岩手県気仙沼市の写真

なぜ気仙沼はサメの街なのか?

宮城県の最北端、岩手県との境に位置する気仙沼市。沖合には世界三大漁場の一つ「三陸沖」が広がり、豊かな海の幸がもたらされる港街。リアス式海岸の深い入り江には、漁港とともに造船所、水産加工場、冷蔵施設、製氷施設などが並ぶ水産基地です。

気仙沼港といえば、誰もが思い出すのが、カツオでしょう。生鮮カツオの水揚げでは長年にわたり連続日本一に輝いています。また、気仙沼港はサンマでも有名です。

一年を通して、さまざまな魚が水揚げされる気仙沼ですが、実はサメの水揚げ量も日本一。全国で流通するサメの大半が気仙沼で水揚げされています。

ヨシキリザメとモウカザメの写真
頭、内臓を除去したヨシキリザメ(左)とモウカザメ

気仙沼に水揚げされるサメで圧倒的に多いのはヨシキリザメ(吉切鮫)で約80%。次にここではモウカザメ(毛鹿鮫)と呼ばれるネズミザメが約15%。ほかにカツザメ(勝鮫)とよばれるアオザメや、ハチワレ、ニタリなどオナガザメの仲間が捕獲されます。

なぜ気仙沼にたくさんのサメが水揚げされるのでしょうか。それは、マグロやメカジキを狙うマグロはえ縄漁が盛んで、生息域が似ていて同じエサを食べるサメも同時に漁獲されるからです。気仙沼はメカジキの水揚げ量も日本一で、全国に流通している生鮮メカジキの72%が気仙沼産です。

はえ縄漁は、幹縄(みきなわ)と呼ばれる浮きの付いた長いロープに、枝縄(えだなわ)と呼ばれる短いロープを一定の間隔で繫なぎ、それぞれの枝縄の先にある釣針にサバなどのエサを付け、海中に垂らしてマグロやカジキが食いつくのを待つ漁法です。

気仙沼では100〜120㎞の幹縄に、3000〜4000個の釣針をつけるのが一般的だそうです。箱根駅伝の片道が約110㎞ですから、それと同じ長さのロープというから驚きです。

はえ縄漁のイメージ図のイラスト
はえ縄漁のイメージ図

気仙沼港を出港し、漁場に到着するまで4〜7日。漁場に着いたら、チームを組んで(乗組員は7〜16名)、交代で約4〜6時間かけて投縄。待つこと約5時間、ようやく引揚げ作業がはじまります。この揚縄作業は休憩をはさみながら約10〜12時間を要します。

約4000個の釣針がついていますが、400匹も釣れれば大漁なのだとか。かかった魚は右舷側にある「舷門」から人力で引き上げ、素早く内臓を処理し、氷詰めしてから低温の魚艙に保管します。

出港すると、航海日数は15〜45日間くらい。短期間でたくさん獲れれば、早く帰れるのです。メカジキの水揚げのピークは10月〜3月。5〜7月になるとヨシキリザメが多く掛かるようになります。

サメがずらりと横たわる勇壮な気仙沼魚市場

戻ってきた船は、入札が始まる朝の7時に間に合うように、水揚げが多い場合は夜中から荷揚げの準備作業を始めます。ベルトコンベアやクレーンで水揚げされた魚は、市場の人が種類ごとに選別して並べます。

モウカザメは頭、内臓を処理せずに丸のまま水揚げされます。目を見開き、歯をむき出した2m近くあるモウカザメが市場にずらりと並ぶ光景は迫力満点です。

気仙沼魚市場に並ぶサメの写真
これほどサメが並ぶ魚市場は他にない

一方、ヨシキリザメは船上で頭と内臓が処理されているので、パッと見ではサメだとわかりません。モウカザメと比べると青く柔らかく細い魚体です。漁協職員が鮮度や大きさごとに分け、20〜30匹をひと山(約800㎏)として積み上げます。この日並んだヨシキリザメは25トン。これまた壮観です。

ヨシキリザメの写真
ヨシキリザメの頭と内臓は船上で除去済み

並んだサメを念入りにチェックしているのは仲買人です。気仙沼の買い付けは「競り」ではなく、あらかじめ購入希望額を書いて申告し、最も高く値段を付けた人が買う「入札」方式。メカジキやモウカザメは1本単位、ヨシキリザメはひと山でカウントされます。

