ホヤの仲間は色も形も個性的

形がパイナップルに似ていることから「海のパイナップル」と呼ばれるホヤ。珍味としても重宝され、その個性的な味から「海のパクチー」ともいわれています。

日本で食されているホヤは主に「マボヤ」と「アカボヤ」です。

「マボヤ」は東北地方、それも牡鹿半島より北に多く生息していて、三陸沿岸では養殖も盛んに行われています。一方、「アカボヤ」は北海道に多く生息していて、市場に出荷されているのはほぼ天然物です。

マボヤの場合、市場に出回るのはほとんどが養殖ですが、天然のマボヤは、海底の岩などに付着しています。硬い皮に覆われ、表面にはたくさんのイボイボがあり、色は鮮やかな赤褐色、赤橙色で、成長すると大人の握り拳くらいの大きさになります。

天然のマボヤの写真
群生する天然のマボヤ 写真/宮城ダイビングサービス ハイブリッジ

ホヤは昔から食べられていましたが、現在は東北地方を中心に消費されていて、関東よりも西の地域では、あまり馴染みのある食材ではないようです。

食用となるマボヤ、アカボヤ以外にも、海には1000種類以上のホヤが生息しているといわれています。

なんとなく顔に見えるホヤは多く、「カールおじさんボヤ」「ウルトラマンボヤ」などと呼ばれ、ダイバーたちに人気です。

ウルトラマンボヤとカールおじさんボヤの写真
通称ウルトラマンボヤ(左)とカールおじさんボヤ(右) 写真/沖縄オアシスダイバーズ

ホヤというと、岩に固着しているイメージが強いのですが、「ウミタル」や「ヒカリボヤ」のように海中を漂うホヤもいれば、「クロスジツツボヤ」のように蛍光色に光るホヤもいます。

ナガヒカリボヤの写真
海中を漂うナガヒカリボヤ 写真/黄金崎ダイブセンター

大きさもさまざまで、「サルパ」のように20㍍くらいになる巨大なものもいれば、「オタマボヤ」や「サイヅチボヤ」のように肉眼では判別しにくいサイズのものもいます。

謎の生物ホヤの体の構造

ホヤとはいったい何者なのでしょう。植物のようにも見えますし、固い殻に覆われているので「ホヤ貝」と貝の仲間のように呼ばれることもあります。

一見すると植物のようなホヤですが、脳神経、心臓、消化器官を持つ、れっきとした動物です。しかも、貝やイカなどの軟体動物よりもヒトに近く、背骨のある動物、つまり哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類といった脊椎動物の原点となる「原索(げんさく)動物」と呼ばれる生物なのです。

マボヤの内部構造を見てみましょう。

マボヤ(成体)の体の構造図

全身を覆う硬い皮は被嚢(ひのう)と呼ばれ、食物繊維のセルロースでできています。頭頂部には2本の大きな突起があります。この突起の先端は、海中にいるときには、どちらも大きく口を開けていますが、海からあげると口を閉じます。

この閉じ口をよく見ると、一つは+(プラス)型で、もう一方はー(マイナス)型になっています。プラス型は海水を吸い込む入水孔で、内側に並んだリング状の触手で粒子の大きさをチェックしながら、プランクトンを含んだ海水を体内に取り入れます。マイナス型は出水孔で、排泄物を海水とともに排出しています。

生体のどこを見ても背骨のようなものは見当たりません。こんなシンプルな構造の生き物のどこが脊椎動物に近いというの? と思うはず。

でも実は、卵から生まれたばかりの赤ちゃんホヤは親とは全く形が異なり、オタマジャクシのような形をしているのです。体内には脊索という原始的な背骨のようなものがあり、ヒレのある尾を動かして海中を泳ぐのです。

マボヤ(幼生)の体の構造図

1.7㍉ほどの大きさのオタマジャクシ型の幼生は半日から2日間ほど浮遊し、やがて海底の岩などに根を生やすように付着します。すると尾は縮み、脊索は体部に吸収され、見慣れたホヤの形に変化していくのです。

ホヤはヒトにもっとも近い無脊椎動物

静岡県下田市にある「筑波大学臨海実験センター」では、ホヤを使って最先端の遺伝子の研究をしています。

「ホヤはヒトにもっとも近い無脊椎動物。つまり、我々と同じ先祖をもつ同じルーツの生物です」(笹倉靖徳さん・同センター長)。

幼生はオタマジャクシのような形なので、ヒトの祖先だといわれても、なんとなく納得できますが、成体はヒトと体の構造がまるで違うように見えます。でも、笹倉先生はとても似ていると教えてくれました。

