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2021年2月22日(月)更新

そうだったのか!海藻Q&A

2021年2月22日(月)更新

3つのグループからなる海藻

海藻は光合成をする葉緑素の違いによって褐藻類、緑藻類、紅藻類の3つに分けられます。

褐藻類は日本で約400種が知られています。代表的な褐藻類はワカメ、コンブ、ヒジキ。光合成によってラミナランという多糖類を生成・貯蔵します。ラミナランには抗腫瘍作用、抗血栓作用、高血圧抑制作用が知られています。体色は黄色や褐色で、ナガコンブのように20mの長さに達する巨大なものもいます。

コンブ 写真
コンブ
主産地は北海道、青森、岩手だが、生産量は天然の9割、養殖の7割を北海道が占める。主として乾燥させダシ用に使われるが、各地域で特徴があり、使い方も異なる。

海ブドウと呼ばれるクビレズタやアオサ(ヒトエグサ)などの緑藻類は、日本に約250種が生育しています。色素としてクロロフィルを持ち、光合成でデンプンを生成・貯蔵します。比較的浅いところに生息する種が多く、体色は緑色をしています。陸上植物はこの緑藻類の仲間が進化して陸上に進出したと考えられています。

クビレズタ(海ブドウ) 写真
クビレズタ(海ブドウ)
球状の小枝が緑色のブドウの房のように見えるので「海ブドウ」と呼ばれる。 プチプチとした食感が人気で、沖縄で盛んに養殖されている。天然モノはサンゴの上や砂の上にへばりついている。

紅藻類は日本では900種類ほどが知られています。養殖海苔の代表であるスサビノリ、ところてんの材料となるマクサ(テングサ)は紅藻類です。紅藻といっても浅いところに生育する種は黒色に近く、深いところに生える種ほど鮮やかな紅色をしています。

トサカノリ 写真
トサカノリ
千葉県から九州にかけた暖かい海に分布。水深30mくらいの比較的深い海に生えている。刺身のつまや海藻サラダに利用される。緑色の「青とさか」は湯通ししたもの、「白とさか」は水にさらして脱色したもの。

なぜ海藻はカラフルなのか?

海藻の色は緑、赤、茶色と多彩です。陸上の植物の葉は濃淡の差はあれ緑色です。これは光エネルギーを吸収するクロロフィルという葉緑素をもっているからです。このクロロフィルは青と赤の光を吸収するために緑の光を反射するので、私たちの目には緑色に見えます。

ところが海は陸上と違い、深さによって届く光の色が異なります。水深が増すにつれ光の強度は弱くなり、太陽光の赤~橙色や紫色の光は途中でさえぎられ、深いところには青色や緑色の光だけが届くようになります。

海藻は生息する深さに応じ、効率的に光合成ができるようにクロロフィルだけでなく、カロテノイド(青い領域の光を主に吸収するので、見た目は黄色、オレンジ色、茶褐色)やフィコビリン(緑の光を吸収するため、赤っぽく見える)といった色素をもっているためにカラフルなのです。

このように光合成をするには光が必要ですから、海藻は海ならどこにでも生えているわけではなく、光が届く水深30mくらいまでの沿岸部にのみに生息する生き物なのです。

ミル、ユカリ、アナメ 写真
左からミル(緑藻類)、ユカリ(紅藻類)、アナメ(褐藻類)

そもそも光合成の働きとは?

最初に光合成を行った光合成細菌は、酸素発生をしない型の光合成でしたが、約 30億年前、光合成で酸素を生み出す藍藻(シアノバクテリア)が登場したことにより、地球環境が劇的に変化したことは前回述べた通りです。

光合成は「植物が光によってデンプンなどを作る働き」と小学校で教わったように、植物が光によって水を分解して酸素を発生し、二酸化炭素を有機物に固定する、細胞内で起きる連鎖的な化学反応です。

合成された炭水化物は、生命活動のエネルギー源となり、体が生長する材料となります。動物が植物を食べるという食物連鎖のピラミッドを考えると、光合成は太陽エネルギーを他の動物が利用できるようにする変換装置ともいえます。

海藻は海の植物でいいの?

このように海藻も陸上の植物も光合成をしているわけですが、では、海藻は海の植物なのでしょうか。

昔は光合成をする生物一般を植物と呼んでいたために、藻類は植物に含まれていましたが、遺伝子解析が主流になった現在の分類学では微妙です。そもそも「植物」「藻類」とは何かを正確に定義することからして非常に難しいのです。

同じ海藻でも実は褐藻、緑藻、紅藻の3グループの進化の系統はかなり異なっていて、進化系統学では、コンブなどの褐藻類は植物には含まれないとする研究者もいるなど、実にややこしい世界のようです。

緑藻類からコケが派生し、やがてそれが陸上植物へと進化するのですが、進化の過程でルーツである海藻とは大きな違いが生まれました。あらためて違いを比べてみましょう。

ホンダワラ類 写真
ホンダワラ類
海藻のなかでは最も進化した仲間。外見上,根,茎,葉に分化し、陸上植物にそっくり。長いものは8m以上にもなる褐藻。体の上部にガスの入った気胞をたくさんつけて、この浮力を利用し海中では上に伸びている。

まずは形。草木は硬くしっかり立っていますが、海藻が生きる水中はほぼ無重力状態。波に揺られるままなので、体は柔らかくしなやかです。

草木は根、茎、葉の区別がありますが、海藻はノリやモズクのように根、茎、葉の区別のないものも珍しくありません。また、海藻の根の部分は岩などに接着するためのもので、草木のように土壌から水や栄養分を吸い上げることはありません。海藻の葉には葉脈もありません。

成長するシーズンも異なります。草木が春から秋に大きく成長するのに対し、海藻は秋から冬に成長します。また草木は花が咲き、実がなるものが多いのですが、海藻は胞子や卵で増えます。寿命も1000年以上生きるものもある樹木に比べると、多くの海藻は短く1〜10年程度です。

海藻と陸上の植物。同じ光合成をする生物でも、結構違うものですね。

次回は私たちがよく食べている3つの海藻。コンブ、ワカメ、ノリについてお話ししましょう。

海藻の迷宮

海藻の迷宮

海藻の迷宮

ノリ、ワカメ、コンブ、ヒジキ......。日本では昔から海藻を日常的に食べていました。でも、海藻はただ美味しいだけではありません。気づかないだけで、実は海藻は人類の文明の礎として役立っているのです。

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