からめでたい魚類の代表で、白身魚のトップランナーですし、日常的にも馴染みの深い魚でもあります。特に平成年代に入って養殖マダイの生産量が急増したころからスーパーなど小売業の店頭でも刺身商材などで多く見かけるようになり、かつての高級魚から中級魚のポジションに移っていきました。
上のグラフは、マダイ(天然・養殖)の年別生産量(1956~2022年)の推移です。
1981年を境に天然魚と養殖魚(マダイ)の生産量は逆転し、養殖魚が天然魚を上回るようになりました。
グラフのとおり、養殖マダイのピークは1999年の87,232トンでその後は増減を繰り返しながら現在では7万トン弱となっています。逆に天然マダイは1960年代までは2万トンを超える生産量でしたが1980年代以降は1.5万トン±1千トンの枠内での生産量となっており、安定した漁獲が続いています。
ただ、最近では海の温暖化の影響か、東北地方でもまとまった漁獲がみられるようになっていて、先日(5月7日)には、気仙沼漁港で4月末までのマダイの水揚げが5トンを超え前年同期の30倍以上となっているとの報道がありました。5月に入っても既に6トン以上の水揚ですから更に多くなっています。また、同じ宮城県の石巻漁港でも好調な水揚が続いていて、1月から5月上旬までの累計水揚量が150トンを超え昨年5月末累計105トンを大幅に上回っています。
このように、産地が従来と違ってきていることがありますが、天然マダイはグラフのとおり総体としては安定した漁獲があるといえるでしょう。
上述のとおり、かつて1970年代まではまだ養殖マダイが少なく天然ものが主体であった頃は、マダイの価値が相対的に高く高級魚でした。
例えば、50年以上前は伊豆の民宿で出される料理では刺身はマダイ、煮付けはキンメダイが定番で、キンメは刺身では提供されなかったと記憶しています。しかしマダイはその後、徐々に養殖生産量が増加し、天然物と合わせて供給量が増加しましたので、価格的なポジションが1ランク下がり消費者の口に入りやすい魚になったといえるかもしれません。一方で50年前はほとんど見向きもされなかったキンメダイが今や人気の高級魚となりました。
さて、上のグラフは東京都中央卸売市場でのマダイ(天然・養殖・活)の年別取扱状況を表したものです。
消費地市場には、主に天然と養殖のマダイ(鮮魚)と活魚で入荷してくるマダイがあります。その他に輸入のマダイ類もあるのですがごくごく僅かなので無視して良いレベルだと思います。
まず天然物ですが、ここ10年ほどは年間2000トンを超える年が多く、それ以前に比べると少し増加傾向がみられます。マダイ全体でみると養殖物が天然物を圧倒しているのが分かりますね。活魚で入荷されるマダイも養殖物が多いとみられますので、それを考慮すると天然物の5倍位になると推定されます。生産量も最近では養殖物が天然物の4倍程度あり、特に新型コロナ感染症が蔓延した2020年、2021年は生産量、消費地での取扱数量も増加しているのが分かります。またその両年は外食需要を始め業務需要が激減した影響を受けて、価格の下落傾向も顕著でした。しかし2023年は新型コロナの5類への移行もあり需要も急回復で価格も急上昇しています。
天然マダイは4~5月が年間を通じて最も入荷が多くなります。「桜鯛」と言われるのも「故無しとしない」のも理解できますね!
ふるさと男鹿半島の郷土料理にマダイを使った「石焼」があります。
大謀網(定置網)や釣りや底引きで漁獲したマダイ(魚類)を野菜などと一緒に木桶に入れて煮込む料理です。煮込み方も独特で、木桶の中に真っ赤に焼けた石(火山岩で溶結凝灰岩)をそのまま投入するという豪快なものです。じゅーという音と一緒に桶の中のだし汁と具材が一瞬で煮える、という見た目の勇壮さもあり如何にも「漁師料理」という風情を感じさせます。地元の温泉旅館などでは客に対してそのパフォーマンスで楽しませてくれます。
マダイは一年を通じて天然物、養殖物が出回っています。
最近ではマダイの北上傾向が目立っているので、新しい地域で新しい食べ方も生まれるかもしれません。
旬のお魚かわら版
「豊海おさかなミュージアム」は、海・魚・水産・食をテーマとして、それに関連する様々な情報を発信することを目的としています。 このブログでは、名誉館長の石井が、旬のおさかな情報を月2回発信していきます!