Web版 解説ノート
2023年7月20日(木)更新
サメの特殊なカラダのつくり
2023年7月20日(木)更新
普通の魚との違い、サメとエイとの違い
魚は大きく「硬骨魚」と「軟骨魚」の2つに分けられます。サメやエイは全身の骨格が柔らかな骨で形成されている軟骨魚です。
サメやエイの骨は柔らかくても歯は硬く、歯が抜けても何度でも新しい歯が生えてくるという、なんともうらやましいシステムになっています。
皮膚も特徴的で触ると硬くザラザラしています。硬骨魚の鱗は抜け替わらず、体が大きくなると鱗も大きくなります。ところが、サメの鱗は抜け替わり、成長して大きくなると新しい鱗がはえるシステムで、子どものサメも大人のサメも鱗の大きさ、体表の鱗の密度はほぼ一定です。
実はサメの鱗は歯と同じ構造で、サメはエサから得た栄養素(カルシウム)で骨格を硬くする代わりに、何度でも生え変わる硬い歯や鱗に使っているのです。
サメの外見での最大の特徴はエラ孔です。硬骨魚はエラぶたに覆われているのでエラ孔は1対ですが、サメは5〜7対のエラ孔があります。
これはサメとエイに共通した特徴で、エラ孔が体の側面にあるのがサメ、腹面にあるのがエイです。例えばノコギリザメとノコギリエイ。見た目は似ていますが、ノコギリザメはエラ孔が側面にあるのでサメ、ノコギリエイは腹面にあるのでエイと区別します。
では、カラダの特徴を見てみましょう。
ロレンチーニ器官
サメの頭部、鼻や口の周りに数十から数百ある直径1mmほどの小さな穴。穴の中にはゼリー状の物質が詰まっている。この器官を使って、サメは獲物の筋肉が発する微弱な電流を感知し、砂に潜っている獲物も捕まえることができる。また、地磁気から方位を探知することができるので、長距離の回遊を可能にしていると考えられている。
歯
硬骨魚の歯は骨に直接ついているが、サメの歯は歯肉に埋まっている。その数、ホホジロザメで約300本。サメの種類により大きさや形はさまざまだが、どの種でも歯はエスカレーターのように次から次へと立ち上がり、生きている限り何回でも抜け替わる。
鼻孔
獲物を見つけたり追ったりするのに最も大切なのが「におい」。サメの嗅覚はとてもすぐれていて、一滴の血を100万倍に薄めても嗅ぎ分けられる。サメの鼻孔は純粋に嗅覚のためのもので呼吸とは関係ない。
眼
サメの有効な視界は約15mという報告がある。ほのかな光や動いているものへの感知能力にすぐれ、暗いところでものを見るのに適している。硬骨魚と違い、人間と同じく瞳孔を開閉して取り込む光の量を調節する。
背びれ
遊泳中の動きを安定させる働き。大部分は2基あるが底生のサメには1基しかない種類もいる。ツノザメやネコザメの仲間には鋭いトゲをもつものもいる。このトゲは鱗が変形したものと考えられている。
胸びれ
方向転換、同じ深度を維持するのに役立つ。エイ類は頭部と胸びれが一体化している。
腹びれ
成熟したオスには、腹びれの変形した1対の棒状の交接器があり、交尾の際に精子をメスに送り込むのに使われる。
皮膚
ガサガサした肌を「鮫肌」と呼ぶように、サメはヤスリのようなざらざらした体表をしている。これは楯鱗(じゅんりん)という特殊な硬く小さい鱗がびっしり並んでいるためである。
楯鱗の構造は歯と同じで成長するにしたがい数が増え抜けては新しいものに置き換わる。この硬い皮膚は「防御」するだけでなく泳ぐときの「流体抵抗の軽減」の役割も果たしている。
サメ独特の臓器のしくみ
脳
体重と脳重量の比率では一般の硬骨魚よりも大きく鳥類に近い。
エラ
口や噴水孔から取り入れた水は、エラの表面を流れてエラ孔から体外に出される。このときエラの表面で水中の酸素と血液中の二酸化炭素の交換が行われる。
肝臓
サメには硬骨魚のような浮き袋がない。その代わりに巨大な肝臓には油がぎっしり詰まっていて、この浮力を得て体が沈まない仕組みになっている。また、浮き袋がないので、深海で水圧がかかってもあまり影響を受けないため、深海と表層を自在に行き来できる。
胃
胃は大きく拡張し、大きな獲物を丸呑みしてから、ゆっくり消化する。
腸
一般的な硬骨魚は腸を長くして養分を吸収する面積を広げているが、サメの場合は内側の構造を複雑にして面積を増やしており、腸の長さ自体は短い。
心臓
硬骨魚と同じくシンプルな1心室1心房。
卵巣・子宮
サメはすべて体内受精。一度の産卵期に作られる成熟卵は硬骨魚類に比べるときわめて少ない。ネコザメのように卵を産む「卵生」のサメもいるが、多くは母ザメから栄養をもらい発育して生まれてくる「胎生」である。
軟骨
サメの骨格は柔らかい軟骨でできている。吸収したカルシウムは骨を硬くする代わりに鱗の強化や、永遠に生え変わる歯に使われる。軟骨は化石として残りにくいので、サメの化石は歯ぐらいしか見つからない。
筋肉
外側の白い筋肉(普通筋)は瞬間的に強く収縮し、獲物にアタックするなど爆発的なスピードを出すときに働く。一定の速度で泳いでいるときは普通筋に沿って走っている赤黒い筋肉(血合筋)が働いている。
体温
サメは水温によって体温が変わる変温動物。しかし、ホホジロザメ、ネズミザメといった活動的なサメの体温は周囲の水温よりも5〜15℃程度高い。これは奇網と呼ばれる動脈と静脈が絡み合った器官で、温かい血液の流れている静脈が動脈の冷たい血液を温めているから。
体温が高い魚は体の大きさが同じくらいで体温が低い魚と比べて泳ぐ速さが2.7倍速く、回遊距離は2.5倍長いことが明らかになっている。
俺、サメだけど そんなにおっかない?
俺、サメだけど そんなにおっかない?
大きな顎に鋭い歯……凶暴で恐ろしいと思われているサメですが、ヒトとは昔からの深い付き合い。サメは魚の仲間ですが、少し変わったところがあります。サメの魅力を探ってみましょう。