Web版 解説ノート

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2023年8月21日(月)更新

サメにまつわるエトセトラ

2023年8月21日(月)更新

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サメの化石が見つからない理由

サメの起源は約4億年前。その種類や生態が非常に多岐にわたるのも、長い時間をかけ多様な環境に適応したためでしょう。

サメは骨格が柔らかな軟骨でできています。そのため化石として残りにくく、全身骨格のわかる化石がなかなか見つかりません。

でも、硬いサメの歯の化石は見つかります。約1800万年前から約150万年前まで生息していたメガロドン(ムカシオオホホジロザメ)という巨大なサメの歯の化石を「天狗の爪」として、大切に祭っている神社もあります。確かにご利益がありそうな迫力です。

このメガロドンは巨大で全長が16m もあったと推測され、小型のクジラを食べていたと考えられています。

メガロドンの歯の化石の写真
メガロドンの歯の化石

日本人のルーツとサメが登場する昔話

サメの登場するおとぎ話で最も有名といえば「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」でしょう。これは古事記にでてくる話ですが、現在では簡略化されて〈サメをダマして海を渡ったウサギが、怒ったサメに皮を剥がれ、ヒリヒリして痛くて泣いているところを大国主命(オオクニヌシノミコト)に助けてもらう〉というストーリーになっています。

原典には、サメではなく「和邇(ワニ)」と書かれているのですが、日本にワニはいませんし、山陰地方ではサメをワニと呼ぶことから、ワニ=サメ説が有力です。

ところがワニ説も根強いのです。インドネシアなど東南アジアには同じような話があり、南方から伝わった話と大国主命の話が合わさったのでは、という説です。

海を渡って日本列島という島にヒトがやってきたのが約3万8000年前。日本人のルーツを考えると面白いですね。

何度でも生え変わるからいつでも切れ味抜群

サメの歯には種類により、刺す歯、切る歯、砕く歯の3タイプがあります。サメの歯肉には新しい歯が何重にも埋まっていて、抜け落ちると次々に新しい歯がエスカレーターのようにせり上がってくるので、いつも新品で切れ味抜群。

入れ替わる期間は種類や年齢によってさまざまですが、一般には1週間に1回くらい。一生で約3万本もの歯が使われるといいます。

サメの歯の写真
エスカレーター式に生え変わるサメの歯

飛び出すサメのアゴ

サメが獲物に噛み付くとき、アゴがググッと前に飛び出します。これがよくわかるのがミツクリザメのアゴですが、ホホジロザメもアゴが飛び出しているのです。

メジロザメ(左)とミツクリザメのアゴの写真
メジロザメ(左)とミツクリザメの迫り出すアゴ

不気味なのはダルマザメ。自分よりも大きなカジキやクジラに吸い付き、肉をえぐるように噛み切ります。致命傷にはならない程度に噛み付くのは、エサの枯渇を招かない優れた戦略ともいえます。

ダルマザメの口とアゴとビンチョウマグロを噛んだ跡の写真
ダルマザメの口とアゴとビンチョウマグロを噛んだ跡

サメのおちんちんは2本

オスのサメにはおちんちん(交接器)が2本あります。魚なのにおちんちんがあるというのも奇妙ですが、しかも2本もあるなんて。

おちんちんは腹びれが変形したもので、メスの生殖孔に挿入し交尾をします。このとき、おちんちんを2本使うのか1本だけなのかは長い間の謎でしたが、水族館での観察により1本しか使わないことが確認されました。

水中では体を固定するのが難しいので、オスはメスに咬みつき、メスをおとなしくさせ、体を密着し交尾します。ですから、交尾後のメスは咬み傷だらけになります。

イヌザメの交尾の写真
イヌザメの交尾

繁殖方法も多種多様

「卵生」のナヌカザメなどは、卵を岩や海藻にからみつけるように産みつけ、子は約1年間、卵の中で成長してから産まれます。しかし、多くのサメは母ザメから親と同じ形で産まれる「胎生」です。

軟骨魚類の胎生には、子宮の中で自分の卵黄だけで育つ(ジンベエザメなど)。卵黄を吸収したあと、卵巣から送り込まれる無精卵や子宮内の兄弟ザメを食べて育つ(ホホジロザメ、ネズミザメなど)。卵黄を吸収したあと、子宮壁から分泌されるミルクのような栄養物を吸収して成長する(イトマキエイなどのエイ類)。卵黄で一定の大きさに成長したあと、胎盤とヘソの緒を通して母ザメから栄養供給を受ける(シュモクザメなど)の4タイプがあります。

ネコザメの卵の写真
ネコザメの卵
ナヌカザメの卵の写真
ナヌカザメの卵
トラザメの卵の写真
トラザメの卵

世界中で漁獲されているサメ

世界でサメはどれくらい漁獲されているのでしょう。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計を見ると、2003年に90万トンを記録するまで増加し続け、最近は80万トン前後で横ばいです。

国別にみると、最もサメを漁獲している国はインドネシア。続いてインド、スペイン。そして台湾、アルゼンチン、メキシコ、パキスタン、アメリカが続きます。
スペインというのは意外かもしれませんが、サメ肉は「Cazón(カソン)」と呼ばれ、酢漬けやトマト煮込み、ソテーなど様々な料理に使われています。

サメで最も高く売れるのが「フカヒレ」の原料となるヒレ。外国の漁船では、金にならないのに魚倉が一杯になってしまう、歯や皮膚が他の魚を傷つけるという理由から、ヒレだけを採取して、海に破棄することも多かったのです。

現在では漁獲したサメは、完全利用(頭部、内臓及び皮を除くすべての部位を最初の水揚げまたは転載まで船上に保持すること)が義務づけられています。

サメのヒレの写真
高価で取引されるサメのヒレ

サメの肉は臭いといわれる理由

海にすむ多くの魚(硬骨魚)の体液組成は、私たち哺乳類とほぼ一緒です。体液と比較して、海水は高濃度で浸透圧も高いため、塩分が体内に流入し、水は体外に脱水されてしまいます。

これを克服するために、魚は海水を飲み、塩分と水分を吸収し、余分な塩分を体外に排泄しています。

ところが同じ魚でも、サメはちょっと違った仕組みなのです。体内に多量の尿素を蓄積することで、海水という高浸透圧に対応しているのです。尿素濃度を高くするため、肝臓では積極的に尿素を合成しています。

本来ならば老廃物として排出すべき尿素を体内に蓄積することで、体液の浸透圧は高くなり、体内の水分が失われる危険がなくなりました。逆に浸透圧が高いために、体内に水が流入するので、サメは海水を飲まなくても水を得ることができるのです。

よく「サメやエイはアンモニア臭い」といわれるのは、死後しばらくすると体内の尿素が分解してアンモニアが生成されるからです。従って、新鮮なものは臭くありません。

俺、サメだけど そんなにおっかない?

俺、サメだけど そんなにおっかない?

俺、サメだけど そんなにおっかない?

大きな顎に鋭い歯……凶暴で恐ろしいと思われているサメですが、ヒトとは昔からの深い付き合い。サメは魚の仲間ですが、少し変わったところがあります。サメの魅力を探ってみましょう。

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