Web版 解説ノート
2021年12月20日(月)更新
地方色豊かなSURIMIワールド。
2021年12月20日(月)更新
おかずに、酒の肴に、お土産に魚のすり身
おせち料理に欠かせない蒲鉾は、白身魚の身をすり潰し、塩、砂糖、みりん、卵白などで味つけしたすり身を加熱したものです。
蒲鉾というと半円柱型の板付き蒸し蒲鉾を思い浮かべますが、平安時代には、竹の芯にすり身を塗り付けて焼いていました。その形が似ていることから「蒲(がま)穂」と呼ばれ、これが現在の焼き竹輪の原型です。こうした加工することで美味しく、しかも日持ちするようになったのです。
板付き蒲鉾が登場するのは室町時代。当時はすり身を板に付け、表面を焼いた焼き蒲鉾でした。現在の主流である蒸し蒲鉾が登場するのは江戸時代末期で、江戸では蒸し蒲鉾が、関西では蒸した後にさらに濃い焼き目をつけた焼き板蒲鉾と好みが分かれるようになりました。
すり身は、サバなどの青魚を原料としたものも含め、ご当地名物としてさまざまな商品に加工されています。
通販やアンテナショップでも入手できるので、集めておでんを作るのも楽しいかもしれません。
蒸し、茹で、焼き、揚げ……。
色も形も美味しさ、いろいろ
笹蒲鉾
宮城(仙台・気仙沼・石巻・塩竈)
明治初期にヒラメの大漁が続き、保存するためにすり身にして蒲鉾を作ったが、そのとき笹の葉状にしたのが始まりといわれる。
はんぺん
東京、千葉
山芋、卵白などを加えかき混ぜ、気泡を抱き込ませたマシュマロのようなすり身を茹でて作る。もとはホシザメなどサメの肉で作ったが、現在はスケトウダラなどの魚も混ぜて作られている。
すじ
東京、千葉
すり身を作るとき、裏ごしで除去された軟骨やスジから作られる円柱状の茹で蒲鉾。関東のおでんで「すじ」といえばこれ。関西おでんの「すじ」は牛のスジ肉を串刺しにして煮込んだもの。
なると巻
全国
約9割が静岡県焼津市で生産されている。白地に赤い線が主流だが、白・赤・緑の三色使い(東北)、赤地に白(九州) のものも。一般的な蒲鉾に比べつなぎが多く、魚肉の風味は少ない。
黒はんぺん
静岡(焼津)
サバ、イワシといった青魚を原料にした半月型の茹で蒲鉾。静岡ではおでん種として串刺しにして、あま味噌ダレと青ノリ、鰹節をかけて食べる。
細工蒲鉾
富山
富山の結納、結婚、新築祝いなどおめでたい席には、必ず登場する。型で抜いたすり身の表面にヘラで色付けをしたり、ケーキの模様を付けるように搾り出したりして模様を描く。
昆布巻き蒲鉾
富山
北前船の主要中継地だった富山。食文化にも昆布が根付いている。広げた昆布の上にすり身を伸ばし、渦巻き型に巻いて蒸した蒲鉾。昆布のうまみがまんべんなくすり身にいきわたる。
南蛮焼(なんば焼)
和歌山(田辺)
紀州沿岸で獲れたエソやグチからすり身をつくり、板に付けずに四角形の鍋で、じっくりあぶり焼き上げた焼き蒲鉾。そのまま食べるのが一般的。蒸し蒲鉾に比べ歯ごたえがある。
ほねく
和歌山(有田)
有田市はタチウオの漁獲高、日本一の町。豊富に獲れるタチウオの頭と内臓を除き、骨ごと潰したすり身を円盤状にして揚げた揚げ蒲鉾。当然、魚のうまみもカルシウムも豊富。
とうふちくわ(豆腐竹輪)
鳥取(東部)
鳥取藩初代藩主池田光仲が質素倹約のために、すり身に木綿豆腐を混ぜ合わせたことによって誕生したといわれる蒸し竹輪。豆腐とすり身の割合はほぼ7対3。
赤天(赤てん)
島根(浜田)
すり身に赤唐辛子を混ぜ合わせ、パン粉をまぶして揚げた揚げ蒲鉾。戦後、ハムカツの代用品として誕生したという。
あご野焼き
山陰地方(鳥取・島根)
あご(トビウオ)をすり身にし、地酒などで味付けして焼き上げた竹輪。一般的な竹輪に比べると約3倍は太く、中まで火が通るように生け花の剣山のような「突き立て棒」で叩きながら焼く。
じゃこ天
愛媛(南予地方)
じゃこといっても使用するのはイワシではなくホタルジャコ(南予地方ではハランボと呼ばれる)という魚。頭と内臓は除くが、骨も皮もミンチにしたすり身を成型して揚げた蒲鉾。
オランダ天
高知
すり身に卵、きくらげ、グリンピースなどを混ぜた揚げ蒲鉾。すり身はほんのり朱色で、断面もカラフルなので、麺類のトッピングにも重宝される。
飫肥天(おびてん)
宮崎
日向灘で獲れるシイラ、トビウオ、イワシ、サバなどのすり身に豆腐を混ぜ、黒砂糖、味噌、醤油で味付けをして揚げたもの。さつま揚げに比べて柔らかく、なにより甘い。
棒天
沖縄
すり身に野菜を混ぜて揚げた沖縄の「チキアギ」が鹿児島に伝わり、さらに薩摩名物として江戸で広まったので、関東では「さつま揚げ」と呼ばれるようになったという。
カステラ蒲鉾
沖縄
すり身に溶き卵を加え、箱状の容器に入れ蒸した黄色い蒸し蒲鉾。沖縄のお祝いや伝統行事には欠かせない。そのまま食べるほか、汁や炒め物の具として使う。
お正月と海の幸
お正月と海の幸
おせち料理には海の幸がふんだんに使われています。お雑煮のだしだけでも鰹節、煮干し、昆布、スルメ、マハゼ……とさまざま。海に囲まれた島国日本の食のルーツを感じますね。