入札方式は、他社のつけた価格を知ることがでません。欲しい商品をいかに確実に手に入れるか。市場は静かな熱気に包まれます。現在ではコンピューターで管理されていますが、入札方式であったため、コンピューター化しやすかったそうです。買い付け結果は液晶画面に表示されます。

オール気仙沼で「サメまちブランド」

買い手が決まると、フカヒレ加工業者が刃渡り30㎝ほどの「ヒレ切り包丁」で、スパッ、スパッと切り取って行きます。切り取るヒレは背びれ、尾びれ、腹びれ。ヒレは魚種&部位別にカゴに入れ、フカヒレ工場に運ばれます。

ヒレの写真
切り取られたヒレ

ヒレを切り取られた魚体は、すり身工場へ。サメの皮をはぎ、三枚におろしてすり身の状態にしてから冷凍し、出荷を待ちます。すり身はサメの種類ごとに分けて作られ、購入した練り物業者がそれぞれブレンドをして、主に「はんぺん」の素材として使われます。

ヒレは手作業で皮、軟骨、肉をきれいに取り除き、形が整えられます。次にじっくり時間をかけて冷風乾燥させます。乾燥したものを「スムキ」と呼びます。

「フカヒレの姿煮」はスムキを戻して調理するのですが、戻すには水に浸したり、蒸したり、1週間ほどかかるので、市場に流通しているのは、使いやすいように、乾燥したスムキを戻した製品です。

フカヒレの成形作業中の写真
フカヒレの成形作業

「スムキ」のヒレは加工場で慎重に蒸し、微妙な温度管理をしながら水に浸けて戻されたあと真空パックされ、出荷されます。フカヒレが完成するまでには、非常に手間と時間がかかるのです。

サメはフカヒレやすり身だけでなく、軟骨は関節炎に効くサプリメントに、皮は革製品に、と捨てるところがありません。

全国でも珍しいサメの街という特徴を活かし、地元・気仙沼を盛り上げようと2014年に、加工業者、漁師、自治体、協力企業が参加し、「サメの街気仙沼構想推進協議会」を立ち上げました。

メカジキがキロ700円くらいなのに、サメはキロ100〜200円にしかならないのが現状。サメにもっと付加価値をつけて、サメを活用した街づくりをしていこうというものです。

例えば、サメの肉を使った新しい料理の開発。実は、気仙沼ではサメがたくさん獲れるのにもかかわらず、食べる習慣はなかったのだそうです。他にも水産物が豊かなことが主な理由。

そこで、子どものころからサメ食に親しんでもらおうと、学校給食にシャークナゲットやフカヒレスープが登場します。地元の食材を使ったメニューから、歴史や産業、文化を学ぼうという試みです。

サメかつの写真
一押しのサメかつ!
ヨシキリザメの広東風強火蒸しの写真
ヨシキリザメの広東風強火蒸し

それから、現在は他県に原料として販売しているサメの皮を、なめす加工から、バッグなどの皮革製品まで、気仙沼で一貫して製造できるようにして、付加価値の高い新しい商品を開発する動きも進んでいます。サメ革は防水性が高く、水に濡れても縮まない面白い素材なのだそうです。

サメ皮製品の写真
独特の風合でかつ機能的なサメ皮製品

「気仙沼はカツオやサンマで有名ですが、どちらも季節ものですし、水揚げの大半は他県の船。地元の船で通年操業しているのは、サメ獲り船(近海はえ縄船)ですからね。ここを守らないと、街は生き残れないのです」(協議会事務局/畠山清さん)

しかし、サメで街おこしは決して楽観できない状況です。

フカヒレの最大の消費国、中国への輸出は現在、ほぼゼロ(※取材時点)。福島第一原発の事故に伴う輸入規制に加え、中国では役人の接待禁止令で需要が激減。

しかも、一部の環境保護団体からはヒレを切り取るのは残酷、サメの資源管理ができていないと、フカヒレ料理を提供するホテルへの激しい排除キャンペーンがあったりします。

「でも、逆にきちんとサメの資源管理をして、MSC認証(持続可能な漁業による水産物であることを示す国際認証)を受けることで、気仙沼のサメをブランド化するチャンスにもなると前向きに考えています」(畠山さん)

現在は、気仙沼のフカヒレ料理を出す店に、ヒレだけでなくサメ肉も使ったメニューを考えてもらう協力をあおいだり、皮を利用するので手カギなどで皮に傷つけないようにと漁師に依頼したり、観光客が訪れたときにサメの街を楽しめるコースを考えたりと大忙し。

「どこかの街と同じようなことをしてもダメ。リスクを抱えても気仙沼のオリジナルを出してやっていくしかない。それで、生まれ育った街に何か返せたらいいなと」(協議会会長/村田進さん)

「震災を経験するまで、漁師と仲買人と水産加工業者が一丸となって何かをするなんて考えられなかったですね。みんなライバルでしたから。まとまれたのは奇跡。震災からの復興は、それほど深刻だったのです」(畠山さん)

がんばれ、サメの街、気仙沼!

