Web版 解説ノート
2021年11月19日(金)更新
お雑煮はだしも具材も千差万別。
2021年11月19日(金)更新
食の歴史を物語るローカルフード、お雑煮
ご当地雑煮は代表的なものだけでもゆうに100種類を超える、実にユニークなハレの日の食です。同じ「お雑煮」という日本語を使いながら、実は各人の頭の中で思い描くお雑煮像は千差万別……。こんなに面白いローカルフードは他には見られません。
角餅か丸餅か、焼くか煮るかなど餅に注目されがちですが、お雑煮の多様性を語るならば、まずは「だし」の違いです。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、だし文化が注目されていますが、お雑煮における「だし」の多様性は半端ありません。
代表的なかつお昆布だし、煮干しだし(カタクチイワシ)、あごだし(トビウオ)だけでなく、仙台のハゼだし、福島会津の貝柱だし、島根県石見地域の高津川でとれる鮎だし、広島の牡蠣だし、岡山や佐賀、石川加賀などでもみられるスルメだし、鹿児島の焼き海老だし、青森八戸では鯨の皮からとるだしもあり、つくづく水産物が大きな役割を担っているなと感じます。
具材もしかり。全国を見渡せば、ブリ、エビ、サワラ、サケ、タイ、ナマコなどこれまた多様な魚介類が使われています。海藻も岩ノリやハバノリなど、地域の独自性のあるお雑煮を彩る具材として使われています。
首都圏は、鶏肉が中心で海産物があまり使われない傾向にありますが、日本全国を俯瞰してみると、使われているだしや具材の背景にある物語を想起してしまい、これまた楽しいものです。(お雑煮研究所所長 粕谷浩子)
だしも具材も個性的なお雑煮は多様性の見本
男鹿雑煮
秋田 男鹿地方
フグか焼アジでだしをとる。具は長ネギ、ゴボウ、ワカメ、岩ノリなど。醤油の代わりに「しょっつる」(ハタハタなどでつくった魚醤)を使う家も。
仙台雑煮
宮城 仙台
「ひき菜」と呼ばれる、茹でてから冷凍した千切り大根、ニンジン、ゴボウなどの野菜と焼き餅に、焼きハゼからとっただしを注ぎ、焼ハゼ、セリ、ゆずの千切りなどをトッピング。
くるみ雑煮
岩手 三陸沿岸
すまし仕立ての雑煮だが、餅を砂糖醤油で味付けした甘いくるみダレで食べる。イクラがトッピングされることも多い。
越後雑煮
新潟 新発田
塩鮭の頭からだしをとる。具は塩鮭、イクラ、里芋、ゴボウ、焼き豆腐など。イクラは白くなるまで火を通し、皮膜の弾力と中のトロトロ感を楽しむ。
こづゆ雑煮
福島 会津地方
さいの目に切った凍豆腐、野菜、シイタケなどを貝柱のだしで煮込んだ郷土料理の「こづゆ」に焼いた角餅を入れたもの。
はばのり雑煮
千葉 安房地方
大根と里芋のシンプルな雑煮に、炙ったハバノリ、花かつおをトッピング。内房の木更津あたりではハバノリではなく青混ぜ海苔をドバッと入れる。
菜鶏雑煮/江戸雑煮
東京
かつおだしのすまし仕立て。具は鶏肉に小松菜、三つ葉、カマボコなど。東日本では「敵をのす」の縁起から、のしもちを切った角もちを焼いて使うことが多い。
加賀雑煮
石川 金沢地方
だしをスルメと昆布からとるのが特徴。どろっとするまでよく煮た丸餅と、三つ葉だけのシンプルな雑煮。
ブリ雑煮
長野・岐阜 木曽・飛騨地方など
日本海でとれた塩ブリと山の幸が合わさった雑煮。具は焼き豆腐、大根、ニンジン、ゴボウ、ワラビなど。
名古屋雑煮
名古屋
かつおだしで角餅を柔らかく煮る。具はもち菜(小松菜に似た菜っ葉)と花かつおだけというシンプルな雑煮。
京雑煮
京都
丸餅を昆布だしでトロトロに煮て、白味噌で仕立てる。具は頭芋、里芋、大根など。
きな粉雑煮
奈良
かつおだしで具は大根、ニンジン、里芋、 豆腐など。餅はお椀の蓋に入れたきな粉につけて食べる。
牡蠣雑煮
広島
大根、白菜などの冬野菜と牡蠣、塩ブリが入ったすまし仕立ての雑煮。
石見風雑煮
島根 石見地方
焼きアユ(地域によっては干しアユ)からだしをとり、岩ノリや黒豆、カマボコをトッピング。
餡餅雑煮
香川
餅は餡餅。いりこだしの白味噌仕立てで具は大根、ニンジン、鶏肉、油揚げなど。
博多雑煮
福岡 博多地方
焼きあご(トビウオ)だしのすまし仕立て、具は塩ブリ、刻みスルメ、博多野菜で高菜の仲間のかつお菜、里芋、大根、ニンジン、シイタケなど。
具雑煮
長崎
塩ブリ、エビ、干しナマコ、カマボコ、鶏団子、里芋、青菜、結び昆布など具だくさん。
えび雑煮
鹿児島
八代湾でとれるクルマエビを焼いて寒風に干した焼きエビが入っている。
写真提供/粕谷浩子(お雑煮研究所所長)
お正月と海の幸
お正月と海の幸
おせち料理には海の幸がふんだんに使われています。お雑煮のだしだけでも鰹節、煮干し、昆布、スルメ、マハゼ……とさまざま。海に囲まれた島国日本の食のルーツを感じますね。