感謝と願いが込められたおせち料理

正月といえばおせち料理。みなさんの家では、どんなごちそうを食べますか?

おせち料理は郷土色の濃い食べ物です。食の嗜好が多様化し、情報や物流が発達するにつれ内容もローストビーフやテリーヌ、エビチリなど無国籍化しつつありますが、それでもその地方ならではのおせち料理を食べないと正月が来た気がしないという人は少なくないでしょう。

そして、食材を眺めてみると、面白いことに海に近い土地はもちろん、海から遠く離れた山奥でも伝統的に海産物を食べていることがわかります。代表的な海産物を重箱に盛りつけてみたのが下のイラストです。

これらのおせち料理にはどんな意味が込められているのでしょうか?

おせち料理のイラスト
イラストレーション/山本重也

A タイの塩焼き=「めでたい」→「めで鯛」の語呂合わせ。

B 数の子=子孫繁栄を願う。ニシンの卵巣の塩漬け。二親(にしん)からたくさんの子(卵)が生まれてめでたい、ということに由来する。ニシンは昔「かど」と呼ばれていたことから、「かどの子」が転じてカズノコ。

C 有頭海老=長いひげと、曲がった腰から、長寿のシンボル。小えびを串で留めた鬼がら焼が定番。

D 田作り(たづくり)=五穀豊穣を願う。昔は干したイワシを肥料として田畑に撒いたことから。おせち料理では、主に「かえり」サイズのカタクチイワシの素干しが用いられる。別名「ごまめ」は漢字で書くと「五万米」。

E いくら=おせちに登場するようになったのは、わりと最近のこと。子孫繁栄を願って。

F 昆布巻き=「喜ぶ」→「養老コンブ」の語呂合わせから。また「結ぶ」→「むつむ」に通じ、縁起のよいことから。主にナガコンブが使われる。

G トコブシ=別名を「フクダメ」というので、福がたまるようにとの願いから。

H ブリ=出世魚であることから出世祈願。

I ハゼの甘露煮=ハゼはエサを素早く飲み込むことから「早く目標を達成させる」という縁起を担いで。

J 紅白かまぼこ=半円形は門出にふさわしい日の出のシンボル。紅は魔除け・めでたさ、白は神聖を意味する。もとは神饌の赤米・白米を模したという説も。

K 伊達巻=白身魚などのすり身に溶き卵と出汁を加えてすり混ぜ、甘めに調味して焼き上げ、熱いうちに巻き簾で形を整えたもの。巻物は書物に似た形から学問や文化を意味することから学問成就を願って。

L 小肌の粟漬け=小肌(コハダ)はコノシロという魚の成魚になる前の名前。出世魚なので縁起がよい。クチナシで黄色く染めた粟で五穀豊穣を願う。

M 酢だこ=関東以北でよく用いられる。おせち料理に登場する由来には諸説ある。断面が紅白で縁起がよいこと。また、タコは「多幸」に通じることや、凧あげのように運気をあげたいという願いからなど。

N 紅白なます=お祝いの水引をかたどったもの。平安、平和を願う縁起物。生の魚介と大根、にんじんと酢で作ったことから、「なます」の名がついた。「氷頭(サケの頭)」「するめ」などを加えることも。

盛りつけにも地方色があり、関東は大皿盛が多く、全国の主流は各自の膳で祝うスタイル。重箱に詰めるというのは東海・近畿地方と少数派でした。この重箱詰めが一般的となったのは戦後のことです。

おせち料理は、正月に各家庭にやってくる「年神様」をもてなし、神様と一緒に食べることにより、無事に一年が過ごせたことを感謝し、新しい年もつつがなく過ごせるようにという願いから生まれた風習といわれています。

現在では年が明けてからおせち料理を食べますが、もともとは大晦日の夕飯から食べていました。というのも、昔は太陽が沈むとともに一日が終り、日が変わるとされていたので、大晦日の夜こそが新しい年の始まりだったのです。年齢も誕生日を起点とする「満年齢」が普及するまでは「数え年齢」で、誰もが正月を迎えると同時に一歳年をとっていました。