「ホヤは、ヒトの口から喉にあたる部分が体のほとんどを占めている生物ともいえます。体の大部分を占める鰓嚢(さいのう)が喉にあたり、鰓嚢を包むようにあるのが内柱で、餌の植物プランクトンを絡め取る重要な器官です。この内柱は甲状腺の原点ではないか、と考えられているのです」

甲状腺は成長を司るホルモンを分泌する器官で、哺乳類だけでなく、魚類、両生類、鳥類にも存在します。

「甲状腺ホルモンはヨウ素を材料に作られます。ヨウ素は藻類、つまり植物プランクトンに多く含まれています。ホヤは植物プランクトンを餌にして成長します。このホヤの内柱が、長い年月かけて、甲状腺へと変化していったようなのです」

陸生生物にとっての甲状腺は海で暮らしていた記憶でもあるのです。奇妙な形をしたホヤが私たちと繋がっているなんて、不思議な気がしますね。

次回は、ホヤはどのように養殖されるのか。そして東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故がもたらしたホヤ事情について考えてみましょう。

クリスマスに始まるホヤの養殖

マボヤの主産地は、岩手県宮古市付近から宮城県の牡鹿半島に至る三陸沿岸です。ダイバーが潜って天然のマボヤを採取する地域もありますが、市場に出荷されるほとんどは養殖生産されたものです。

ホヤの養殖は1905年(明治38)ごろ、宮城県唐桑村(現・気仙沼市唐桑町)の畠山豊八という人が始めたといわれています。

養殖するには種となるホヤの幼生をたくさん確保しなくてはいけません。畠山さんは、船の錨をつなぐロープに小さなマボヤが付着することにヒントを得て、産卵期にロープに使用しているヤマブドウのつるを海中に浸して、マボヤの幼生を採取することに成功しました。

ホヤの幼生が付着しやすいように改良が重ねられ、現在ではカキの殻を使った採苗器が主流になっています。

ホヤの産卵は11月から1月下旬で、この時期になると天然・養殖のホヤが一斉に産卵します。

牡鹿半島東部の鮫浦湾奥に位置する谷川浜(やがわはま)はホヤの種苗採取に適している海域として有名で、自ら育てるとともに、他の地域の養殖業者向けにホヤの種苗販売もしています。

幼生を付着させる採苗器には、たくさんのカキ殻が必要となりますが、牡鹿半島はカキの養殖が盛んで加工工場が数多くあります。そこで大量に排出されるカキ殻を採苗器に再利用しているのです。

養殖筏のロープに吊るす採苗器の写真
養殖筏のロープに採苗器を吊して、ホヤの幼生の付着を待つ

産卵のピークはクリスマスの頃、冬至の大潮だといわれています。近年では暦に頼るだけでなく、産卵時期が近づくと、プランクトンネットを引いて海中の卵や幼生の数を計測し、最もよいタイミングを見計らって採苗器を設置する地域もあります。

地域によって設置方法は若干異なりますが、谷川浜ではブイとロープでできた養殖筏(いかだ)から、採苗器8連を1組にして、水深6㍍くらいに垂らし、幼生の付着を待ちます。

カキ殻に付着した幼生は、5月ごろになると、黄色い粒をした水饅頭のような形で目に見えるようになり、7月ごろになると赤く色づき、トゲトゲをもった親と同じ形になります。一つのカキ殻には多いときで100個ほどの稚ホヤが付着します。

「1年コ」と呼ばれるホヤの写真
「1年コ」と呼ばれるカキ殻に固着して半年くらいのホヤ

この状態のホヤが種苗として販売され、トラックや船で各地の養殖場へと運ばれていきます。

養殖場では、この稚ホヤが付着したカキ殼を取り外し、養殖用ロープに等間隔に数枚ずつ挟み込む「分散」と呼ばれる作業を行ない、これを養殖筏から海中に吊るします。この状態のホヤを「1年コ」と呼びます。

採苗してから2年くらいはあまり大きくなりませんが、その後の半年で急速に成長し、採苗してから2年半後の初夏、「3年コ」と呼ばれる状態になると収獲されます。さらにもう1年置いてから出荷するものを「4年コ」と呼びます。

「3年コ」のホヤの写真
ふた冬越した「3年コ」。あと半年で出荷できる状態

収獲するときは船上にロープごとホヤを引き上げると、一つずつもぎ取り、選別して大きさごとに分けます。これを漁港まで運び、契約している業者に引き渡します。業者は殻付きで出荷するほか、加工品用に殻を取り除き、むき身にして出荷します。

