Web版 解説ノート
2024年2月20日(火)更新
八戸の歴史はイカ漁の歴史。
2024年2月20日(火)更新
八戸に水揚げされたイカの種別割合
青森県は日本一のイカ漁獲量を誇り、八戸は最大のイカ水揚げ地です。
さまざまな漁船が各地で漁獲したイカを八戸に水揚げします。大型・中型イカ釣り漁船は日本周辺のスルメイカに北太平洋のアカイカ。小型イカ釣り漁船、底曳き網漁船、まき網漁船は八戸前沖等のスルメイカ。
2020年、八戸漁港に水揚げされたイカはスルメイカ52%、アカイカ47%。
スルメイカは日本で最も多く漁獲されるイカで、イカ漁獲量の6~8割を占めます。次に多く漁獲されるのがアカイカで、主に惣菜などの加工用原料となります。そのほとんどが八戸漁港に水揚げされます。
大量のイカをさばくために、八戸には三つの魚市場があります。
第一魚市場には、まき網船と小型イカ釣り漁船で漁獲された生鮮スルメイカが水揚げされます。
第二魚市場には、主に底曳き網漁船により漁獲された生鮮スルメイカとヤリイカ。
第三魚市場には、中型イカ釣り漁船で漁獲された船凍スルメイカ、船凍アカイカが水揚げされます。
一部のイカ釣り漁船は、スルメイカの回遊に合わせて海域を広く移動しながら操業します。スルメイカはどんな回遊をするのでしょうか。
スルメイカは主に日本海で獲れる「秋生まれ群」と、主に太平洋で獲れる「冬生まれ群」に分けられます。
どちらの群も孵化後はエサの豊富な東北や北海道の海へ回遊、成長すると、やがて産卵場まで南下して産卵し、その一生を終えます。
回遊ルートは、「秋生まれ群」が日本海を北上し、日本海を南下するのに対し、「冬生まれ群」は、太平洋を黒潮とともに北上しますが、南下するときは日本海側を通ります。
八戸はなぜイカの町になったのでしょう。200海里時代前に、海外との操業の交渉を務めたこともある八戸漁業指導協会の熊谷拓治会長にお聞きしました。
「戦後、大勢の若者が復員してきましたが仕事がない。ただ、浜には老巧船があったので、道具を自作してイカを釣り始めたのです」
なかでも「浅利式」と呼ばれる釣具は、糸が絡みづらく、深さに関係なく一度にたくさん釣れるスグレモノでした。昭和30年代になると円筒形の大きなリールで糸を巻き上げる「クルマ巻き」が考案され、さらに漁獲の効率があがりました。
「ただ、たくさん釣れても、当時の八戸には加工場がほとんどありませんでしたから、売れ残ったイカは投げ捨てられ、海に浮いていました。
そこへ、頭のいい人が現れ、釣り上げたイカを整理して箱に入れ凍結するシステムを発明したのです。すると、イカを加工して商売しようと加工屋さんも増え、八戸漁港の処理能力はあがっていきました」
イカをたくさん積めるように船は大きくなりましたが、稼げば稼ぐほど税金もガッポリ取られます。
「それなら、新しい船を建造して減価償却するほうがいい、とみんなが5年ごとぐらいに新造船に切り替えるものだから、船はどんどん大型化し、八戸はイカの水揚量日本一となっていったのです」
世界のイカ漁場を
開拓した八戸の漁民。
八戸のイカ漁は日本周辺の海域にとどまりませんでした。
船が大型化して、遠くまで行けるようになると『外国でイカはどうなっているか、世界を見てみようじゃないか』ということで、大型イカ釣り漁船の船主8人が漁業視察に出かけました。
「最初に向かったのはカナダのニューファンドランドでした。でも、カナダの漁業者にイカの話をしても、話が通じない。イカの絵を描いて見せると『あー、大西洋のゴミか。見たかったら夜、また来い』と言われ、夜に小さなボートで沖に出たんです。で、懐中電灯で海面を照らすと、イカがうわーっと集まってきて、山のようになったといいます」
それからアメリカ、南米、NZと回りました。世界中どこにでもイカはいることがわかりました。でも、日本みたいに食べたり、獲ったりはしていない。日本周辺のイカの漁獲量が落ちていたこともあり、外国で操業することが決まりました。
「最初はNZで漁業許可を得てスルメイカ。それからアルゼンチン沖のイギリス領フォークランドに入ると、驚くほどの量のイカが獲れました。
日本から40日間かけて来て、イカを釣って、また40日間かけて帰るのでは時間がもったいない。『1万トンクラスの冷凍運搬船を呼べ』となって……。フォークランド紛争直後、80年代前半の話です」
誰も見向きもしなかったイカがお金になることを世界に示し、漁場を開拓したのは八戸の漁師といっても過言ではありません。やがてイカは世界中で消費されるようになりました。
1977(昭和52)年、米国、ソ連、カナダ、欧州諸国が200海里水域を設定します。操業を継続するには沿岸国との交渉が必要となりましたが、次第に外国漁船排除の傾向が強くなり、海外での操業がだんだん厳しくなっていきました。
海外漁場の喪失等により日本のイカ漁獲量は減少傾向が長く続いています。特に近年では、日本周辺海域でのスルメイカの大不漁が深刻な問題となっています。
深刻なスルメイカの不漁問題。
海で何が起きているのか?
不漁の理由は定かではありませんが、スルメイカの産卵場である東シナ海で続いた低水温がイカの孵化を妨げたのではないか等の「海の環境変化」が有力な説の一つです。
熊谷さんはこんな経験を語ってくれました。
「フォークランドで5、6年操業したときのこと。イカがさっぱりあがらなくなったんです。報告を受け、衛星電話すると、漁労長が『なんだか海がきれいなんだ』って。あの海域は牛乳を撒いたように海が白濁していたんですが、今は海の底まで見えるようだって。つまりプランクトンがいないということですね。だからイカもいないんじゃないか、と。
何が起きているのか情報を集める と、地球が暖かくなって南極の氷が溶け、冷たい真水が大量に海に流れ込んだせいで、周辺のプランクトンが死んでいるという報告があって。そのときですね、『温暖化』という言葉を初めて聞いたのは」
いったい海に何が起きているのでしょう。いつになったらスルメイカは戻ってくるのでしょうか。
不思議の国のイカとタコ
不思議の国のイカとタコ
近年のイカの不漁は深刻です。解説ノートから「頭足類とはどんな生物なのか」とイカの水揚げ日本一の「八戸のイカ漁業」をピックアップしました。