こうした「年取り膳」を食べ、初詣に行く新年の習慣が定着したのは江戸時代といわれています。

おかずに、酒の肴に、お土産に魚のすり身

おせち料理に欠かせない蒲鉾は、白身魚の身をすり潰し、塩、砂糖、みりん、卵白などで味つけしたすり身を加熱したものです。

蒲鉾というと半円柱型の板付き蒸し蒲鉾を思い浮かべますが、平安時代には、竹の芯にすり身を塗り付けて焼いていました。その形が似ていることから「蒲(がま)穂」と呼ばれ、これが現在の焼き竹輪の原型です。こうした加工することで美味しく、しかも日持ちするようになったのです。

板付き蒲鉾が登場するのは室町時代。当時はすり身を板に付け、表面を焼いた焼き蒲鉾でした。現在の主流である蒸し蒲鉾が登場するのは江戸時代末期で、江戸では蒸し蒲鉾が、関西では蒸した後にさらに濃い焼き目をつけた焼き板蒲鉾と好みが分かれるようになりました。

すり身は、サバなどの青魚を原料としたものも含め、ご当地名物としてさまざまな商品に加工されています。

通販やアンテナショップでも入手できるので、集めておでんを作るのも楽しいかもしれません。

蒸し、茹で、焼き、揚げ……。
色も形も美味しさ、いろいろ

笹蒲鉾 写真

笹蒲鉾
宮城(仙台・気仙沼・石巻・塩竈)

明治初期にヒラメの大漁が続き、保存するためにすり身にして蒲鉾を作ったが、そのとき笹の葉状にしたのが始まりといわれる。

はんぺん 写真

はんぺん
東京、千葉

山芋、卵白などを加えかき混ぜ、気泡を抱き込ませたマシュマロのようなすり身を茹でて作る。もとはホシザメなどサメの肉で作ったが、現在はスケトウダラなどの魚も混ぜて作られている。

すじ 写真

すじ
東京、千葉

すり身を作るとき、裏ごしで除去された軟骨やスジから作られる円柱状の茹で蒲鉾。関東のおでんで「すじ」といえばこれ。関西おでんの「すじ」は牛のスジ肉を串刺しにして煮込んだもの。

なると巻き 写真

なると巻
全国

約9割が静岡県焼津市で生産されている。白地に赤い線が主流だが、白・赤・緑の三色使い(東北)、赤地に白(九州) のものも。一般的な蒲鉾に比べつなぎが多く、魚肉の風味は少ない。

黒はんぺん 写真

黒はんぺん
静岡(焼津)

サバ、イワシといった青魚を原料にした半月型の茹で蒲鉾。静岡ではおでん種として串刺しにして、あま味噌ダレと青ノリ、鰹節をかけて食べる。

細工蒲鉾 写真

細工蒲鉾
富山

富山の結納、結婚、新築祝いなどおめでたい席には、必ず登場する。型で抜いたすり身の表面にヘラで色付けをしたり、ケーキの模様を付けるように搾り出したりして模様を描く。

昆布巻き蒲鉾 写真

昆布巻き蒲鉾
富山

北前船の主要中継地だった富山。食文化にも昆布が根付いている。広げた昆布の上にすり身を伸ばし、渦巻き型に巻いて蒸した蒲鉾。昆布のうまみがまんべんなくすり身にいきわたる。

南蛮焼(なんば焼) 写真

南蛮焼(なんば焼)
和歌山(田辺)

紀州沿岸で獲れたエソやグチからすり身をつくり、板に付けずに四角形の鍋で、じっくりあぶり焼き上げた焼き蒲鉾。そのまま食べるのが一般的。蒸し蒲鉾に比べ歯ごたえがある。

ほねく 写真

ほねく
和歌山(有田)

有田市はタチウオの漁獲高、日本一の町。豊富に獲れるタチウオの頭と内臓を除き、骨ごと潰したすり身を円盤状にして揚げた揚げ蒲鉾。当然、魚のうまみもカルシウムも豊富。

とうふちくわ(豆腐竹輪) 写真

とうふちくわ(豆腐竹輪)
鳥取(東部)