水揚げされたホヤの選別の写真
水揚げされた大量のホヤは一つずつ手作業で選別される

原発事故で様変わりしたホヤの養殖事情

2011年に起きた東日本大震災で、三陸地方のホヤ養殖施設はほぼ全壊してしまいました。

震災前、ホヤの全国生産の8割以上が宮城県でした。しかし、ホヤは珍味として知名度こそ高いものの全国区の食材ではありません。では、宮城県で生産された大量のホヤはどこに販売されていたのかというと、ほぼ7割が韓国へ輸出されていました。

韓国ではホヤを食べる食文化があり、人気の食材です。韓国内でもホヤは養殖されていましたが、2000年代半ばにホヤの成長を妨げる病気が蔓延し、生産量が減少。そういう背景もあり、日本からホヤを大量に輸入していたのです。

「チャガルチ市場」のホヤの写真
釜山にある韓国最大の海産市場「チャガルチ市場」のホヤ

震災後、三陸のホヤ養殖業者は震災前と変わらない韓国の消費を見込んで、ホヤの養殖に取り組みました。しかし、東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射性物質による海洋汚染を理由に、韓国政府は13年から東日本太平洋側8県(青森・岩手・宮城・福島・茨城・千葉・群馬・栃木)で水揚げ・加工された水産物の輸入を禁止しました。

大口の販路が断たれ、大量のホヤが行き場を失うことになりました。収獲期を過ぎても海中にほうっておくとホヤが腐り、海の環境を悪くしてしまいます。そこで収獲されたホヤは漁協を通じて買い取られ、焼却処分されることになりました。生産されたホヤの半分以上が廃棄処分されているのです。*註

処分に伴う損失は、東京電力が補償するので、とりあえず漁業者の収入は確保されました。漁協も震災前よりも手数料収入が増えました。しかし、漁師にしてみれば、食べてもらうために育てた命あるホヤ(ヒトにもっとも近い無脊椎動物)を、ゴミのように処分するのは、やりきれないものです。しかも、東京電力は補償費用を電気料金に転嫁しますから、最終的には国民が負担しているわけです。

では、韓国が輸入を再開すれば、三陸のホヤの状況はよくなるのでしょうか?
次回はホヤの未来と私たちができることについて考えてみましょう。

*註=ホヤの焼却処分が行われたのは、2016年約7600トン、17年約6900トン、18年約 390トンの3年間。それ以降は行われていません。

前回述べたように、東日本大震災前はホヤの全国生産の8割以上が宮城県で、生産されたホヤの約7割は韓国に輸出されていました。

ところが、震災後、韓国政府は原発事故による放射性物質の海洋汚染を理由に、東日本太平洋側8県で水揚げ・加工された水産物の輸入を禁止しました。大口の販路が断たれ、大量のホヤの多くが行き場を失いました。

それだけではありません。

震災前、北海道ではほとんどマボヤを生産していませんでしたが、現在は全体の生産量の3割近くを占めています(註:2018年現在)。北海道は韓国の輸入禁止の対象地域ではないため、韓国に輸出できるのです。

三陸のホヤを取り巻く状況は大きく変わってしまいました。でも、嘆いてばかりいてもしょうがありません。それならば、と他国に頼らない、国内でホヤの需要を増やそうという取組みが動き出したのです。

定番のホヤ酢の写真
定番のホヤ酢

間違いだらけのホヤの常識

ホヤの旬といえば夏。とくに梅雨時のホヤが美味しいとされています。食べ方としては「刺身」、キュウリと合わせる「ホヤ酢」が代表でしょう。

ホヤは「甘み・苦み・酸味・塩味・うまみ」と味の5要素をすべて持つ珍しい食材です。その複雑な味わいはブルゴーニュ産の高級ワインのようなもので、単純な味覚に慣れてしまった人には伝わりづらいかもしれません。万人受けする食材ではありませんが、好きな人には唯一無二の存在です。

とはいえ、「聞いたことはあるけれど食べたことはない」という人も多いホヤ。しかも、ホヤは臭いという誤ったイメージだけは伝わっていて、わざわざ食べなくてもいいや、と思う人もいるはずです。