の写真

サメの化石が見つからない理由

サメの起源は約4億年前。その種類や生態が非常に多岐にわたるのも、長い時間をかけ多様な環境に適応したためでしょう。

サメは骨格が柔らかな軟骨でできています。そのため化石として残りにくく、全身骨格のわかる化石がなかなか見つかりません。

でも、硬いサメの歯の化石は見つかります。約1800万年前から約150万年前まで生息していたメガロドン(ムカシオオホホジロザメ)という巨大なサメの歯の化石を「天狗の爪」として、大切に祭っている神社もあります。確かにご利益がありそうな迫力です。

このメガロドンは巨大で全長が16m もあったと推測され、小型のクジラを食べていたと考えられています。

メガロドンの歯の化石の写真
メガロドンの歯の化石

日本人のルーツとサメが登場する昔話

サメの登場するおとぎ話で最も有名といえば「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」でしょう。これは古事記にでてくる話ですが、現在では簡略化されて〈サメをダマして海を渡ったウサギが、怒ったサメに皮を剥がれ、ヒリヒリして痛くて泣いているところを大国主命(オオクニヌシノミコト)に助けてもらう〉というストーリーになっています。

原典には、サメではなく「和邇(ワニ)」と書かれているのですが、日本にワニはいませんし、山陰地方ではサメをワニと呼ぶことから、ワニ=サメ説が有力です。

ところがワニ説も根強いのです。インドネシアなど東南アジアには同じような話があり、南方から伝わった話と大国主命の話が合わさったのでは、という説です。

海を渡って日本列島という島にヒトがやってきたのが約3万8000年前。日本人のルーツを考えると面白いですね。

何度でも生え変わるからいつでも切れ味抜群

サメの歯には種類により、刺す歯、切る歯、砕く歯の3タイプがあります。サメの歯肉には新しい歯が何重にも埋まっていて、抜け落ちると次々に新しい歯がエスカレーターのようにせり上がってくるので、いつも新品で切れ味抜群。

入れ替わる期間は種類や年齢によってさまざまですが、一般には1週間に1回くらい。一生で約3万本もの歯が使われるといいます。

サメの歯の写真
エスカレーター式に生え変わるサメの歯

飛び出すサメのアゴ

サメが獲物に噛み付くとき、アゴがググッと前に飛び出します。これがよくわかるのがミツクリザメのアゴですが、ホホジロザメもアゴが飛び出しているのです。

メジロザメ(左)とミツクリザメのアゴの写真
メジロザメ(左)とミツクリザメの迫り出すアゴ

不気味なのはダルマザメ。自分よりも大きなカジキやクジラに吸い付き、肉をえぐるように噛み切ります。致命傷にはならない程度に噛み付くのは、エサの枯渇を招かない優れた戦略ともいえます。

ダルマザメの口とアゴとビンチョウマグロを噛んだ跡の写真
ダルマザメの口とアゴとビンチョウマグロを噛んだ跡

サメのおちんちんは2本

オスのサメにはおちんちん(交接器)が2本あります。魚なのにおちんちんがあるというのも奇妙ですが、しかも2本もあるなんて。

おちんちんは腹びれが変形したもので、メスの生殖孔に挿入し交尾をします。このとき、おちんちんを2本使うのか1本だけなのかは長い間の謎でしたが、水族館での観察により1本しか使わないことが確認されました。

水中では体を固定するのが難しいので、オスはメスに咬みつき、メスをおとなしくさせ、体を密着し交尾します。ですから、交尾後のメスは咬み傷だらけになります。

イヌザメの交尾の写真
イヌザメの交尾

繁殖方法も多種多様

「卵生」のナヌカザメなどは、卵を岩や海藻にからみつけるように産みつけ、子は約1年間、卵の中で成長してから産まれます。しかし、多くのサメは母ザメから親と同じ形で産まれる「胎生」です。

