Web版 解説ノート

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3 部

2022年9月20日(火)更新

ユニークなハゼの仲間たち。

2022年9月20日(火)更新

トビハゼは魚なのに水が苦手?

水を嫌がる不思議な魚、トビハゼ。潮が満ちてくると濡れるのを嫌がるように岸壁にへばりつき、潮が引くのを待ちます。多くの時間を泥の上で過ごすのは、エラ呼吸より皮膚呼吸が得意だからです。

発達した胸びれをつかって這うように前進し、体をS字にくねらせ反動でピョンと跳ねる動き。そして憎めないファニーフェイス。なんとも魅力的でファンも多い魚です。

トビハゼの写真
胸びれをつかって這うように前進するトビハゼ

昭和初期まで広大な泥干潟が広がっていた東京湾、大阪湾、伊勢湾にはトビハゼが数多く生息していました。しかし、泥干潟は最も埋め立てやすいエリアですから、どんどん開発が進み、トビハゼは片隅へと追いやられてしまったのです。

日本での分布は東京湾が北限です。冬は掘った巣穴で冬眠し、暖かくなる4月ごろに活動を始め、気温が一気に上昇する初夏に繁殖期を迎えます。東京湾でのピークは6月下旬から7月下旬。

繁殖期になるとオスは口で泥を頬張っては穴の外へと運び、深さ30cmほどのJ字型の巣穴を掘ります。最奥部の上に向いたところが産卵室になります。

穴を掘り終えたオスは高くジャンプしたり、尻振りダンスをしたりしてメスの気を引きます。

出来立ての巣穴は産卵室まで海水が満ちている状態です。次にオスは巣穴の入口で口に空気を含むと、産卵室まで行って空気を吐き出します。これを繰り返して、産卵室に空気を満たします。

トビハゼの写真
目玉は水陸両方で暮らすカエルのように大きく突き出ている

メスは産卵室の天井に卵を生みつけるのですが、そのタイミングは、オスが空気を運搬する前なのか(産卵室が海水で満たされた状態)なのか、後なのかはよくわかっていません。

卵は空気に触れた状態で発生が進み、オスは干潮時になると、新鮮な空気を口に含み産卵室を往復し、酸素を補給し続けます。

そして孵化が近づくと、今度は産卵室の空気を口に含んで、外に吐き出します。これを繰り返すことで産卵室の水位は上昇し、卵が海水に浸かり、その刺激で孵化が始まります。

このように、トビハゼのオスは口に空気を含んで、産卵室に空気を入れたり出したりするユニークな行動をすることが知られています。寿命は2〜3年です。

失われつつある春の風物詩、シロウオ漁

混同しやすいシロウオ(素魚)とシラウオ(白魚)。女性の指の美しさに喩えるのがシラウオ。踊り食いするのはシロウオで、シラウオは軍艦巻きですかね。

シロウオの写真
シロウオの体は透明。ハゼの仲間だが背びれは1つしかなく、ウロコや側線もない

シラウオはキュウリウオの仲間で、ハゼの仲間はシロウオです。実物を見ればすぐに区別はつきますが、ともに春、産卵に集まるところを漁獲され、早春の味覚として喜ばれています。

ところがこのシロウオ、ハゼの仲間なのに背びれは1つしかなく、ウロコや側線もないという特異な形態をしています。

シロウオは、サケのように産卵のために川を遡上し、川床がきれいで伏流水の豊かな場所の石の裏側に産卵します。卵の数は300粒ほどで、オスは卵が孵化するまでの約2週間、卵を保護し続けます。このへんはやはりハゼの仲間ですね。卵が孵化すると親魚は一生を終えます。シロウオの寿命は1年といわれています。

孵化した稚魚は、しばらく河川に留まった後、海へ下り、波の穏やかで砂のきれいな内湾で生活を送ります。

シロウオ漁は四つ手網という十字に組んだ長い竹製の骨組みに網を張った漁具を用います。網を川に沈め、上げ潮にのって群れで遡上してくるシロウオが網の上を通過するタイミングを見て引き上げます。

シロウオ漁の写真
川面に浮かぶ桜の花びらを見ながら流れの速さを把握する

漁期は雛祭りの頃から桜が散るころまで。四つ手網を使ったシロウオ漁は全国で行われていましたが、最近はどこも数が減っているようです。東京湾周辺でも戦後しばらくは河口に並ぶように設置されていましたが、現在、残っているのは千葉県湊川河口に設置される1基のみ。網を設置している椎熊邦広さんの話では、シロウオは売らずに近所や知人に配っているそうです。

シロウオが生息するには、産卵場所となるきれいな川と、成長期を過ごす広くて穏やかな内湾が必要です。春の風物詩がなくらないようにしたいものです。

壺でウロハゼをつかまえる、幻のハゼ壺漁。

マハゼと見た目はよく似ているウロハゼですが、繁殖方法は大きく異なります。マハゼはオスの掘った巣穴にメスが産卵しますが、ウロハゼは巣穴を掘らずに、岩の隙間や筒のような穴を利用します。

この習性を利用したのが、瀬戸内海沿岸の地域で行われている「ハゼ壺漁」という漁法。いい産卵場所だと思って壺に入ったウロハゼを捕まえるのです。

ハゼ壺の写真
このハゼ壺は現在は廃窯となった香川県の宇多津で焼かれたもの

岡山県の日生町漁協の漁師、近江さんにお聞きしました。

「漁期はクロハゼの産卵時期。6〜8月、暑い時期のもんじゃけどな」

この辺ではマハゼを「白ハゼ」、ウロハゼを「黒ハゼ」と呼びます。ハゼ壺漁に使う壺は、高さ25cm、幅15cmくらい素焼きの壺で、口は2つ、胴脇に穴が1つ開いています。

このハゼ壺を海岸に近い浅瀬の岩礁と砂とが混じる地帯に横に倒した状態で仕掛けます。脇に開いた穴は、ここから水が入り、壺を速やかに沈ませる知恵です。

「夏はフジツボの種(幼生)が流れる時期じゃから、1週間もしたら壺の周りにフジツボが付着する。汚れとったらハゼは入らん」

ですから揚げるたびに軍手で壺の入り口を掃除して、清潔を保ちます。壺は1日置きに、朝早い時間帯に引き揚げ、魚をとっては、また海に沈めます。

「できるだけ素早く、スッと揚げてしまわなにゃいかん。すぐに飛び出るからな。オスメス2匹入っとるのやけどな。多いとき(平成8年ごろまで)には仕掛けた壺の7、8割に入っておった」

ウロハゼの写真
ウロハゼ 撮影/福井歩

大きくて、刺身でも天ぷらにしても煮付けにしてもおいしいクロハゼは、岡山の中央市場に出荷され、市内の高級料亭で岡山名物として提供されていました。

しかし、残念ながらこのハゼ壺漁、近江さんも4年前にやめてしまったそうです。ウロハゼが獲れなくなり、高級料亭も減ってしまったので、漁をしても採算が合わなくなってしまったのです。

ハゼ壺漁の復活の日はあるのでしょうか。

ハゼが教えてくれること

ハゼが教えてくれること

ハゼが教えてくれること

魚屋さんに並ぶこともない地味な魚ですが、昔から日本人は身近に暮らすハゼを愛してきました。ハゼは環境や生物多様性から子育ての男性参加の大切さまで、多くのことを教えてくれます。

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