「関東の人は居酒屋などで食べてひどい目にあった。関西の人はそもそも食べたことがないという人が多い」と言うのは、ホヤの普及活動に励む佐藤文行さん(ほやほや屋)。

「パクチーのように好きな人はとことん好きというのがホヤです。なにも、まずいものを東北復興支援のために我慢して食べろというわけではありません」

ホヤの普及に尽力する佐藤文行さんの写真
ホヤの普及に尽力する佐藤文行さん

冷凍しても味は落ちない

地元のホヤ好きですら、ホヤを誤解していると佐藤さんは言います。

「夏の食べ物というイメージが強く、秋になると見向きもしません。ホヤは冷凍解凍すると味が落ちるという思い込みも強い。私はナマ原理主義者と呼んでいますが、地元ほどナマ原理主義者が多い。いわば抵抗勢力(笑)。

でも、冷凍するとむしろ甘味が増して美味しくなるのです。一番状態のよいときに収獲して冷凍しておけば、周年、食材として使えるのです」

佐藤さんは旬の7月に1年分のホヤを仕入れています。仕入れたホヤは瞬時に処理し、剥き身にして急速冷凍します。こうすることで、味、食感、香り、歩留まりがまるで違うのだとか。

より多くの人にホヤを食べてもらうには、どうすればいいのでしょうか。

ホヤは加熱しても美味しい

「ホヤ好きを増やすことも大切ですが、好きな人がこれまでの5倍ホヤを食べるようにするほうが、はるかに簡単です。でも、いくら好きでも生の状態で5倍食べるのは難しいですよね」(佐藤さん)

ホヤの需要拡大を妨げているもうひとつの思い込みが「ホヤは生に限る。加熱したら美味しくない」という先入観。これも打破しなくてはと佐藤さんは考えています。

「カキも生ガキは苦手でもカキフライは大好きという人はいます。そして、カキにはカキグラタン、カキ鍋などいろいろなメニューがあります。その手のメニューがホヤにないだけ。シーズンオフには生食以外で食べてもらうこと。それには簡単で美味しいメニューを浸透させるのが一番です」

なぜ佐藤さんはホヤの普及活動にここまで熱心にかかわることになったのでしょうか。

「私は塩竈のかまぼこの製造業者でした。販路が断たれて大量に余ったホヤを練り製品に使えないか、と漁協から相談されたのが始まりです。試作を重ねましたが、ホヤは練り物には向いていない。そこで発想を変え、むしろ全く新しいホヤ料理を提案すべきではないかと思い、地元の塩竈にホヤ専門店を開店しました」

新メニューで広がるホヤの魅力

試行錯誤を重ねて生まれたのがホヤの唐揚げ「ほや唐」です。ホヤ自体の旨みが強いので、鶏肉のように調味液に浸して下味をつける必要がありません。片栗粉をまぶして揚げるだけでいい。生のホヤは揚げると破裂して油が飛ぶので、唐揚げには向いておらず、冷凍解凍したホヤだからこそ可能なのだとか。

ホヤの唐揚げの写真
ホヤの唐揚げ

冬にオススメなのが、昆布を浸した鍋に解凍したホヤをさっと通してポン酢で味わう「ホヤしゃぶ」です。湯にくぐらせる回数で食感や味が変化するので、しゃぶしゃぶするのが楽しいうえに、ホヤから出汁が出るので、あとの雑炊がこれまた絶品です。

ホヤと仙台せりのしゃぶしゃぶの写真
ホヤと仙台せりのしゃぶしゃぶ

ホヤを使った新しいメニュー作りの輪は急速に広がりつつあります。ホヤの美味しさを知ってもらい、宮城県の新しい名物として定着させ、消費を拡大していくために、県内の飲食店が協力して「ほやフェア」や「ほやナイト」を開催し、様々なオリジナルメニューが考案されています。

新メニューは天ぷらや茶碗蒸しといった和食だけにとどまりません。中華はもとより、チーズやトマト、オリーブオイルとの相性もよいので、フレンチやイタリアンのシェフも、ホヤの素材としての面白さに惚れ込んで、オリジナルレシピを開発しています。

実はトマトやチーズとの相性も抜群だの写真
実はトマトやチーズとの相性も抜群だ

「仙台の2大名物といえば〈牛タン〉と〈笹かま〉です。しかし、牛タンはほとんどがアメリカやオーストラリア産ですし、笹かまの原料となるスケトウダラといえばアラスカ産。しかし、ホヤは地元宮城産で100%まかなえます。仙台の新名物になるだけのポテンシャルをホヤは持っているのです」(佐藤さん)

次に宮城県に行くことがあったら、ぜひホヤを味わってみてください。いや、どんな風に料理されているのか、ホヤの新メニューを食べに宮城県へ行こうじゃありませんか。