軟骨魚類の胎生には、子宮の中で自分の卵黄だけで育つ(ジンベエザメなど)。卵黄を吸収したあと、卵巣から送り込まれる無精卵や子宮内の兄弟ザメを食べて育つ(ホホジロザメ、ネズミザメなど)。卵黄を吸収したあと、子宮壁から分泌されるミルクのような栄養物を吸収して成長する(イトマキエイなどのエイ類)。卵黄で一定の大きさに成長したあと、胎盤とヘソの緒を通して母ザメから栄養供給を受ける(シュモクザメなど)の4タイプがあります。

ネコザメの卵の写真
ネコザメの卵
ナヌカザメの卵の写真
ナヌカザメの卵
トラザメの卵の写真
トラザメの卵

世界中で漁獲されているサメ

世界でサメはどれくらい漁獲されているのでしょう。国際連合食糧農業機関(FAO)の統計を見ると、2003年に90万トンを記録するまで増加し続け、最近は80万トン前後で横ばいです。

国別にみると、最もサメを漁獲している国はインドネシア。続いてインド、スペイン。そして台湾、アルゼンチン、メキシコ、パキスタン、アメリカが続きます。
スペインというのは意外かもしれませんが、サメ肉は「Cazón(カソン)」と呼ばれ、酢漬けやトマト煮込み、ソテーなど様々な料理に使われています。

サメで最も高く売れるのが「フカヒレ」の原料となるヒレ。外国の漁船では、金にならないのに魚倉が一杯になってしまう、歯や皮膚が他の魚を傷つけるという理由から、ヒレだけを採取して、海に破棄することも多かったのです。

現在では漁獲したサメは、完全利用(頭部、内臓及び皮を除くすべての部位を最初の水揚げまたは転載まで船上に保持すること)が義務づけられています。

サメのヒレの写真
高価で取引されるサメのヒレ

サメの肉は臭いといわれる理由

海にすむ多くの魚(硬骨魚)の体液組成は、私たち哺乳類とほぼ一緒です。体液と比較して、海水は高濃度で浸透圧も高いため、塩分が体内に流入し、水は体外に脱水されてしまいます。

これを克服するために、魚は海水を飲み、塩分と水分を吸収し、余分な塩分を体外に排泄しています。

ところが同じ魚でも、サメはちょっと違った仕組みなのです。体内に多量の尿素を蓄積することで、海水という高浸透圧に対応しているのです。尿素濃度を高くするため、肝臓では積極的に尿素を合成しています。

本来ならば老廃物として排出すべき尿素を体内に蓄積することで、体液の浸透圧は高くなり、体内の水分が失われる危険がなくなりました。逆に浸透圧が高いために、体内に水が流入するので、サメは海水を飲まなくても水を得ることができるのです。

よく「サメやエイはアンモニア臭い」といわれるのは、死後しばらくすると体内の尿素が分解してアンモニアが生成されるからです。従って、新鮮なものは臭くありません。

サメの写真

普通の魚との違い、サメとエイとの違い

魚は大きく「硬骨魚」と「軟骨魚」の2つに分けられます。サメやエイは全身の骨格が柔らかな骨で形成されている軟骨魚です。

サメやエイの骨は柔らかくても歯は硬く、歯が抜けても何度でも新しい歯が生えてくるという、なんともうらやましいシステムになっています。

皮膚も特徴的で触ると硬くザラザラしています。硬骨魚の鱗は抜け替わらず、体が大きくなると鱗も大きくなります。ところが、サメの鱗は抜け替わり、成長して大きくなると新しい鱗がはえるシステムで、子どものサメも大人のサメも鱗の大きさ、体表の鱗の密度はほぼ一定です。

実はサメの鱗は歯と同じ構造で、サメはエサから得た栄養素(カルシウム)で骨格を硬くする代わりに、何度でも生え変わる硬い歯や鱗に使っているのです。

サメの外見での最大の特徴はエラ孔です。硬骨魚はエラぶたに覆われているのでエラ孔は1対ですが、サメは5〜7対のエラ孔があります。

これはサメとエイに共通した特徴で、エラ孔が体の側面にあるのがサメ、腹面にあるのがエイです。例えばノコギリザメとノコギリエイ。見た目は似ていますが、ノコギリザメはエラ孔が側面にあるのでサメ、ノコギリエイは腹面にあるのでエイと区別します。

では、カラダの特徴を見てみましょう。

サメの部位のイラスト
サメの部位のイラスト

ロレンチーニ器官
サメの頭部、鼻や口の周りに数十から数百ある直径1mmほどの小さな穴。穴の中にはゼリー状の物質が詰まっている。この器官を使って、サメは獲物の筋肉が発する微弱な電流を感知し、砂に潜っている獲物も捕まえることができる。また、地磁気から方位を探知することができるので、長距離の回遊を可能にしていると考えられている。