鳥取藩初代藩主池田光仲が質素倹約のために、すり身に木綿豆腐を混ぜ合わせたことによって誕生したといわれる蒸し竹輪。豆腐とすり身の割合はほぼ7対3。

赤天(赤てん) 写真

赤天(赤てん)
島根(浜田)

すり身に赤唐辛子を混ぜ合わせ、パン粉をまぶして揚げた揚げ蒲鉾。戦後、ハムカツの代用品として誕生したという。

あご野焼き 写真

あご野焼き
山陰地方(鳥取・島根)

あご(トビウオ)をすり身にし、地酒などで味付けして焼き上げた竹輪。一般的な竹輪に比べると約3倍は太く、中まで火が通るように生け花の剣山のような「突き立て棒」で叩きながら焼く。

じゃこ天 写真

じゃこ天
愛媛(南予地方)

じゃこといっても使用するのはイワシではなくホタルジャコ(南予地方ではハランボと呼ばれる)という魚。頭と内臓は除くが、骨も皮もミンチにしたすり身を成型して揚げた蒲鉾。

オランダ天 写真

オランダ天
高知

すり身に卵、きくらげ、グリンピースなどを混ぜた揚げ蒲鉾。すり身はほんのり朱色で、断面もカラフルなので、麺類のトッピングにも重宝される。

飫肥天(おびてん) 写真

飫肥天(おびてん)
宮崎

日向灘で獲れるシイラ、トビウオ、イワシ、サバなどのすり身に豆腐を混ぜ、黒砂糖、味噌、醤油で味付けをして揚げたもの。さつま揚げに比べて柔らかく、なにより甘い。

棒天 写真

棒天
沖縄

すり身に野菜を混ぜて揚げた沖縄の「チキアギ」が鹿児島に伝わり、さらに薩摩名物として江戸で広まったので、関東では「さつま揚げ」と呼ばれるようになったという。

カステラ蒲鉾 写真

カステラ蒲鉾
沖縄

すり身に溶き卵を加え、箱状の容器に入れ蒸した黄色い蒸し蒲鉾。沖縄のお祝いや伝統行事には欠かせない。そのまま食べるほか、汁や炒め物の具として使う。

食の歴史を物語るローカルフード、お雑煮

ご当地雑煮は代表的なものだけでもゆうに100種類を超える、実にユニークなハレの日の食です。同じ「お雑煮」という日本語を使いながら、実は各人の頭の中で思い描くお雑煮像は千差万別……。こんなに面白いローカルフードは他には見られません。

角餅か丸餅か、焼くか煮るかなど餅に注目されがちですが、お雑煮の多様性を語るならば、まずは「だし」の違いです。和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、だし文化が注目されていますが、お雑煮における「だし」の多様性は半端ありません。

代表的なかつお昆布だし、煮干しだし(カタクチイワシ)、あごだし(トビウオ)だけでなく、仙台のハゼだし、福島会津の貝柱だし、島根県石見地域の高津川でとれる鮎だし、広島の牡蠣だし、岡山や佐賀、石川加賀などでもみられるスルメだし、鹿児島の焼き海老だし、青森八戸では鯨の皮からとるだしもあり、つくづく水産物が大きな役割を担っているなと感じます。

具材もしかり。全国を見渡せば、ブリ、エビ、サワラ、サケ、タイ、ナマコなどこれまた多様な魚介類が使われています。海藻も岩ノリやハバノリなど、地域の独自性のあるお雑煮を彩る具材として使われています。

首都圏は、鶏肉が中心で海産物があまり使われない傾向にありますが、日本全国を俯瞰してみると、使われているだしや具材の背景にある物語を想起してしまい、これまた楽しいものです。(お雑煮研究所所長 粕谷浩子)

