Web版 解説ノート
2023年10月20日(金)更新
地球を代表する魚、イワシ
2023年10月20日(金)更新
資源量の変動が激しいイワシ類
イワシは分類学的にはニシン目になります。背側が青や灰色、腹側は銀白色で、群れをなして回遊をしながら生活するものが多いというのがニシン目の特徴といえます。特にマイワシやニシンなどは海面が黒く染まるほどの大群を作ることがあります。
通常イワシ類といえばマイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの3種類を指します。
マイワシ
カタクチイワシ
ウルメイワシ
漁獲されたイワシ類3種の割合をみると現在は約75%をマイワシが占めています。ところが、20年前のデータを見てみると漁獲されたイワシ類のうち8割近くがカタクチイワシでした。
このときマイワシはまったくといっていいほど獲れず、もはや安価な大衆魚ではなく高級魚扱いされていました。
このようにイワシは資源変動が激しいのも特徴のひとつです。
マイワシの産卵地で重要な伊豆諸島周辺
11月ごろから翌年6月ごろにかけてがマイワシの産卵期で、直径1㍉ほどの大きさの卵を数回に分けて約10万粒産みます。海中に分散した卵は2〜3日で孵化し、1〜3カ月で15〜40㍉、1年で15㌢前後に成長します。生後2年、19㌢前後になると産卵をはじめます。
仔稚魚のときのエサはカイアシ類などの動物プランクトン。成魚になると動物プランクトンのほかに植物プランクトンも食べます。成魚は約25㌢になり、寿命は5〜6年です。
10万粒と大量の卵を生みますが、他の魚や仲間に食べられたり、エサが見つけられなかったりで、仔稚魚の生存率は極めて低く、イワシの仔魚の死ぬ割合を調べた研究では1日の死亡率は20%と推定されました。
計算すると1万尾は翌日8000尾に減り、10日後には1074尾、30日後に生き残ったのはわずか12尾という厳しさです。
マイワシは、北はカムチャッカ半島、サハリン、沿海州から南は東シナ海まで広く分布し、回遊性の魚で、春から夏にかけてエサを求めて沿岸に沿って北上します。
北から南に流れる「親潮」は子を育てる親のように栄養となるエサが豊富な海流という意味です。イワシ以外の多くの回遊魚も北上して大きくなり、美味しくなったイワシなどを求めてカツオやブリ、クロマグロなども北上します。
たっぷりエサを食べて太った魚たちは水温の低下にともない南下します。産卵しない未成魚のイワシは常磐沖から房総沖にとどまり越冬。成魚はさらに南下し、本州・四国・九州の沿岸域で産卵します。特に産卵地で重要といわれるのが伊豆諸島周辺です。
マイワシは日本海にもいますが、漁獲の多くは太平洋側の三重県よりも東の海域です。なかでも千葉県房総半島以北での大中型まき網漁がマイワシの漁獲の大部分を占め、現在は銚子漁港と釧路港の2港に他を圧倒する量のマイワシが水揚げされています。
- 1
- 銚子(千葉)
- 170,106
- 2
- 釧路(北海道)
- 129,235
- 3
- 広尾(北海道)
- 51,007
- 4
- 石巻(宮城)
- 28,229
- 5
- 八戸(青森)
- 26,050
マイワシは資源量の変動が激しい魚です。80年代は豊漁で数年間続けて400万㌧以上も漁獲されていましたが、90年代に入ると突然マイワシは獲れなくなりました。
近年は増加傾向にあるマイワシですが、量は増えているけれど、痩せているイワシが多いともいいます。
水産研究・教育機構水産資源研究所 水産資源研究センターの由上龍嗣さん、古市生さんにお聞きしました。
「成長が遅くなっているのはデータにも現れています。2021年1〜6月の体重を4年前と比較すると、4年前は2歳で90㌘、3歳で100㌘に成長していたのが、現在は2歳で50㌘、3歳でやっと60㌘で4歳になっても100㌘に届いておらず、道東で20㌢以上の大羽イワシが全然獲れていません。
資源量が非常に多かった1980年代もマイワシは痩せていましたが、それはイワシがあまりにも増えすぎたために1尾あたりのエサが減ったからだと考えられてきました。現在マイワシは増えつつあるといっても80年代とは比べ物にならないくらい少ないのに痩せている。
これはおかしいと今、調査中なのですが、索餌場となる北の海のプランクトンが少ないことがわかってきました。
はっきりした結論ではないのですが、これだけ成長が遅いと成熟も遅くなっているはずです。
通常は1歳の一部、2歳のほとんどが産卵に参加すると考えられていたのですが、おそらく、今は2歳でも産まないのではないか。ここ4年でガラッと海の状況が変わってきたので研究が追いついていないのが現状です」
世界はイワシでできている 2
世界はイワシでできている 2
イワシは世界で最も多く漁獲されている魚です。海の食物連鎖を支える重要なポジションであることを考えると、イワシこそが地球を代表する魚といっても過言ではありません。