Web版 解説ノート
2021年3月22日(月)更新
日本食に欠かせない三大海藻
2021年3月22日(月)更新
日本人は昔から海藻を食べてきました。海藻が食文化として根付いているのは、世界的に見ても数が少なく、日本と韓国くらいしかありません。
日本列島の周りは有数な海藻の生育地で、約1500種の海藻が生えています。そのうちの約100種を食用にしているといわれるくらいの海藻王国ですが、これは食べておいしい海藻が多いからだと考えられています。
しかも、ヒトは海藻の分解酵素をもっていませんが、多くの日本人の腸内には、ノリや寒天などを消化できる酵素をもった細菌がいることがわかってきました。 しかし、近年は食生活が西洋化してきたこともあり、海藻を食べる機会が減ってきています。
海藻は現代人に不足しがちな食物繊維が豊富に含まれていて、コレステロール値を下げ、血糖値の急激な上昇を抑え、腸の働きを促し、新陳代謝を促進する効果が認められています。まさに健康食材。積極的に食べたいところです。
では、日本人におなじみの3つの海藻をクローズアップしてみましょう。
あなたのお好みのコンブは?
コンブは北海道、青森、岩手、宮城県沿岸に分布しています。国内生産の90%を占めているのが北海道。海産物で有名な北海道ですが、コンブはホタテ、サケに次ぐ第3位の生産額。重要な水産資源です。
北海道はコンブの種類も豊富です。オニコンブ(羅臼昆布)、ナガコンブ、ガッガラコンブ、ミツイシコンブ(日高昆布)、マコンブ、ガゴメ、ホソメコンブ、リシリコンブ、それぞれが特徴を持ち、用途も少しずつ異なります。
写真提供/荒井孝幸(北海道水産物検査協会)
コンブは日本食に欠かせないダシをとる食材ですが、同じダシでも京都の懐石料理にはリシリコンブ(利尻昆布)、関西地方はマコンブ、関東地方はオニコンブ(羅臼昆布)からとったものが好まれる傾向にあります。
おいしい「ダシ」が出るコンブ。でも、海中に浸かっていたら、うまみ成分が溶け出してしまうんじゃないの? という疑問が浮かびます。
コンブのうまみ成分は、グルタミン酸というアミノ酸です。海藻には必要な成分を海水から取り入れて、不必要な成分を外へ出すしくみがあるので、生きていくのに必要なアミノ酸が海中に溶け出してしまうことはありません。
総務省の家計調査によると、 一世帯当たりの購入量がもっとも多いのは富山県で全国平均の約2倍で、しかも高級昆布の需要が高いといいます。また沖縄の購入量が多いのも特徴です。
これには歴史的な経緯があります。コンブが歴史的史料に登場するのは『続日本記』(797年)と古く、蝦夷から平城京へコンブが献上されたとあります。鎌倉時代中期には蝦夷と本州の交易が盛んになり、日本海沿岸を通って敦賀・小浜へ運ばれ、そこから京の都へ届けられました。
江戸時代には蝦夷のコンブの産地は道東まで拡大し、生産量が増加し、北前船を使い、敦賀・小浜で荷揚げせずに、瀬戸内を通って商業の中心地・大坂へ直接運ばれるようになりました。そのなごりで現在でもコンブを扱う問屋や加工業者は大阪が中心です。
海苔の産地は、むかし東京湾、いま有明海。
ノリ養殖が始まったのは江戸中期(1710年ごろ)の東京湾とされています。当時は木の枝や竹を垂直に立てた「粗朶(そだ)ひび」についたノリを採集することから始まりました。
ノリは和紙製造の技術を応用して板海苔に加工され、「浅草海苔」として江戸の名物となりました。明治時代の終わりにはノリ養殖は東北から九州地方まで伝わっていきます。しかし、ノリの生態がよくわかっていなかったため、自然まかせ、運まかせ的な部分も多く、経験だけが頼りでした。
「網ひび」が開発されたのが大正時代。1949年にノリの全生活史が解明されるとノリ養殖は急速に近代化しました。
写真提供/金萬智男
現在、遠浅の海では「支柱式栽培法」、水深の深い沖合では「浮き流し式栽培法」が行われています。「支柱式」の方が高品質の製品ができるといわれますが、多くの産地では規模拡大や作業効率の向上を図れる「浮き流し式」が主流です。
生産地は有明海と瀬戸内海が2大生産地で、この2地域でほぼ4分の3の量が生産されています。
養殖種は病害に強く高塩分に適したスサビノリが大半で、アサクサノリはごくわずかです。
海苔は日常の食べ物としてだけでなく、戦後の高度成長期には、日持ちがして重量的にも軽いことから、お歳暮などの贈答用商品として重宝されるようになりました。
お中元・お歳暮の習慣が下火になり、贈答用需要が減った現在の推計は家庭用30%、贈答用10%、加工用60%。加工用の多くはコンビニのおにぎりが占めているとみられています。
北方系ワカメと南方系ワカメのちがい
国内産ワカメの90%は養殖ワカメです。養殖といってもワカメの場合は肥料を与えるわけではなく、薬剤も使いません。天然ものは岩について上に伸びるのに対し、養殖ものは養殖縄に固着して海面から下に伸びるという違いくらいで、 品質に差はありません。
分類学的にはコンブ目アイヌワカメ亜科ワカメ属に属し、ワカメ、ヒロメ、アオワカメの種類があります。ヒロメ、アオワカメは地元で消費されてしまうことが多く、たとえば千葉県館山市船形あたりではヒロメをワカメ以上に珍重しますし、青森県津軽海峡沿岸では アオワカメをおにぎりに巻いて食べています。
ワカメは生育する環境に左右されやすく、同一海域でも場所によって茎の太さ、葉の厚み、切れ込みなど形状が大きく異なります。
一般に三陸沿岸に分布する北方系ワカメ(ナンブワカメ)は大型で茎が長く、肉厚で葉の切れ込みが深く、しゃきしゃきした食感です。
南方系ワカメは太平洋沿岸中南部・日本海に分布し、小型で茎は短く、切れ込みが浅いのが特徴です。激しい潮流で有名な鳴門海峡で育つナルトワカメも茎が短く、なめらかでしっかりした食感です。北方系と南方系、食べ比べてみてください。
3回にわたり見ていただいた海藻の世界、いかがでしたか。食べて美味しいだけでなく、医療・エネルギー・工業製品にも活躍している海藻。なにより地球の環境を劇的に変化させた、そのパワーに改めて驚かれたのではないでしょうか。海藻ってすごいのです。
海藻の迷宮
海藻の迷宮
ノリ、ワカメ、コンブ、ヒジキ......。日本では昔から海藻を日常的に食べていました。でも、海藻はただ美味しいだけではありません。気づかないだけで、実は海藻は人類の文明の礎として役立っているのです。