だしも具材も個性的なお雑煮は多様性の見本

男鹿雑煮 写真

男鹿雑煮
秋田 男鹿地方

フグか焼アジでだしをとる。具は長ネギ、ゴボウ、ワカメ、岩ノリなど。醤油の代わりに「しょっつる」(ハタハタなどでつくった魚醤)を使う家も。

仙台雑煮 写真

仙台雑煮
宮城 仙台

「ひき菜」と呼ばれる、茹でてから冷凍した千切り大根、ニンジン、ゴボウなどの野菜と焼き餅に、焼きハゼからとっただしを注ぎ、焼ハゼ、セリ、ゆずの千切りなどをトッピング。

くるみ雑煮 写真

くるみ雑煮
岩手 三陸沿岸

すまし仕立ての雑煮だが、餅を砂糖醤油で味付けした甘いくるみダレで食べる。イクラがトッピングされることも多い。

越後雑煮 写真

越後雑煮
新潟 新発田

塩鮭の頭からだしをとる。具は塩鮭、イクラ、里芋、ゴボウ、焼き豆腐など。イクラは白くなるまで火を通し、皮膜の弾力と中のトロトロ感を楽しむ。

こづゆ雑煮 写真

こづゆ雑煮
福島 会津地方

さいの目に切った凍豆腐、野菜、シイタケなどを貝柱のだしで煮込んだ郷土料理の「こづゆ」に焼いた角餅を入れたもの。

はばのり雑煮 写真

はばのり雑煮
千葉 安房地方

大根と里芋のシンプルな雑煮に、炙ったハバノリ、花かつおをトッピング。内房の木更津あたりではハバノリではなく青混ぜ海苔をドバッと入れる。

菜鶏雑煮 写真

菜鶏雑煮/江戸雑煮
東京

かつおだしのすまし仕立て。具は鶏肉に小松菜、三つ葉、カマボコなど。東日本では「敵をのす」の縁起から、のしもちを切った角もちを焼いて使うことが多い。

加賀雑煮 写真

加賀雑煮
石川 金沢地方

だしをスルメと昆布からとるのが特徴。どろっとするまでよく煮た丸餅と、三つ葉だけのシンプルな雑煮。

ブリ雑煮 写真

ブリ雑煮
長野・岐阜 木曽・飛騨地方など

日本海でとれた塩ブリと山の幸が合わさった雑煮。具は焼き豆腐、大根、ニンジン、ゴボウ、ワラビなど。

名古屋雑煮 写真

名古屋雑煮
名古屋

かつおだしで角餅を柔らかく煮る。具はもち菜(小松菜に似た菜っ葉)と花かつおだけというシンプルな雑煮。

京雑煮 写真

京雑煮
京都

丸餅を昆布だしでトロトロに煮て、白味噌で仕立てる。具は頭芋、里芋、大根など。

きな粉雑煮 写真

きな粉雑煮
奈良

かつおだしで具は大根、ニンジン、里芋、 豆腐など。餅はお椀の蓋に入れたきな粉につけて食べる。

牡蠣雑煮 写真

牡蠣雑煮
広島

大根、白菜などの冬野菜と牡蠣、塩ブリが入ったすまし仕立ての雑煮。

石見風雑煮 写真

石見風雑煮
島根 石見地方

焼きアユ(地域によっては干しアユ)からだしをとり、岩ノリや黒豆、カマボコをトッピング。

餡餅雑煮 写真

餡餅雑煮
香川

餅は餡餅。いりこだしの白味噌仕立てで具は大根、ニンジン、鶏肉、油揚げなど。

博多雑煮 写真

博多雑煮
福岡 博多地方

焼きあご(トビウオ)だしのすまし仕立て、具は塩ブリ、刻みスルメ、博多野菜で高菜の仲間のかつお菜、里芋、大根、ニンジン、シイタケなど。

具雑煮 写真

具雑煮
長崎

塩ブリ、エビ、干しナマコ、カマボコ、鶏団子、里芋、青菜、結び昆布など具だくさん。

えび雑煮 写真

えび雑煮
鹿児島

八代湾でとれるクルマエビを焼いて寒風に干した焼きエビが入っている。

写真提供/粕谷浩子(お雑煮研究所所長)