ロレンチーニ器官の写真
ボツボツに見えるのがロレンチーニ器官


硬骨魚の歯は骨に直接ついているが、サメの歯は歯肉に埋まっている。その数、ホホジロザメで約300本。サメの種類により大きさや形はさまざまだが、どの種でも歯はエスカレーターのように次から次へと立ち上がり、生きている限り何回でも抜け替わる。

鼻孔
獲物を見つけたり追ったりするのに最も大切なのが「におい」。サメの嗅覚はとてもすぐれていて、一滴の血を100万倍に薄めても嗅ぎ分けられる。サメの鼻孔は純粋に嗅覚のためのもので呼吸とは関係ない。


サメの有効な視界は約15mという報告がある。ほのかな光や動いているものへの感知能力にすぐれ、暗いところでものを見るのに適している。硬骨魚と違い、人間と同じく瞳孔を開閉して取り込む光の量を調節する。

背びれ
遊泳中の動きを安定させる働き。大部分は2基あるが底生のサメには1基しかない種類もいる。ツノザメやネコザメの仲間には鋭いトゲをもつものもいる。このトゲは鱗が変形したものと考えられている。

胸びれ
方向転換、同じ深度を維持するのに役立つ。エイ類は頭部と胸びれが一体化している。

腹びれ
成熟したオスには、腹びれの変形した1対の棒状の交接器があり、交尾の際に精子をメスに送り込むのに使われる。

皮膚
ガサガサした肌を「鮫肌」と呼ぶように、サメはヤスリのようなざらざらした体表をしている。これは楯鱗(じゅんりん)という特殊な硬く小さい鱗がびっしり並んでいるためである。

楯鱗の構造は歯と同じで成長するにしたがい数が増え抜けては新しいものに置き換わる。この硬い皮膚は「防御」するだけでなく泳ぐときの「流体抵抗の軽減」の役割も果たしている。

サメ独特の臓器のしくみ

サメの体内部位のイラスト
サメの体内部位のイラスト


体重と脳重量の比率では一般の硬骨魚よりも大きく鳥類に近い。

エラ
口や噴水孔から取り入れた水は、エラの表面を流れてエラ孔から体外に出される。このときエラの表面で水中の酸素と血液中の二酸化炭素の交換が行われる。

肝臓
サメには硬骨魚のような浮き袋がない。その代わりに巨大な肝臓には油がぎっしり詰まっていて、この浮力を得て体が沈まない仕組みになっている。また、浮き袋がないので、深海で水圧がかかってもあまり影響を受けないため、深海と表層を自在に行き来できる。


胃は大きく拡張し、大きな獲物を丸呑みしてから、ゆっくり消化する。


一般的な硬骨魚は腸を長くして養分を吸収する面積を広げているが、サメの場合は内側の構造を複雑にして面積を増やしており、腸の長さ自体は短い。

心臓
硬骨魚と同じくシンプルな1心室1心房。

卵巣・子宮
サメはすべて体内受精。一度の産卵期に作られる成熟卵は硬骨魚類に比べるときわめて少ない。ネコザメのように卵を産む「卵生」のサメもいるが、多くは母ザメから栄養をもらい発育して生まれてくる「胎生」である。

軟骨
サメの骨格は柔らかい軟骨でできている。吸収したカルシウムは骨を硬くする代わりに鱗の強化や、永遠に生え変わる歯に使われる。軟骨は化石として残りにくいので、サメの化石は歯ぐらいしか見つからない。

筋肉
外側の白い筋肉(普通筋)は瞬間的に強く収縮し、獲物にアタックするなど爆発的なスピードを出すときに働く。一定の速度で泳いでいるときは普通筋に沿って走っている赤黒い筋肉(血合筋)が働いている。

体温
サメは水温によって体温が変わる変温動物。しかし、ホホジロザメ、ネズミザメといった活動的なサメの体温は周囲の水温よりも5〜15℃程度高い。これは奇網と呼ばれる動脈と静脈が絡み合った器官で、温かい血液の流れている静脈が動脈の冷たい血液を温めているから。

体温が高い魚は体の大きさが同じくらいで体温が低い魚と比べて泳ぐ速さが2.7倍速く、回遊距離は2.5倍長いことが明らかになっている。